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米・新型コロナ 緩い水際対策に賑わう青空レストラン、抗体保有率は1割以下 10月から感染者急増か?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
“青空レストラン”と化しているサンタモニカのショッピング通り。筆者撮影

 世界で新型コロナウイルスにより死亡した人の数が100万人を超えた。

 そして、この数はこれから数ヶ月の間に急増することが予測されている。ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)の最新予測によれば、来年1月1日までに、死者数は250万人を超える可能性があるというのだ。

 中でも、アメリカの状況は深刻だ。アメリカの新型コロナによる死者数は、現在、20万人超と世界最多。感染者数も700万人を超えた。1日の感染者数は4万人超で、1日の死者数は800人に迫っている。IHMEは、12月末までに1日の死者数は3,000人を超えて、全死者数は37万人を上回ると予測している。

 

 実際、増加傾向は現れ始めている。CNNの調査によると、21の州で、先週は先々週と比べて、少なくとも10%以上感染者数が増加した。

 IHMEディレクターのクリス・マレー博士はこう警鐘を鳴らす。

「人々が注意深くなくなっており、感染が起きやすい室内で過ごす時間も増えているので、秋冬に感染爆発が起きるかもしれない。10月から死者数が急増し、11月、12月には、増加が加速化する可能性がある」

アメリカでは10月から感染者数が急増し、12月31日までに、1日の死者数が3,000人を超えることが予測されている。出典:ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)
アメリカでは10月から感染者数が急増し、12月31日までに、1日の死者数が3,000人を超えることが予測されている。出典:ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)

緩い水際対策

 恐るべき状況が予測されているにもかかわらず、アメリカの水際対策が緩いことに驚かされている。

 筆者は9月上旬に日本からロサンゼルスに戻ったが、米国入国時にはPCR検査もされず、日本に帰国した時のように書類に自主隔離先の住所や電話番号などを記入するよう要求もされなかった。羽田空港のゲートで搭乗待ちしている時に、14日間自主隔離をするよう要請するアナウンスが流れただけだった。

 そんなわけなので、帰米後は、健康状態を確認する連絡も来なかった。入国者の追跡を行っていないのである。今も1日1,000人以上の感染者が出る日もあるロサンゼルスでこの状況である。入国した人々は野放しにされているのと同じだ。彼らが14日間きちんと自主隔離するのかも疑問である。

コロナ前のような人出

 驚きはさらに続く。自主隔離後、ロサンゼルスではトレンディーなショッピング通りの1つである、サンタモニカのサード・ストリート・プロムナードを歩いたが、6月下旬よりも通りははるかに人出が多い。まるでコロナ前に舞い戻ったような通りの状況に、人々の気の緩みを感じた。

まるでコロナ前のような人出に戻っているサンタモニカのサード・ストリート・プロムナード。筆者撮影
まるでコロナ前のような人出に戻っているサンタモニカのサード・ストリート・プロムナード。筆者撮影
レストランは広大なアウトドア席を設置。筆者撮影
レストランは広大なアウトドア席を設置。筆者撮影

 

 人の多さが目についたのは、レストランが広大なアウトドア席を設置していることも一因かもしれない。ロサンゼルスではレストランでの店内飲食は今も禁じられている。そのため、多くレストランが店頭にアウトドア席を設置して営業している。中には、隣の店の前まで席を拡大しているところもある。サード・ストリート・プロムナードは歩行者天国でもあるため、一帯は広大な青空レストランの様相を呈している。

 レストランのレセプション・デスクも屋外に設けられている。あるレストランに入ると、レセプション係に「着席したらマスクを外してもいいですが、店内のトイレに行く時はマスクを着用してください」との注意を受けた。しかし、アウトドア席とは言っても、人々がマスク無しで至近距離で会話している様子に疑問を感じずにはいられない。各テーブルにはメニューは置かれておらず、そのかわりに、隅にメニュー読み取り用のQRコードが貼られていた。食器はすべて使い捨ての紙製。アウトドア席であることから、食い逃げ防止のためだろう、料理注文後はすぐに支払いを求められた。

各テーブルには、メニュー読み取り用のQRコードが貼り付けられている。筆者撮影
各テーブルには、メニュー読み取り用のQRコードが貼り付けられている。筆者撮影

 日本発のレストランを見ると、残念ながら、一風堂は閉店してしまったが、牛角は店頭で営業を続けている。

ショップは続々閉店

 賑わう青空レストランとは裏腹、通りでは閉店に追い込まれたショップが目立つ。

 日本勢ではMUJIが閉店、GAP、GUESS、MAX STUDIO、AVOCADOなどアメリカで人気のアパレルショップも閉店し、店内は空っぽだ。キッチン用品店の「サ・ラ・テーブル」では閉店大セールが行われていた。APPLE STOREの入店は、オンラインで注文して商品のピックアップに来た客とスペシャリストにアポ入れをした客、サポートを得ようとジーニアス・バーの予約をした客に限定されている。そのため、店内の人影はまばらだ。

