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新型コロナ 早過ぎる自宅待機令解除やレストラン屋外飲食は同居人とだけルール「バカげてる」の声 米LA

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
全米最大のワクチン接種会場となっているドジャース・スタジアム。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 「たくさん客が入ってますよ」

 ロサンゼルスのレストランで働く友人が、「自宅待機令」の解除に伴い、レストランの屋外での飲食サービスが再開されたことから、急に客足が増えたと話している。

 カリフォルニア州は、昨年12月、新型コロナウイルス対策としてICU(集中治療室)の空床率が15%未満となった地域に対して「自宅待機令」を発令したが、ニューサム州知事は、25日、「自宅待機令」を解除した。ロサンゼルス郡でも解除され、29日にはレストランの屋外での飲食サービスも再開されたことから(「自宅待機令」発令中はテイクアウトとデリバリーのサービスしか許可されていなかった)、人々は再開したレストランに2ヶ月ぶりに食事に出かけ始めたのだ。

 「自宅待機令」の解除にすぐさま反応するように動き始めた市民。それだけ、“解除”という言葉は「気を緩ませていいよ」というメッセージを市民に与えているように感じられる。

 実際、ツイッターには気が緩んでしまったことを示す投稿も散見される。

「カリフォルニアが自宅待機令を解除したぞ。パンデミックが終わったようだ」

「自宅待機令が解除されたから、誕生日に家族と会えるわ」

などの喜び勇む声から、

「解除された翌日から人出が戻ったのは全く酷いことだわ」

と嘆く声もある。

レストランの屋外飲食は同居人とだけ

 しかし、ロサンゼルス郡はレストランの屋外飲食サービスの再開に伴い、再び人が集まる状況を予測していたようだ。28日、郡保健局はルールを厳格化した。

 折しも、1週間後には、スポーツの大イベント「スーパー・ボウル」が開催される。人々が一緒にスポーツ観戦すれば、スーパー・スプレッダー・イベントが起きる可能性を懸念しての厳格化とも言える。

 以下がレストランの屋外飲食サービスに対する新ルールだ。

1. テーブルの間隔をこれまでの6フィート(約1.8メートル)から8フィート(約2.4メートル)に広げること。

2. テレビやスクリーンは通知が行くまでオフにすること。

3. 同じテーブルで食事をすることができるのは同じところに住んでいる人だけとし、その数は1テーブルにつき最大6人までとする。レストランは、客に、そのことを掲示板や口頭で伝えなくてはならない。

4. 客と接する従業員は、マスクに加えてフェイスシールドを着用すること。

 市民からは、同居人としか一緒に食事できないという厳格な新ルールに疑問の声があがっている。

「いったい、どうやって同じテーブルについている人々が同世帯に住んでいるということを確認するんだろう? ロサンゼルスの決定はバカげている」

「一緒に食事できるのは同じところに住んでいる人だけ? 外食する大きな理由は、他の家に住んでいる人々と集まるのに都合がいいからじゃないのか」

「一人暮らしの人やパンデミックで精神問題を抱えている人を完全に無視している決定だ。同世帯の人としか食事ができない。つまり、一人暮らしの僕は、誰とも食事ができない。アパートに一人で籠もっておけということなのか?」

 レストラン経営者もおかしいと声をあげている。

「同世帯に住んでいない客たちが来たら追い返せということ? 9割が同世帯に住んでいない客なのに」

「自宅待機令」解除は時期尚早

 ロサンゼルス郡がルールを厳格化した背景には、1日の新規感染者数が連日1万人を超えていた最悪の時期と比べれば減少してはいるものの、依然、新規感染者数も死者数も高い数で推移しているという現状がある。人口約1,000万人のロサンゼルス郡のこの1週間の1日の平均新規感染者数は6,555人、1日の平均死者数は209人。この数は12月に「自宅待機令」が出された時よりも多い。

 それにもかかわらず、ロサンゼルス郡は制限緩和の方向へと動いている。11月、郡保健局は5日間の平均感染者数が1日4,000人を超えるか、1日の入院患者数が1,750人を超えたら、レストランの屋外飲食サービスを禁じると発表していた。まだ、これらの数を超える状況が続いているものの、レストランの屋外飲食サービスが許可されたのは、明らかに、経済を優先した末の判断だろう。

 ツイッターでは「自宅待機令」の解除やレストランの屋外飲食サービス再開に対し、「バカげている」という声が多々あがっている。

「南カリフォルニアのICUのキャパは0%なのに、「自宅待機令」解除。意味がわからないわ」

「解除? 実際のところ、「自宅待機令」が出されてから何も変わっていないぞ」

「解除を喜んでいいんだか、悲しんでいいんだか」

「レストランはすぐに人でいっぱいになるよ。次の「自宅待機令」が出るのも時間の問題だな」

「また、たくさんの人々が亡くなることになるな」

 時期尚早の「自宅待機令」解除により感染者数が再び増加するのではないか? 医療関係者は懸念の声をあげている。

「我々は何かを学んだのかしら? 消防士は半分だけ消火して、残りは自然に消えればいいなどと思ったりしないわ。感染者数は再び増加するでしょう」(UCLAのナース)

「感染の波が起きる度、すぐにガードを緩め、緩めた代償を払ってきた。また同じ間違いを犯している」(カリフォルニア大学バークレー校、伝染病学名誉教授ジョン・シュワツルバーグ博士)

 ギャビン・ニューサム州知事は科学に則った上での「自宅待機令」解除だと訴えているものの、その背景には、「自宅待機令」を出したニューサム知事がレストラン側からプレッシャーを受けたり、リコール運動が起きたりしている状況があるのではないかという声も囁かれている。

 いずれにしても、「自宅待機令」解除の判断が正しかったかどうかは、数週間後の感染者数や死者数が教えてくれることになるだろう。

 ロサンゼルスほど感染状況は酷くはないものの、東京の「緊急事態宣言」も時期尚早に解除されれば「バカげている」という声があがることは必至。1ヶ月延長される方向で調整されようとしているというが、解除のタイミングは時期尚早とならぬよう十分に検討される必要がある。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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