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トランプ大統領の暴露本は、トランプ政権への“爆弾”となるのか?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
トランプ政権の内幕を描いた暴露本『FIRE AND FURY(炎と怒り)』。(写真:Shutterstock/アフロ)

 トランプ政権の内幕を描いた暴露本『炎と怒り』が爆発的に売れている。アマゾンではベストセラー一位となっており、書店でも売り切れ状態だ。著者のマイケル・ウォルフ氏が、トランプ大統領自身(トランプ氏は取材を受けたことを否定している)や彼の側近など200人以上の人々に取材して書いたもので、トランプ氏の大統領としての資質に疑問を投げかけている。

 同著によれば、側近の多くが、トランプ氏のことを「まぬけ」と言い、大統領として適任ではないと考えているという。トランプ氏は同著を“フェイク・ニュース”ならぬ“フェイク・ブック”と呼んで反撃しているが、ツイッターで反撃するほど売れ行きは伸び、トランプ氏に“負の効果”をもたらしている。

トランプ大統領は“裸の王様”

 著者のウォルフ氏は、BBCのインタビューで「この本でトランプ政権は終わるだろう」と予測、

「この本には明らかに“裸の王様効果”がある。私が書いた話は、トランプ大統領の無能さを示している。王様(トランプ大統領のこと)は服を着ていないのだ。人々はみな”おお、そうだ、彼は服をきてないぞ”と言い出している。この本でみながトランプ大統領のことを理解すれば、トランプ政権は最終的に終わるだろう」

 と話している。

超タブロイド誌的内容

 果たして同著は、トランプ政権を終わりに導くような“爆弾本”なのだろうか? 注目されているのは以下の箇所だ。

1. トランプ大統領もトランプチームも、大統領選で勝つとは思っていなかった

 多くの大統領候補たちは、全キャリアを、大統領になる準備のために費やす。トランプの計算は異なっていた。彼と彼の側近たちは、”もう少しで大統領になる”ことから利益を得られると信じていた。イヴァンカ(娘)とジャレッド(娘婿)は世界的なセレブになり、バノン(前首席戦略官)はティーパーティー運動のリーダーになり、コンウェー(前大統領顧問)はケーブルニュースのスターになり、夫から「大統領にはならない」と言われたメラニアは密かにランチ会に出るようになるだろう。負けはみなにとって良い結果となるのだ。負けは勝ちだった。

 また、前国家安全保障問題担当大統領補佐官のマイケル・フリン氏も、トランプ氏が勝つとは思っていなかったようだ。選挙戦の時、フリン氏は友人から「ロシアから45000ドルの講演料を受け取ったのは問題だった」と言われたが、フリン氏は「問題になるのは、選挙で勝った時だけだ」と答えている。

 トランプ氏自身やメラニア氏もまた、当選を予期していなかったようだ。投票日の夜、トランプ氏が勝つという予期せぬ流れが起きていることがわかった時、ドナルド・ジュニア氏は、友人に「父は幽霊を見てしまったかのような表情をしていたよ」と話している。メラニア氏は涙ぐんでいたが、その涙は嬉しさからではなかったという。

2. トランプ氏がロシアのロビイストたちと面会したという疑惑も

 バノン氏は、2016年6月、クシュナー氏とトランプ・ジュニア氏がトランプタワーでロシアのロビイストたちとあったのは「裏切り行為であり、非愛国的で、FBIにすぐに電話すべきことだった」と話している。また、バノン氏は、トランプ・ジュニア氏が、彼らをトランプ氏のオフィスに連れていったのではないかとも思っているようだ。

 しかし、1月7日、バノン氏はトランプ・ジュニア氏らを批判したことについて、批判はマナフォート元トランプ選対本部議長に向けたもので、トランプ・ジュニア氏に向けたものではなかったと釈明し、謝罪した。

3. トランプ大統領は無知だった

 同著によると、トランプ氏は非常に無知で、選挙戦の初期、トランプ氏のところに憲法の説明に行ったナンバーグ氏は、合衆国憲法修正第4条まで来たところで、トランプ氏が退屈そうな仕草をしていたと回想。

 しかし、このくだりの真偽についてインタビューされたナンバーグ氏は「大統領には憲法を教えに行ったのではない。大統領は、憲法を細かく理解していた。それは十分なものだった。私が行ったのは、討論会の8日前くらいで、彼にひっかけ質問にひっかかってほしくなかったからだ。ウォルフ氏は、そのことを仰々しく書いた」と説明している。

 また、元FOXニュースCEOでセクハラ疑惑で辞職したロジャー・エイルズ氏が、トランプ氏に、一年前まで、下院議長を務めていたジョン・ベイナー氏を大統領首席補佐官にどうかと勧めると、トランプ氏は「それって誰?」ときいたという。

