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中国に入れない! 上海行きデルタ航空便、航路半ば過ぎで米国に引き返す 何が起きたのか?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 オミクロン株による新規感染者が激増を続けるアメリカ。

 27日には、過去最多となる1日44万人超の新規感染者数が報告されたが、今、オミクロン株による大きな打撃を受けているのが航空業界だ。乗務員の感染が拡大しており、運航に必要な人員が確保できなくなっているため、アメリカでは、24日以降、3000便超が欠航となり、人々が大移動する年末のクリスマス・ホリデーに多大な影響を与えている。

 そんな中、12月21日、シアトルから上海に向かって飛行中の米デルタ航空機が、すでに6時間近く飛行していたにもかかわらず(シアトルー上海間の飛行時間は約11時間なので、航路を半分以上飛行していた)、シアトルに引き返すという事態が生じていた。

 そのため、引き返した便に搭乗していた乗客に問題が生じた。米国のビザが切れてしまう者が現れたり、搭乗前の新型コロナ検査の陰性結果が有効とされる時間が過ぎてしまったりしたのだ。この事態に対し、サンフランシスコの中国大使館はエアラインに対し抗議したという。

デルタ便が引き返したワケ

 なぜ、そんな事態が生じたのか?

 同機の搭乗者によると、“離陸後、中国当局が、入国規制の変更が起きたことをアナウンスした”というパイロットからの説明があったという。

 デルタ航空は、途中で引き返した理由について、上海の国際空港で新たに敷かれた新型コロナ防止のための機内清掃ルールに対応できないためと以下の説明をした。

「新たな機内清掃ルールに従うと、空港での飛行機の地上待機時間が予定より延びることになるため、オペレーション上、対応ができなくなった」

 しかも、その機内清掃ルールが敷かれたのが、上海に向けて飛行中の時であったため、引き返さざるを得なかったようだ。

 サンフランシスコの中国大使館は、アメリカー中国便の多くで出発が遅れたり運航中止になったりしていると発表している。

 台湾ベースのチャイナ・エアラインも、1月末まで、上海行きの便の一部を一時運航停止にしたり減便したりするという。エバ航空も2月3日まで同様の措置を取る模様だ。

 新たな機内清掃ルールが具体的にどんなルールなのかは不明だが、台湾の通信局によると、新たな消毒手順を行うために時間がかかっているという。

 入念になった消毒と清掃。

 背景には、中国国内での感染拡大と北京冬季五輪が約6週間後に迫っている状況があると思われる。

 感染が拡大し、ロックダウンされた西安市では、住民に複数回の検査を要求、市内での車の運転を禁止したり、食料品の買い出しを3日ごとに制限したりするという最も厳格な規制が導入された。

 そして、差し迫る北京冬季五輪。世界中から参加選手や関係者が訪れるのを前に空港での感染予防策を厳格化し、ゼロコロナ政策の下、水際対策で感染を封じ込めようとする中国の焦りが感じられる。

水際対策に効果なしと見たアメリカ

 一方、ウィズコロナ政策をとっているアメリカは、オミクロン株による感染拡大防止のため、入国禁止措置をとっていたアフリカの8カ国からの入国禁止を31日で解除する。CDCの推計によると、アメリカの新規感染者の58.6%がオミクロン株による感染。オミクロン株の市中感染が拡大する中、バイデン政権は水際対策にもはや効果を見出せなくなったのだ。

 しかし、バイデン政権は米国内でオミクロン株による感染が拡大し、欠航便が多数発生している状況を懸念しており、国内線搭乗時のワクチン接種証明の提示を義務化すべきとする世論も高まっている。バイデン政権の科学アドバイザー、ファウチ博士も「国内線の乗客にワクチン接種を求めることを考慮するのは正当かもしれない」と言及した。

 もっとも、乗客にワクチン接種証明の提示を求める場合、航空業界に与える経済的打撃は大きい。米環境リサーチグループの調査によると、飛行機の乗客の14%がワクチン接種を受けていない状況があるからだ。

 また、ブレークスルー感染をしている人々もいることから、ワクチン接種証明は搭乗時点で感染していないことを証明するものにはならないとする声もある。

 世界の航空業界が、感染力が強いオミクロン株にどう対処するのか注目されるところだ。

(参考記事)

Mystery of Why Delta Air Flight to China Turned Back to Seattle More Than Half Way Through Flight

Delta: Flight to Shanghai turned back because of COVID rules

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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