 また、閉店まで追い込まれていない小売店も入場制限を行っているからか、店内には活気がない。

サード・ストリート・プロムナードにあるMUJIも閉店してしまった。筆者撮影
サード・ストリート・プロムナードにあるMUJIも閉店してしまった。筆者撮影
キッチン用品店のサ・ラ・テーブルでは、閉店セールが行われていた。筆者撮影
キッチン用品店のサ・ラ・テーブルでは、閉店セールが行われていた。筆者撮影

 

 通りで週2回行れているファーマーズ・マーケットも入場者数を制限している。

 市内の公園は週日からピクニックをする人々でいっぱいで、拡張されたばかりのビーチの遊歩道もウォーキングやサイクリングをする人々の姿が以前より増えている。

サンタモニカのパリセーズ公園は、週日からたくさんのピクニック客で賑わっている。筆者撮影
サンタモニカのパリセーズ公園は、週日からたくさんのピクニック客で賑わっている。筆者撮影
拡張されたサンタモニカビーチの遊歩道。マスク無しでウォーキングする人の姿も目立つ。筆者撮影
拡張されたサンタモニカビーチの遊歩道。マスク無しでウォーキングする人の姿も目立つ。筆者撮影

コロナはフェイク

 また、同じ問題は続いている。これだけ感染者数が増えても、まだまだマスクをしていない人がそこここにいるという問題だ。サンタモニカ市はマスクをしていない人に罰金も科しているのだが、それでも、いまだマスクをしていない人々を見かける。「コロナはフェイクだ」という落書きもある。多くの感染者数が日々報告されているにもかかわらず、身近には感染者が1人もいないことを理由に、政府の陰謀だと訴える声もある。

 ちなみに、サンタモニカ市の場合、マスク非着用に対する罰金は1回目の違反では100ドル、2回目では250ドル、3回目では500ドルと上がっていく。違反した企業に対しては1回目が500ドル、2回目が750ドル、3回目が1,000ドルという設定だ。

 間もなく、感染者数の増加が懸念されている10月に入る。死亡率や入院者数が減少しているとは言っても、感染すれば、現在のところ致死率は季節性インフルエンザよりはるかに高い。

抗体保有率1割以下

 また、スタンフォード大学の調査により、アメリカでは7月時点で抗体を保有している人は9.3%と1割にも満たず、集団免疫達成にはほど遠いことも明らかになった。もっとも、抗体保有率は地域にもよるのだが、アメリカ北東部で27%と高く、トップはニューヨークで33%。一方、アメリカ西部では3.5%と低い。

 先日、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)長官のロバート・レッドフィールド氏が「アメリカ人の90%がまだ抗体を持っていない」と話していたが、抗体保有率が1割以下というのは同氏の発言と呼応すると指摘されている。

感染リスクが高い場所

 秋冬の感染拡大に備え、感染が起きやすい場所には十分に注意したい。

 ちなみに、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)所長のアンソニー・ファウチ博士が感染リスクが高いと警告しているのは、主に以下の3つの場所だ。

1. ジム:身体を動かすため息が荒くなることから、より多くの水滴が拡散される可能性がある。また、外気を取り込む設備がないところもある。CDCの調査では、過去2週間の間にジムに行った人の割合は、陽性者で7.8%だったのに対し、陰性判定を受けた人々では6.3%だった。

2. バー:市中感染が広がっている地域のバーは特に注意してほしいという。CDCの調査では、過去2週間の間にバーに行った人の割合は、陽性者で8.5%だったのに対し、陰性判定を受けた人々では5%だった。

3. レストラン:利用した人と利用していない人との間では、陽性者の割合に大きな差があるという。CDCの調査では、過去2週間の間にレストランで食事をした人の割合は、陽性者で40.9%だったのに対し、陰性判定を受けた人々では27.7%と開きがあったからだ。

 CDCの調査では、上記3箇所以外に、宗教的な集まりでも感染が起きやすいことが示されている。過去2週間の間に宗教的な集まりに参加した人の割合は陽性者で7.8%、陰性判定を受けた人々では5%だった。

 コロナ禍が続く中、日本にも気を緩め始めている人々が多いのではないか。ワクチンが行き渡るまでにはまだ時間がかかる。リスクの高い場所には十分に注意し、感染予防に取り組む必要がある。

(参考)

Twenty-one states are reporting increased Covid-19 cases as experts warn of a fall surge

Less than 10% of Americans had coronavirus antibodies as of July, study finds

Dr. Fauci Says These 3 Places Must Close to Avoid More COVID Surges

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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