4. トランプ大統領は同じ話を何度も繰り返す

 トランプ氏は、大統領首席補佐官にはプリーバス氏が適任だと考えたが、プリーバス氏自身は不安に感じていた。トランプ氏とした初めての長い会議で、トランプ氏はノンストップで、絶えず、同じことを繰り返し話したからだ。そんなプリーバス氏に、トランプ氏の側近がこうアドバイスしている。

「よく聞いて。彼との1時間の会議では、54分間、話を聞くことになるが、それは、繰り返し同じ話だ。だから、言いたいことは一つにして、言える時にパパっと言うことだ」

5. トランプ大統領は就任式の日、メラニアと喧嘩した

 トランプ氏は、A級スターが就任式イベントでの出演を断ったことを怒り、宿泊したブレアハウス(アメリカ合衆国大統領の賓客が宿泊する施設)の部屋について「温水は熱すぎ、水圧も悪く、ベッドもひどい」と不機嫌になって、妻メラニアと喧嘩をした。彼女は今にも泣き出しそうだった。

6. イヴァンカがトランプ氏の髪の秘密を暴露

 イヴァンカが友人に話したことによると、トランプ氏は、頭頂部に毛髪がないため、頭皮後退手術を受け、側面と前の毛髪を中央に寄せ集めて、後ろに流し、スプレーで固めているという。「ジャストフォーメン」という商品で髪を染めているが、それは、髪に長時間つけるほど濃い色になる。トランプ氏は気が短いため、髪がオレンジっぽいブロンド色になっているのだという。

7. トランプ大統領は毒殺を恐れていた

 ホワイトハウスでは夫婦は別室となったが、それはケネディ大統領以来のことだという。テレビは一台はあったが、トランプ氏はさらに2台のテレビを注文。また、自室のドアに鍵をつけるよう注文したため、部屋へはアクセスできるようにしておきたいと主張するシークレットサービスとやりあった。メイドには「床にシャツがある時は、私が床に置いておきたいからだそうしているのだ」と言って叱った。誰も彼のものには触れず、特に、歯ブラシには触らなかった。トランプ氏は毒を盛られることを昔から恐れていたからだ。マクドナルドが好きなのは、誰も彼が食べに来ていることを知らず、フードが前もって安全に作られているからだという。シーツを替えたい時は、メイドに知らせたが、シーツをベッドから外すのは彼自身だった。

 

8. ゴシップの出所はトランプ大統領自身だった

 バノン氏と6時半の夕食を共にしない時は、トランプ氏はベッドにチーズバーガーを持ち込み、3台のテレビを見て、友人に電話をした。自分のプライバシーがリークされると、リークした犯人探しに没頭した。しかし、トランプ氏は電話で友人に不満をぶつけるところがあるので、ゴシップの出所は、実はトランプ氏自身だったのではないかと言われている。

 ちなみに、このくだりについて、トランプ氏の娘のティファニーは「父は毎晩ベッドでマクドナルドが食べられたなあと思っているのよ」と発言している。つまり、そうしたいと望んでいるだけということなのか。

9. トランプ大統領は直感で動く子供のようだった

 トランプ氏は何も読まず、ざっとさえ目を通さなかったという。誰よりも自分のことを信じ、直感で行動していた。側近はトランプ氏は何を欲しているのかと考えながら、まるで子供と接するように対処しなければならなかったという。

 このくだりは納得がいく。ある記者によると、トランプ氏は、本を最後まで読まないことを自慢していたという。また「報告書は読まない。アドバイザーに20〜30秒話してもらえば、直感で適切な対処法がわかる」とも話したという。トランプ氏は自分の直感というものに最高の自信を持っているのだ。

10. トランプ大統領は側近たちを侮辱した

 側近たちの欠点をあげつらった。バノン氏については、「ホームレスみたいだよ。シャワーを浴びろよ、スティーブ。6日間もそのパンツを履いているじゃないか」といって、身なりまで侮辱したという。

11. 米国初の女性大統領を目指すイヴァンカ

 イヴァンカと夫のジャレッドは、将来、機会があれば、イヴァンカが大統領候補に立つということで合意していた。米国初の女性大統領になるのは、ヒラリー・クリントンではなく、イヴァンカ・トランプなのだと。

12. マードック氏に「大馬鹿者」と言われた

  マードック氏は、電話でトランプ氏と話した際、トランプ氏がH-1Bビザ(就労ビザ)の発給を求めているシリコンバレーの企業を助けようとしていることを問題視した。壁建設や移民制限をしようとしているトランプ氏の選挙公約とコンフリクトするからだ。マードック氏は電話を切った後、「大馬鹿者」と言ったという。

13. 友人の妻を追いかけるという性癖

 トランプ氏は、オフィスで友人に「奥さんとのセックスはいいか?」などときき、その会話をその友人の妻に盗聴させて失望させることで、友人の妻を落とそうとしていたという。

トランプ大統領は暴露本も“成功”と捉える?

