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元大統領補佐官が出版したトランプ暴露本の中身とは? メラニア夫人は“退任後離婚”を希望か?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
当初はトランプ氏を支援していた元大統領補佐官のマニゴールト氏(右)。(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ大統領の暴露本が、また、出版された。

 今回の暴露本『Unhinged(たがが外れて)』は、昨年12月、ホワイトハウスをクビになった元大統領補佐官オマロサ・マニゴールト氏が書いたものだが、ホワイトハウスのインサイダーが書いた初めての暴露本という点で、注目されている。

 マニゴールト氏は、トランプ氏がホストを務めたリアリティー番組「アプレンティス」に登場していたアフリカ系アメリカ人。大統領選の際にはトランプ氏を支援し、トランプ政権では大統領補佐官という、ホワイトハウスのアフリカ系アメリカ人のスタッフの中では、最も高いポストに就任した。彼女は、同じアフリカ系アメリカ人にトランプ氏をPRするコミュニケーターの役割を果たしていた。人種差別的発言を重ねるトランプ氏の尻拭いをすべく「彼は人種差別主義者ではない」と訴えてきたのも彼女だ。しかし、同著で彼女は、それまでの姿勢を翻し、トランプ氏のことを「完全な人種差別主義者だ」と批判している。

危機管理室に“拘束”してクビに

 フォックス・ニュースは、クビを言い渡されるにあたって、喘息持ちのマニゴールト氏が“拘束”された点を問題視している。

 マニゴールト氏は、大統領首席補佐官のケリー氏らにシチュエーション・ルームに連れて行かれ、1時間以上、そこから出してもらえなかったからだ。シチュエーション・ルームとは、ホワイトハウス内にある危機管理室だ。国内外の有事に対処するための最も重要な場所で、軍事作戦や諜報作戦もここでコントロールされ、モニターされている。2011年、米軍がオサマ・ビンラディンの隠れ家を奇襲攻撃する様子を、オバマ元大統領が見たのもこの場所だ。ケリー氏は自分をそこに隔離することで恐怖を与えようとしたのかもしれない、とマニゴールト氏は考えている。

 隔離されるのは怖いが、さらに問題なのは、喘息持ちのマニゴールト氏が、そこで、喘息の発作が起きるリスクにさらされたことだ。彼女は、その時、発作を抑える吸入器を持っていなかったからだ。

 同著のプロローグで、彼女は、危機管理室での状況をこう説明しているという。

「私は喘息持ちで、胸が締めつけられるのを感じ始めました。落ち着く必要がありました。そうしないと、喘息の発作に襲われるからです。吸入器を入れているバッグを取りに行っていいか聞きましたが、彼らは部屋から出してくれませんでした。なぜ、出してくれないのか聞くと、ケリー氏がミーティングをそうセットアップしたからだというのです。喘息は、ストレスのある状況が引き金となっておきます。その時はまさにストレスのある状況でした。部屋を出て、外にいる夫と話していいか聞きましたが、出してくれませんでした。私は、意に反して、銃を持った男たちが警備しているシチュエーション・ルームに拘束されたのです」

 しかし、彼女はしたたかだった。クビを言い渡すケリー氏とのやりとりを密かに録音したのだ。シチュエーション・ルームには録音装置を持ち込むことは禁止されているため、トランプ側は、彼女が録音装置を持ち込んだことは国家安全保障を無視した行為だと非難している。

元側近たちに15000ドルの口止め料!?

 それにしても、マニゴールト氏はなぜクビになったのか。彼女の考えでは、トランプが発したNワード(アフリカ系アメリカ人を指す蔑称ニガーのこと)に起因しているようだ。トランプ氏は「アプレンティス」の収録時、カメラがないところで、複数回、Nワードを放ったという。その話を複数の人々から聞いたマニゴールト氏は、Nワードが録音されたテープの存在を証明しようとしたためにクビにされたというのである。

 また、ワシントンポスト紙によると、マニゴールト氏は辞任後、トランプ側から、“トランプ氏やペンス氏、そして彼らの家族についてコメントしない”という秘密保持契約を結ぶことを条件に、月15000ドルの口止め料をオファーされたが、拒否したという。

