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ゴーン氏会見、プレゼンか?「スクリーンの文字が小さ過ぎて読めず」米紙皮肉る 日本人も逃亡を手助け?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
企業でプレゼンでもするかのように自身の正当性を訴えたゴーン氏。(写真:ロイター/アフロ)

「それは、企業のプレゼンテーションであり、法的防御であり、とりとめもなく長い攻撃演説だった」

 米紙NYタイムズは、レバノンで行われたゴーン氏の記者会見をこんな一言で表現した。

 さらにはこう皮肉った。

「彼は、事件の詳細を述べ、具体的なメールや検察官に対してした発言について論じ、仕上げに自分の主張を裏付けるためのドキュメントを披露した。しかし一つ問題があった。文字(会見場のスクリーンに映し出された書類の文字のこと)が小さ過ぎたために、会場にいる人は誰も読むことができなかったのだ」

 確かに、ゴーン氏が大きなスクリーンにドキュメントを映し出して説明する様は、ビジネス・プレゼンテーションの様相を呈していた。淀みなく、身の潔白と日産や日本の検察の不当性をまくしたてたゴーン氏だが、その姿はまるで、ビジネスの相手を必死に説得しているかのようにも見えた。

 実際、ビジネス・プレゼンテーションさながらに、競合他社の時価総額は上がったにもかかわらず、自身去りし後の日産とルノーの時価総額は落ちたことにも言及した。

「日産の時価総額は10ビリオンドル以上落ちた。ルノーの時価総額も5ビリオンドル以上落ちた」

華麗なパフォーマンス

 それにしても、長時間、手振り身振りを交えながら、力強く喋り続けたゴーン氏の機関銃トークのようなパフォーマンスに、記者たちは圧倒されたのではないか?

 英BBCの記者もそう感じたのか、同氏のパフォーマンスについてこう評価している。

「大胆で華麗なパフォーマンスだった。ゴーン氏はもはや自動車業界のスターではないが、事実や彼に対する告訴がなんであれ、彼は今も、どうすれば上手く立ち回れるか心得ている。ゴーン氏は、彼が言うところの人間の基本的原則に違反している日本の司法制度を罵倒した。彼は確かに話すべきアジェンダを心得ていた。そして、ドラマのような逃亡劇を派手にやってのけた」

 ゴーン氏のカリスマ性は今もまだ生きているといわんばかりだ。

 ゴーン氏自身、再び、ビジネスの世界に返り咲く気満々のようだ。「レバノンに戻ってから、たくさんの企業やアイビーリーグの大学からスピーチするよう求められた」と言って、自身の将来にオプティミズムを感じているように見えた。

日本人支援者が逃亡を手助けか?

 会見で話した内容にあまり目新しさはなく、世界が知りたがっている逃亡方法に関する言及もなかった。

 ただ、英BBCによると、英ファイナンシャル・タイムズが「2人の人物が『ゴーン氏の日本人支援者たちが逃亡の準備の手助けをした』と話した」と報じたという。もっとも、日本からの逃亡劇であるから、日本人が逃亡に関与していたとしても不思議ではない。

妻に会いたいのは当然

 結局、本人の口からは明らかにされなかった逃亡法だが、ゴーン氏の弁舌は、多かれ少なかれ、世界の人々の心に響いたことだろう。特に、妻に会えない状況が長期間続いたことに世界の同情が傾けられたのではないかと思う。

 アメリカもそうだが、多くの国々では、仕事よりも家族が最優先されている。家族第一なのだ。それはゴーン氏とて同じだったのだろう。ゴーン氏は逃亡を決めた理由として、公正な裁判が受けられないことに加え「キャロル夫人に会いたかったから」と訴え、“愛の逃亡劇”という側面を覗かせた。

 判事にもキャロル夫人に会いたい旨を伝えたというが、それに対して判事は驚き、理解できないようだったという。ゴーン氏は主張した。「多くの人にとって、妻に会いたいのは当然のことです」。

 世界と日本では、家族に対するプライオリティーに温度差があることが、世界に暴露されたような気がした。

日本人は寡黙

「巧みな弁舌と派手なパフォーマンス」をやってのけたゴーン氏にトランプ大統領と似たものを見出した筆者だが、そんなゴーン氏に日本の検察はどう対処するのか? ゴーン氏同様の弁舌やパフォーマンスで、世界の世論に訴えることができるのか?

 以前取材したアメリカの法廷コンサルタントが「日本人は寡黙であることが問題だ」と指摘していた。裁判になった場合、日本人は法廷で寡黙であるため、「寡黙なのは何かを隠しているからだ、悪いことをしたから黙っているのだ」という好ましくない印象を陪審員たちに与えて、不利な状況に置かれることがあるという。

 

 逃亡された今となっては、日本の検察も寡黙ではいられないだろうが、彼らがゴーン氏にどう対抗するのか、今後の動きが注目されるところだ。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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