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トランプ氏は暴露本の著者を評価 “NYタイムズ論説文寄稿犯”はペンス副大統領か?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
トランプ氏の暴露本を出版する著名な調査ジャーナリスト、ボブ・ウッドワード氏。(写真:ロイター/アフロ)

 発売間近のトランプ氏の暴露本『恐怖 ホワイトハウスのトランプ』とニューヨーク・タイムズに掲載された「私はトランプ政権内のレジスタンスの一員だ」と題する政府高官が暴露した論説文で、政権内に混乱が広がっている。

トランプ氏はウッドワード氏を評価

 暴露本でトランプ氏を襲った今回の“刺客”は、ウォーターゲート事件を暴いた著名な調査ジャーナリスト、ボブ・ウッドワード氏なのでことに手強い。同氏は、政府関係者を取材し、トランプ氏の無能ぶりや問題のある気性を描いているが、トランプ氏自身はそんなウッドワード氏を評価していたことが、CNNの報道でわかった。

 先月のこと、トランプ氏はウッドワード氏と電話でやりとりし、同氏のインタビューを受けなかったことについて、以下のように“後悔発言”をしていたというのだ。

「君と話したかったよ。君にはとても心を開いている。君は常にフェアーな報道をしてきたと思う」

 ウッドワード氏の報道姿勢を評価するトランプ氏のコメントは、まるで、同氏の暴露本に信頼性を与えているようなものだ。

アメリカには大統領がいない

 ニューヨーク・タイムズに政府高官が匿名で書いた論説文では、“職務遂行能力を欠いた大統領を退任させられると規定した合衆国憲法修正25条の適用が検討されたこと”が暴露されたが、これについて、オバマ政権下で国務長官を務めたジョン・ケリー氏はトークショーでこう訴えた。

「とても恐ろしい。アメリカには実際、大統領がいないということだからね。大統領はいるけれど、彼には職務遂行能力がないということなのだ」

 ウッドワード氏の暴露本には、側近たちが、トランプ氏が署名してしまったら危ない書類をこっそりと抜き取ったことが描かれているが、ケリー氏はそんなレジスタンスが起きたことも問題視している。

「政権内に、大統領のデスクから何かを盗んで、大統領の決定を阻止しようとした者がいる。ホワイトハウスでは、大統領の法律違反や危険行動を防ごうとするようなレジスタンスが起きてはならないはずなのに、起きる事態になってしまった」

 また、自己保身に走っている議員たちも批判。

「本当に問題なのは、自分の権力や地位を守ろうとしている議員たちだ。彼らは本来憲法や国を守らなければならないのに、自分の党や大統領を守っている。それは間違ったことだ」

匿名の論説文を寄稿したのはペンス氏か?

 トランプ氏は暴露本の取材に応じた政府関係者やニューヨーク・タイムズに論説文を寄稿した政府高官は誰か、“犯人探し”に取り掛かっている。

 “論説文寄稿犯”は、トランプ氏の政策を支持はしているものの、彼の気性を懸念している人物だ。そして、その人物とは副大統領のマイク・ペンス氏ではないかという憶測が広がっている。論説文に使われている、ある一語が、“ペンス氏寄稿犯説”を裏づけているというのだ。それは、亡きジョン・マケイン氏を指し示す“lodestar”(道しるべとなる星、模範者)という言葉だ。

 論説文には以下のようなくだりがある。

「マケイン議員はもういない。しかし、我々は、国民や国の名誉を取り戻す模範者(lodestar)である彼を常にお手本にするだろう。トランプ氏は尊敬すべき男たちを怖がるかもしれない。しかし、我々は彼らを崇敬すべきだ」

 文中にあるlodestar(模範者)は誰もが普通に使う言葉ではないという。しかし、ここ数年、講演の際に、この言葉を頻繁に使ってきた人物がいる。それがペンス氏だ。

 もっとも、“真犯人”が、あえてこの言葉を使うことでペンス氏を“犯人”に仕立てようとした可能性も否めない。ペンス氏は寄稿していないと否定しているが、大学時代は大統領になる野心も抱いていたという報道もある。

 また、多くの高官たちがトランプ氏から何らかの暴言を吐かれてきたこと、トランプ氏の言動を懸念していたことが事実なら、論説文には高官たちの総意が込められていると言ってもいいかもしれない。つまり、“寄稿犯”は『オリエント急行殺人事件』のように、高官全員であったとしてもおかしくないのではないか。

 次から次へと“刺客”に襲われるトランプ氏だが、今回の暴露本や論説文が来たる中間選挙に大きな影響を与えるかは疑問だ。これまで出されてきた数々の暴露本やネガティブな報道も、結局のところ、トランプ氏の支持率に大きなダメージを与えることはなかった。それだけ、彼の支持基盤は強固だ。さらに、トランプ氏支持者が多いラストベルトの景気回復も基盤強化に拍車を掛けると思われる。

 また、ネガティブな報道も自己PRに利用しようと考えるポジティブなトランプ氏である。“刺客”に襲われれば襲われるほど、彼の支持基盤はいっそう強固になっていく可能性もあるのではないか。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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