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「変だ。ロシアや中国を理解する方が簡単」トランプ氏、ペロシ議長宅襲撃事件に関して陰謀論を展開

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 米中間選挙まであと1週間足らずとなるなか、トランプ氏が、1日、保守系のラジオに出演し、下院議長のナンシー・ペロシ氏の夫ポール・ペロシ氏が襲撃された事件について陰謀論を捲し立てた。

2人は知り合いで、ガラスのドアは内側から破られていた?

 トランプ氏は目前にしている米中間選挙について「エキサイティングだ。共和党はよくやっている。犯罪やたくさんの悪いことが起きているので、“赤い波”に乗っている。興味深い」と発言、ペロシ氏宅で起きた襲撃事件について聞かれると「この数週間、あの家ではおかしなことが起きている。ペロシ氏の家のガラスは、外側からではなく内側から破られていた。ブレーク・インではなく、ブレーク・アウトだ」と述べた。

 また、「911(緊急通報)の録音は、ポール・ペロシ氏は侵入者を知っていたことを示唆しているようだ」というインタビュワーに対し、トランプ氏は「そうだ、そうだ。たくさんの悪いことが起きている。私はペロシのファンではないが、起きていることは悲しいことだ」と答え、また「この話にはもっと何かがある」と続けるインタビューワーに対し、「交通事故(5月28日、ポール・ペロシ氏は飲酒運転で衝突事故を起こし、起訴されていた)よりももっと何かある。全てがクレージーだ。窓は内側から破られており、事件が起きた時に警官が実際そこにいたのも変だ。ロシアや中国を理解する方がずっと簡単だ」と事件に対し、ヤラセ疑惑を投げかけた。

 ポール・ペロシ氏と同氏を襲撃したデビッド・デパペ容疑者が知り合いであると捉えられたのは、ポール・ペロシ氏から電話通報を受けたディスパッチャー(通信指令係)が警官に、「電話の男性(ポールさんのこと)は、その男(デパペ容疑者のこと)を知らないと話している。しかし、彼の名前はデビッドで、彼は友達だと言っている。男はちょっと混乱しているようだ」と伝えたことに起因しているようだ。つまり、このディスパッチャーの話からは、ポール・ペロシ氏は男のことを知らないと話しているが、同時に、彼の名前はデビッドで友達だと矛盾する発言をしているように取れる。ディスパッチャーが聴き間違えたのだろうか?

 また、サンタモニカ・オブザーバー紙は「恐るべき事実:ポール・ペロシは再び酔っ払い、金曜の早朝、男娼と争った」と題する記事を掲載、Twitterを買収したばかりのイーロン・マスク氏がこの記事のリンクをツイートすると、ポール・ペロシ氏はゲイとするハッシュタグがトレンディングになって、陰謀論が一気に拡散した。その後、マスク氏はツイートを削除。サンタモニカ・オブザーバー紙は検察側の求めで問題の記事を取り下げたものの、まだ答えられていない疑問があると、事件に対し疑惑を呈し続けている。

容疑者も否定

 しかし、ガラスは内側から破られたという陰謀論はデパペ容疑者自身によって否定されているようだ。デパペ容疑者は「ガラスのドアを割ることは大変な作業で、ハンマーが必要だった」と話したと報じられている。

 また、2人は知り合いであるという陰謀論については、供述書は「ポール・ペロシ氏は、通報の際、デビッドと名乗る男がナンシー・ペロシの帰りを待っている。同氏は彼を知らないと言った」と説明している。

 現場では何が起きていたのか?

 検察側が裁判所に提出した書類によると、ポール・ペロシ氏は容疑者を連れて家の1階に歩いて行き、ドアを開けることができたという。2人はドア口で警官の前でハンマーを奪い合った。警官が「ハンマーを下ろせ」と言った直後、デパペ容疑者はポール・ペロシ氏の手からハンマーをもぎ取ってあとずさりした後、突進、全力でポール・ペロシ氏の頭をハンマーで殴った。ポール・ペロシ氏は3分間ほど気を失った後、頭から出血したという。

 トランプ氏はこれまでも、テキサス州上院議員のテッド・クルーズ氏の父親はジョン・F・ケネディーの暗殺に関与していたとか、2020年の大統領選は盗まれたなどの陰謀論を展開してきた。

 トランプ・ジュニア氏も今回の陰謀論に乗って、ハンマーと白いパンツの画像と共に「僕のポール・ペロシ・ハローウィン・コスチュームの用意ができた」とツイート。白いパンツはデパペ容疑者がポール・ペロシ氏をハンマーで襲った際に身につけていたという噂があるからのようだ。

 中間選挙では、下院選は野党共和党が多数派を奪還し、上院選は拮抗すると予測されている。根拠のない陰謀論は、トランプ氏の陰謀論にすっかり慣れきってしまった有権者にどのような影響を与えるのだろうか?

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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