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アメリカ独立記念日に起きる“第三次世界大戦” 花火大会の横ではダーウィンの悲劇が起きていた

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
花火の音が原因で轢死したダーウィンはポスターで「花火が怖い」と訴える。筆者撮影

 各地で盛大な花火大会が開かれるアメリカの独立記念日。

 しかし、カリフォルニア州ロサンゼルス郡サンタモニカ市では1991年を最後に、桟橋では花火が打ち上げられていない。なぜ、ビーチタウンとして世界的に知られる観光地で花火が上がらないのか? そんな質問をよく耳にする。

 その答えは1986年の独立記念日に遡る。サンタモニカの地元紙“サンタモニカ・オブザーバー”によると、同年、サンタモニカでは、花火を見にきた人々による暴力やギャング関連の銃撃が多発し、16歳の少年が命を落とした。

 サンタモニカ市は混乱が起きるのを避けるため、花火を夜ではなく夜明けにあげるよう変更したが、今度は、花火を見ようと前日から徹夜した人々が問題を起こした。1991年の独立記念日の早朝には2件の銃撃事件と20件の刺傷事件が発生、その日を最後に独立記念日の花火大会はほとんど開催されなくなり、現在、同市では、花火を打ち上げることは違法となっている。

ダーウィンの轢死

 しかし、毎年、独立記念日の前日か前々日には、ビーチから花火の音が聞こえてくる。ある会員制のビーチクラブがあげる花火の音だ。違法なのになぜ? 

 実は、そのビーチクラブのメイン・アドレスは花火を禁止しているサンタモニカ市となっているものの、土地はロサンゼルス市にも属しているところがあるため、ビーチクラブはロサンゼルス郡から許可を得て花火を打ち上げているのだという。

 会員向けにあげている花火だが、サンタモニカの市民もビーチや近くの公園からこの花火を楽しんでいる。

 しかし、昨年、悲しい出来事が起きた。散歩に連れ出されていたダーウィンという名の犬が、ビーチクラブが打ち上げた花火の音に過剰に反応、飼い主が握っていたリードを振り切って走り出し、ハイウェイを走る車に轢かれて死んだのだ。このビーチクラブは、近隣住民に花火を打ち上げることを事前に通達しておらず、そのため、ダーウィンは散歩に連れ出されていたという。

サンタモニカ市では花火が禁止されているため、ビーチクラブは駐車場があるロサンゼルス郡の消防局から許可を得て花火大会を開催。筆者撮影
サンタモニカ市では花火が禁止されているため、ビーチクラブは駐車場があるロサンゼルス郡の消防局から許可を得て花火大会を開催。筆者撮影

 獣医のカイト・ベッチェル氏によると、多くの動物は、ダーウィンのように、花火の閃光や音に敏感に反応するという。

「動物は花火を目にしたり花火の音をきいたりすると恐怖を感じます。聴覚が人よりも敏感なので、花火の音は動物にとって辛いものなのです。動物は火に対する恐怖と花火のノイズに危険を直感し、危険から逃れようとする行動に出るのです。犬はフェンスを乗り越えて飛び出し、車と衝突することもあります」

 ダーウィンの轢死を問題視した、動物保護団体PETA(動物の倫理的扱いを求める人々の会)は、ビーチクラブに、今年の花火大会を中止するよう書簡で嘆願、PETAプレジデントのイングリッド・ニューカーク氏は「花火の爆発音に怖がった犬は、飼い主の元から飛び出します。怖がった野生の生き物は巣から飛び出します。花火からは有害な物質も排出されるし、退役軍人には戦争の悪い記憶が蘇るのです」と訴えた。

第三次世界大戦が起きているような音

 ダーウィンの死から1年、今年の花火は中止になるのだろうか? それとも決行されるのか? ビーチを歩くと、PETAが砂の中に立てたポスターの中で、ダーウィンが悲しげに訴えていた。

「僕は花火が怖い。お祝いから花火を外して下さい」

 しかし、そんなダーウィンの願いも虚しく、7月2日夜、ビーチクラブでは盛大なパーティーが開かれ、花火が打ち上げられた。

 あるアニマル・シェルターのディレクターが「花火の音は、犬にとっては第三次世界大戦が起きている音のように聞こえるのです」と話している。花火の音はそれだけ犬には恐ろしい音に聞こえているということなのだろう。筆者も、人々の間近で打ち上げられた花火を見て、納得した。見る目にはエキサイティングでダイナミックだったが、同時に、空から降ってきそうなたくさんの火花と爆発音に恐怖感も覚えた。犬ならいっそう恐怖に襲われることだろう。

人々に近すぎると感じられた打ち上げ地点。迫力はあるが恐怖感も覚える。筆者撮影
人々に近すぎると感じられた打ち上げ地点。迫力はあるが恐怖感も覚える。筆者撮影

 ダーウィンのように事故に遭い、命まで落としてしまうのは悲劇的なケースだが、米国では花火が打ち上げられる独立記念日や大晦日に迷子になる犬が多い。ペットが行方不明になったという警告を出す機関“ペット・アンバー・アラート”によると、7月4日〜6日は迷子犬が30〜60%も増加、7月5日には、アニマル・シェルターは、保護されている迷子犬を探しにきた飼い主で一年で最も大忙しになるという。

花火からペットを守る方法

 前述のベッチェル氏は、花火大会からペットを守るために、飼い主に4つのアドバイスしている。

・ペットを家の中に入れておく。ちなみに、同氏は、ペットを花火の閃光や恐ろしい音から守るため、楽しい子供向けの映画を流しているという。

・ペットが逃げ出した時のために、蛍光色の首輪やネームタグをつけておく。また、首輪を無くした時のためにマイクロチップを装着することも重要。

・獣医にコンタクトし、ペットがリラックスしていられるような抗不安薬を処方してもらう。

・迷子になっているペットを見つけたら、ネームタグで飼い主にコンタクトするか、ネームタグをつけていない場合は獣医や動物管理局にマイクロチップをスキャンしてもらう。

 日本も、夏は各地で花火大会が行われる。飼い主はペットの様子を十分に気遣い、ペットの身を守るため、事前の準備に留意する必要があるのではないか。

(参考記事)

Problems in the Past Keep Fireworks Out of Santa Monica Today

PETA Attempts to Stop the Beach Club From Holding Annual Fireworks Display

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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