 羅列してみると、その内容は“超タブロイド誌”と表現するメディアもあるほど三面記事的だ。しかし、そんな批判には、昔から慣れっこになっているトランプ氏である。同著は、著者が予測するように、トランプ政権を終焉に至らせるような爆弾本になるのだろうか?

『トランプ』の著者マーク・フィッシャー氏がこんなことを言っていた。

「トランプ氏に大きな影響を与えた人物に、ロイ・コーンという弁護士がいます。彼はトランプ氏に、どんな記事でも良い効果があるということを教えたのです。たとえ、議論を起こすようなひどい記事を書かれたとしても、それを喜んで受け入れなさいとアドバイスしました。トランプ氏は彼の教え通り、離婚や家族の問題が新聞の一面に載っても、喜んで受け入れたのです」

 コーン氏の影響を受けたからだろう、トランプ氏は、ネガティブな記事であっても、新聞の一面を飾らないと不満にさえ感じることもあったようだ。トランプ氏は、かつて、ハイアットホテルをニューヨークに呼び込むため、市の助成金が得られたとはったりをかましたことがある。実際には、市の助成金が得られていないことを知った新聞社がそれをすっぱ抜いたのだが、記事が掲載されているページを見た彼は、不服そうにこうつぶやいたという。

「なぜ一面に載らなかったんだ」

 また、偽名を使って、自分から、メディアに、自身に関するネタを持ちかけることさえあったようだ。

 加えて、トランプ氏は、究極のポジティブ思考の持ち主だ。どんなにネガティブなことでも、ポジティブに捉えるよう教えられて育った。『トランプ家三代記 ザ・トランプス』の著者グウェンダ・ブレア氏が話す。

「トランプ一家は、ノーマン・ビンセント・ピールという牧師が書いた”The Power of Positive Thinking”というベストセラー本の影響を受けました。ドナルドや二人の姉妹はこの牧師の教会で結婚式を挙げ、ドナルドの両親のお葬式もこの牧師の教会でしたほど影響を受けたのです。この本のメッセージは“自分が成功しているというイメージを常に心に持ち続けなさい。失敗という考えは少しも心に思い浮かべてはならない”というものでした。ドナルド自身も選挙戦の時“この牧師は自分に大きな影響を与えた”と言っていましたが、実際、彼の生き方を見ているとそう思います。やることはみな成功しているとドナルドが捉えているのは、まさにこの牧師の影響です。ドナルドは謝罪もしないし、自分の間違いも認めないし、自分の失敗も認めません。傍目には失敗に見えても、ドナルド自身は成功だと見なすのです。開発した不動産が値引きしたのに売れなくても成功だとみなしていました」

 つまり、トランプ氏の辞書に“失敗”という文字はないのだ。

 コーン弁護士や牧師の考え方が刷り込まれているとすれば、トランプ氏は、内心、暴露されたことすら“成功”と捉え、暴露本が世間を騒がせている状況をほくそ笑んで見ているかもしれない。“爆弾本”を逆手にとって、自己PRするいい機会だとポジティブに考えているかもしれない。早速、ツイッターでは、しつこいくらい同著の批判をして、「私は安定した天才だ」などと自己PRしている。もっとも、言い訳や自画自賛にしか聞こえない自己PRは、人の心には響かないだろう。

 また、トランプ側は、同著は嘘だらけだと批判しているが、実は“身から出たサビ”のようである。確かに、著者のウォルフ氏は、話を誇張することで知られ、メディア王マードック氏について書いた同氏の前著は、マードック氏自身から間違いがあると非難された。しかし、そんなウォルフ氏のホワイトハウスへの出入りを許していたのはトランプ側である(ホワイトハウスの執務棟にはウォルフ氏専属の場所があったという)。そのため、トランプ側が、ウォルフ氏の評判を、トランプ政権と関わりのあるマードック氏に事前に確認し、ウォルフ氏をホワイトハウスに出入り禁止にしていたら、同著の出版には至らなかったのではないかと指摘する声もある。つまり、同著は、トランプ政権の脇の甘さも露呈したのだ。

 その内容がフェイクであるにしろ、ないにしろ、同著は世間を騒がせていて、トランプ氏は大きく注目されている。注目はトランプ氏が常に望むところだが、それがトランプ氏の支持率や中間選挙に吉と出るか凶と出るか、注目したいところだ。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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