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大谷&山本選手が会食した高級和食店のオーナーが経営する「ノブ」のセクハラ訴訟 その後どうなったのか?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
ロサンゼルス郊外にある“Nobu Malibu”。写真:welikela.com

 ロサンゼルス・ドジャースに入団した大谷翔平選手がビバリーヒルズにあるセレブ御用達日本料理店「MATSUHISA(マツヒサ)」で山本由伸投手のドジャース入団祝いの会食したことが報じられた。同店オーナーでセレブ・シェフとして世界的に知られている松久信幸氏が、両選手と一緒に写っている3ショットの写真(下)をインスタグラムに公開している。

セレブ・シェフ松久信幸氏(写真中)が経営する高級和食店MATSUHISAで会食した大谷選手と山本投手。画像:松久氏のインスタグラムより
セレブ・シェフ松久信幸氏(写真中)が経営する高級和食店MATSUHISAで会食した大谷選手と山本投手。画像:松久氏のインスタグラムより

 そう言えば、あの件はどうなったのだろうと思った。あの件とは、松久氏が世界で約50店舗展開している「NOBU(ノブ)」のマリブ店“Nobu Malibu”を相手どって起きたセクハラ訴訟の件である。

 ロサンゼルス郊外のマリブ市の海沿いあり、レオナルド・ディカプリオ、ジャスティン・ビーバー、ブラッドリー・クーパー、ビヨンセ、マドンナなど多数のハリウッド・セレブ御用達の店となっている“Nobu Malibu(ノブ・マリブ)”は、9月、2人の女性従業員からセクハラで提訴され、アメリカの主要メディアに報じられた。その件については、10月16日の投稿「日本のメディアはまた見て見ぬふり? 米セレブ御用達日本料理店に対して起きた50万ドル請求セクハラ訴訟」で書いたが、そのセクハラ訴訟はその後どうなったのか?

50万ドルの損害賠償を求めるセクハラ訴訟

 ちなみに、提訴した“Nobu Malibu”の女性従業員は、訴状で、バーのマネージャーにお尻を撫でられたり、両手を拘束されて首筋にキスをされたり、ペニスを擦り付けるような姿勢を取られたりされたと訴えている。

 訴状ではまた「レストラン側が従業員に客の気を引くように振る舞うよう薦めたり、“露出度の高い黒い制服”の着用を義務づけたりして、従業員を客やマネージャーによる性的誘惑にさらし、従業員の保護を規定している企業ポリシーに遵守していない」、「ハリウッドの輝けるスターたちに近いことや『お客様を第一に喜ばせる』という「NOBU」のモットーの下、原告や若い女性従業員たちは「NOBU」の華やかな評判や自分たちの仕事を維持するために、あからさまな性的誘惑や虐待に耐えている」とも述べられている。

 2人の女性は、ジェンダーに基づく従業員差別、ハラスメント、報復、性的暴行などによるダメージを受けたとして、それぞれ、最低50万ドルの損害賠償と弁護士料の支払いを求めている。

「ノブ」側は損害賠償責任を否定

 その後の報道によると、このセクハラ訴訟については、11月、レストラン側はマネージャーと客によるセクハラを受けたとして9月13日に提訴した23歳の女性従業員の申し立ての全てをおおむね否定、レストランに損害賠償の責任はないと述べたと報じられている。

 法廷文書の中で、「NOBU」の弁護団は、この女性従業員の訴えは時効と原告の「自身の行為と行動方針」によって全部または一部が禁止されていると主張し、従業員によるその女性従業員への悪行や違法行為に関する「NOBU」の責任も否定しているという。また、女性従業員は職場紛争を仲裁する拘束力のある合意をしており、女性従業員の懲罰的損害賠償請求は違憲であり、訴訟の却下と、訴訟費用や賠償金の支払いを女性従業員に対して求めているという。

バイデン氏はセクハラでの紛争前仲裁合意を無効化

 「女性従業員は職場紛争を仲裁する拘束力のある合意をしている」とあるが、彼女は、雇用される際に、仲裁合意をしていた可能性がある。多くの米国企業は、雇用契約を結ぶ際、会社との間で紛争が起きた場合、民事訴訟によってではなく、裁判外の紛争解決手続きにより、会社が指定する第3の仲裁人を通じて解決を図るという条項を設けているからだ。

 しかし、仲裁合意についてはある変更が加えられている。2022年3月、バイデン大統領が「性的暴行及びセクハラに関する強制仲裁撤廃法(Ending Forced Arbitration of Sexual Assault and Sexual Harassment Act of 2021)」に署名して、連邦仲裁法を改正したのだ。この改正により、セクハラや性的暴行の申し立てに関する争いにおいては、紛争前に合意された仲裁合意条項は無効となった。つまり、この改正により、セクハラや性的暴行を受けたと主張する者は、紛争発生後、仲裁か法廷か、どのような法的手段を取るか決定する自由を得られるようになった。

 改正の背景には、MeToo運動がある。改正前は、性的暴行やセクハラが生じても法廷に持ち込まれることなく、企業内で秘密裏に対処することが可能になっていたため、加害者が保護され、被害者は泣き寝入りせざるを得ない状況があった。しかし、MeToo運動がこの問題に光をあてたことが改正に繋がった。

 もっとも、改正されたこの法律は不明なところが多いと指摘されている。従業員が複数の請求原因を主張し、その1つがセクハラまたは性的暴行である場合、どのような展開になるのか不明だというのだ。この女性従業員の場合も、ジェンダーに基づく従業員差別、ハラスメント、報復、性的暴行など複数の請求原因を主張している。(参考:https://japanese.pillsburylaw.com/siteFiles/39311/Legal%20Wire%20128%20ver2.pdf)その意味で、改正された連邦仲裁法の下で、この女性従業員のケースがどのように展開するのか注目される。

共同経営者デ・ニーロも性差別訴訟されていた

 ところで、「MATSUHISA」と「NOBU」の共同経営者である俳優ロバート・デ・ニーロも、元アシスタントに性差別で訴えられていた。元アシスタントはデ・ニーロが彼女を「職場の妻」扱いしたり、暴言を吐いたり、彼女に背中を掻くよう求めたりして気持ち悪かったと訴えていた。

 元アシスタントは11月、この訴訟で勝訴、デ・ニーロの会社「カナル・プロダクションズ」は彼女に120万ドル支払うよう命じられた。もっとも、この訴訟では、デ・ニーロ個人に対しては責任が求められなかった。

現在は証拠開示段階

 “Nobu Malibu”に対するセクハラ訴訟は今、どんな状況なのか? 女性従業員の弁護士に問い合わせると、以下の回答が来た。

「このケースは、現在、書面で情報をやりとりする証拠開示段階にある。ハラスメントをしたとされる人物の訴状に対する回答は来月が期限となっている。弁護士を通じて当事者全員が出廷したら、我々は訴状で申し立てられている行為に関して、事実がどの程度争われているかを判断する立場になる。我々は訴状で申し立てられていることを確認するために証言録取を行う予定だ」

 文藝春秋電子版によると、大谷選手はWBCメキシコ戦の前にチームメイトとともに「NOBU」のマイアミ店を訪れている。“Nobu Malibu”にも、大谷選手はいつか訪れることがあるかもしれない。訴訟の行方や裁判所の判断に注目したい。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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