 口止め料をオファーされたのはマニゴールト氏だけではないようだ。同氏によれば、トランプ側は、政権を去った何人かの側近たちにも、同様に、月15000ドルの口止め料をオファーし、それを受け取っている者もいるという。

メラニア夫人は離婚したがっている

 マニゴールト氏は、同著で、トランプ一家についても言及している。例えば、トランプ氏は、長男のトランプ・ジュニア氏よりも、次男のエリック氏を誇りに感じていたという。トランプ氏は大統領選の際、トランプ・ジュニア氏がコンベンションで行うスピーチを聞きにはいかず、かわりに、エリック氏のスピーチをテレビで観ていたというのだ。また、シリア難民を毒入りキャンディーに例えたり、トランプタワーでロシアの弁護士らと密会したりしたトランプ・ジュニア氏を「愚か者」呼ばわりしていたという。そのため、トランプ・ジュニア氏は父を喜ばせようと必死だったようだ。

 

 今年初めに出版された暴露本『炎と怒り』では、トランプ氏とメラニア夫人は別室で就寝していることが指摘されていたが、マニゴールト氏によると、メラニア夫人は、トランプ氏が大統領を退任後、離婚しようと考えているという。「私の意見ですが、メラニア夫人は、トランプ氏が退任して、彼と離婚する日を指折り数えて待っているんです」と書いている。

 トランプ氏は、大統領就任式では、通常行われている聖書宣誓ではなく、“自著宣誓”を行うことを考えていた節もある。トランプ氏が自著『ザ・アート・オブ・ザ・ディール』について「史上最高のビジネス本だよ。アメリカのための素晴らしい交渉法が書かれている。この本で宣誓するのをどう思う?」と真面目に聞いたので、マニゴールト氏は「そんなことは考えないで下さい。他の人には絶対そんなこと話さないで下さい」と説得したというのだ。

 同著には、「トランプ氏のためなら銃弾を受ける」と豪語したトランプ氏の元個人弁護士マイケル・コーエン氏に関するくだりもある。2017年の初め、コーエン氏を大統領執務室に案内したマニゴールト氏は信じられない光景を目撃したという。コーエン氏が執務室を出ていく際、トランプ氏が一枚の紙を噛み、飲み込んだように見えたというのだ。黴菌恐怖症で知られるトランプ氏がそんなことをするとは、その紙には国家機密に関わることが書かれていたに違いないと彼女は推測している。

 また、トランプ氏は、頭脳明晰だった「アプレンティス」のホスト時代と比べると、同じことを繰り返し言うようになった、精神状態が衰えていると指摘。

 ホワイトハウスのトランプ氏の住まいには、日焼け用ベッドもあるようだ。トランプ氏は、ホワイトハウス全体を運営している責任者と、そのベッドの設置をめぐって喧嘩になっていたという。

批判や侮辱を糧に強くなるトランプ氏

 例によって、ホワイトハウス側は、マニゴールト氏の話はみな嘘だと主張。トランプ氏も「いかれたオマロサ」、「頭が良くない」など非難のツィートを連発した。出版されるやいなや、彼女のことを「犬」と呼んで、罵倒する怒りようだ。リアリティー番組時代を含めると、トランプ氏はマニゴールト氏とは15年の長いつきあいがある。トランプ氏としては、飼い犬に手を噛まれたような気持ちなのだろう。

 しかし、こう次から次へと、トランプ氏の身近にいた人々が暴露本を出版している状況は尋常ではない。クビにしたトランプ氏に対する“復讐”という見方や自己PRという見方もあるが、それだけでは説明できない。彼らが口を揃えて主張しているのは、トランプ氏は大統領には不適任だということだ。

 しかし、いくら暴露本で“不適任”と叩かれたところで、トランプ氏はそれを逆手にとる。マニゴールト氏は同著でこう書いている。

ートランプ が憎悪を好んでいることだけは覚えておく必要があるわ。彼は批判や侮辱を糧に強くなるの。彼はカオスや混乱を大喜びするの。ツイッターで彼を罵ったところで、彼に火をつけ、彼陣営を怒らせるだけ。彼を弱体化させるには、彼の持っているエゴを飢え死にさせること。彼のエゴを満たさないことよー

 マニゴールト氏の指摘通りだとすれば、彼女が書いた暴露本は、皮肉にも、トランプ氏を強力にしてしまったことになるのではないか。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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