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「“危険なウイルス培養皿”を生み出す東京五輪を中止せよ」米紙、安倍政権とIOCを痛烈批判

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
米教授が、世界的な公衆衛生危機の真っ只中に行われる東京五輪開催を批判。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 「オリンピックを中止せよ。パンデミックの真っ最中に、試合を行うのは極めて無責任」

 米国時間3月18日付の米紙ニューヨーク・タイムズ電子版がそんなタイトルの論説文を掲載し、東京オリンピック開催に疑問を投げかけた。

 論説文は、パンデミックにもかかわらず、国際オリンピック委員会(IOC)や東京オリンピック委員会がオリンピックを開くと主張し続けていることを非難。ヨーロッパやアメリカでスポーツイベントが中止される中、安倍首相が「感染拡大を乗り越えてオリンピックを無事予定通り開催したい」と述べたことを問題視している。

 著者は、「オリンピック秘史 120年の覇権と利権」の著者で、オレゴン州のパシフィック大学政治学教授のジュールズ・ボイコフ氏。

暗黒のホットゾーンに

 ボイコフ氏は強く訴える。

「オリンピックを推し進めると、巨大で、危険なウイルス培養皿が生まれるかもしれない。世界の公衆衛生のために、東京五輪は中止されるべきだ」

 ボイコフ氏はまた、CDC(米疾病予防管理センター)の「アメリカでは、1億6000万人〜2億1400万人が感染する可能性がある」という指摘を交えつつ、「世界中から選手や観客が訪れ、オリンピックは暗黒の新型コロナウイルス・ホットゾーンになる」と述べ、スタンフォード大学の感染症専門家の「オリンピックでは、たくさんの人が集まり、そして、世界中へと戻って行く。これは感染させるには完璧な方法だ」という見解も紹介している。

 今、アメリカでは、政府から「10人以上の集まりも避けてほしい」というガイドラインまで出され、人と人との接触を減らす「社会距離戦略」の徹底化が進んでいる。サンフランシスコでは外出制限令が出され、ニューヨーク州でも同様の外出制限令が検討されている。全米が2週間の自宅隔離に入るのではないかという声まで囁かれている。全土封鎖に陥っているヨーロッパの国々はもっと悲惨な状況だ。

 また、トランプ氏は「コロナ危機は7月か8月、それより長く続くかもしれない」とも言及。「スイス・メディカル・ウィークリー」によると、ある研究では、新型コロナは2020年〜2021年の冬まで流行のピークに達しないと予測されているという。

 安倍政権の「ダイヤモンド・プリンセス号」に対する後手後手の対応は、世界に日本政府の危機管理能力の無さを曝け出したが、今、世界がパンデミックにより近年類を見ない公衆衛生危機に襲われる中、安倍政権が東京五輪を推し進める姿は、世界の目には、まるで“平和ボケ日本”のように映るのではないか。

聖火リレー参加者が危険な状況に

 ボイコフ氏はさらに、東日本大震災と福島第一原発事故の被害を受けた福島県で聖火リレーがスタートすることも問題視している。グリーンピースが、聖火リレーが行われるルート沿いでホット・スポットを発見したからだ。

 ボイコフ氏は皮肉る。

「聖火リレーの参加者は危険な状況に置かれるかもしれないのに、IOCの本部があるスイス、ローザンヌのスタッフはそんな状況には置かれていない。今週、彼らの多くはテレワークを始めた」

金より公衆衛生が大事

 ボイコフ氏は、オリンピックを推し進める背後には“莫大な金”が絡んでいることも指摘。

 中止により、テレビ局は利益がとぶことになるし、五輪に莫大な政治資金を投入してきた安倍首相のような日本の政治家たちやIOCのオリンピック・ブランドはダメージを受けるというのだ。また、入札時の7.3ビリオンドルから26ビリオンドル以上に上昇した五輪の費用を回収しなければならないというプレッシャーもあるという。

 しかし、大切なのは金より人命や健康だ。ボイコフ氏は言い切る。

「財政的に無責任になるからといって、世界の公衆衛生緊急事態を悪化させていいということにはならない」

納税者は保険に入っていない

 筆者はそのボイコフ氏に話をきいた。

 同氏はオリンピック中止を訴えているが、日本の納税者に対して同情的だ。

「オリンピックが中止になったら、26ビリオンドルに膨れ上がった費用を回収するのはほとんど不可能でしょう。オリンピックの放送権を買っている米NBC局のような利権を持っている企業は、金融的損失を受けた場合に備え、保険に入っています。オリンピックが中止になると、莫大な利益を失うことになるので、保険には経済的インセンティブが組み込まれているんです。しかし、日本の納税者は、米NBC局が入っているような保険に入っていません」

 そして、通常、オリンピックのために使われる税金は、結局のところ、スポンサー企業やエリートたちの利益になっているというオリンピックの構造にも言及。

「一般的に、オリンピックは、人々のお金=税金により、企業が特権を得ていると指摘されています。同じことは東京オリンピックにも当てはまると思います。国民の莫大な税金がオリンピックに投入されていますが、お金を使い過ぎるというのは、常にオリンピックの問題です。そして、そのオリンピックから誰が利益を得るのかというと、リッチな人々、スポンサー企業、政界や経済界のエリートたちです。東京の中小企業や労働者たちは利益を得ないのです」

 安倍政権がオリンピックを推し進める背景には、政界や経済界のエリートたちが、税金から来る利益を失いたくないという理由があるということか。

独裁的な安倍首相の“嘘”

 また、ボイコフ氏は、新型コロナが生み出す危機的状況では、独裁的な政治家が利益を得ることも指摘した。

「新型コロナは、独裁的な政治家に利益をもたらします。公衆衛生危機というのは独裁政治を強化することができるからです。安倍首相は独裁的なリーダーシップを好んできました。彼はまた捏造したり嘘をついたりする能力も見せてきました」

 

 安倍首相の“嘘”について、ボイコフ氏はこう説明する。

「2013年、東京がオリンピックの開催候補地に入札した時、安倍首相はIOCのメンバーに“福島第一の状況はコントロールされている”と明言したのです。実際はコントロールされていなかったにもかかわらず。そんなペテンを働いた過去がある安倍首相ですから、彼の新型コロナに関する発表やオリンピックに関する発言に対して、日本の人々が懐疑的になるのは当然のことです」

 東京五輪まであと約4ヶ月。

 安倍政権、そしてIOCが、金より人の健康や命が重要であることに気づく日は来るのか?

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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