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北朝鮮の非核化は困難! トランプ大統領に残された北朝鮮危機の解決策とは?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
「国家安全保証戦略」を発表するトランプ大統領。(写真:ロイター/アフロ)

 先日、ティラーソン国務長官が北朝鮮に“無条件対話”を呼びかけたことが波紋を呼んだ。その後行われた国連安保理事会では、同氏は“火消し”をするように「北朝鮮は対話の前に挑発行為を止めなければならない」と自身の呼びかけを否定。同氏の矛盾する発言は、アメリカが北朝鮮危機の解決策が見出だせないことにジレンマを感じている証拠だろう。

 “北朝鮮の核の脅威”の解決策として、“無条件対話”ならぬ“無条件承認”を主張してきた人物がいる。ジョージ・W・H・ブッシュ政権時代、国務省政治軍事局で政策アナリストを務めたベネット・ランバーグ氏だ。ランバーグ氏は、“非核化は幻想だ”と主張し、北朝鮮という国家の“無条件承認”が北朝鮮を安定化させる残された道だと考える。

 ランバーグ氏は、対北政策についてどんな見解を持っているのか話を伺った。

北朝鮮の非核化は難しい

ーートランプ政権の北朝鮮への対応をどう思われますか?

トランプ大統領の発言を見ると、彼はただ「北朝鮮問題に対処する」とばかり繰り返しています。いったい、彼はどう解決しようというのでしょうか。解決の糸口を見つけられず、ただ虚勢を張っているようにしか見えません。トランプ政権は、米韓合同軍事演習をして、北朝鮮に軍事力を誇示していますが、そんなことでは北朝鮮を非核化できないのです。今後は、北朝鮮が実験で打ち上げたミサイルを撃墜する試みにさえ出るかもしれませんが、それは非常に危険で、撃墜に失敗したら大恥をかくことになるでしょう。

ーー経済制裁というオプションは奏功しないのでしょうか?

北朝鮮は経済制裁にはすっかり慣れてしまっています。だから、今のような状況に至ってしまったわけです。経済制裁も金正恩氏の核開発に歯止めをかけることはできないでしょう。

ーーアメリカは否定しましたが、ロシアや中国が提案した“フリーズ・フォー・フリーズ”という政策はどう思われますか?

米韓が合同軍事演習を取りやめることと引き換えに、北朝鮮に核兵器開発を止めさせるという“フリーズ・フォー・フリーズ”は、本当に北朝鮮が核兵器開発を取りやめたのか確認するのが難しいという問題があるのです。北朝鮮はアメリカの核インスペクターを入国させて確認させるようなことはしないでしょうから。確認させたら、核施設のロケーションがわかってしまうことになりますからね。

核保有国北朝鮮と共存する

ーーでは、北朝鮮の非核化には、何らかの軍事行動が必要になるのでしょうか? 

トランプ政権が軍事行動を取れば、北朝鮮の攻撃を受けるのは日韓です。問題は、トランプ政権が日韓を犠牲にしたいと考えているかどうかです。日韓を犠牲にしたくないと考えているのなら、トランプ政権は核を保有している北朝鮮と共存しなければならないと思います。

私がトランプ大統領だとしたら、日韓を犠牲にしたくないので、北朝鮮と戦争になるような行動はしません。むしろ、北朝鮮に核を保有させ続けるという選択をします。アメリカはすでに、ロシアや中国などの核保有国と共存することができているのですから、北朝鮮とも共存することができると思うのです。

ーー戦争をせず、核保有を認めるというスタンスですね?

ロシアは多くの核兵器を保有しているので米国にとって脅威ではありますが、共存できている状態です。抑止力が働いているからです。中国については、アメリカは核武装した毛沢東政権を容認して、米中関係を改善することができました。現在では、核問題は、米中首脳会談において重要な議題にさえならなくなりました。北朝鮮政府も、論理的判断ができる政府だと私は信じています。

ーー北朝鮮の非核化実現を目指しているトランプ政権とは相反する考え方ですね。

北朝鮮を非核化させることは難しいのです。歴史がそのことを物語っています。南アフリカ共和国を見て下さい。彼らは、政権が一掃されて初めて核を廃絶したのです。カザフスタンやウクライナも、ソ連が崩壊するまで核を放棄しませんでした。つまり、政権が崩壊しない限り、非核化が困難であることは歴史が証明しているのです。

孤立化は敵意を生み出すだけ

ーーでは、具体的には、トランプ政権はどんな政策を講じるべきだと思いますか?

非核化が困難である以上、トランプ政権は、封じ込め政策を取るべきだと思います。

第一に、抑止力を高めることが重要です。アメリカは1991年に、韓国から核兵器を撤収しましたが、再配備するとともに、空軍力を強化して、アメリカは同盟国とともに立ち上がっているという強いメッセージを北朝鮮に送るのです。

第二に、経済制裁を取り止めることです。制裁を止めると、北朝鮮は孤立しなくなります。今、金政権は孤立しているゆえに、権力を維持できている状態なのです。孤立させず、逆に世界とコミュニケーションを取らせれば、世界は北朝鮮が危険な行動に出ないかモニタリングでき、北朝鮮の人々も世界の状況を知るようになって、長期的には、金正恩政権を崩壊へと導くことができると思います。制裁の取りやめは、“アメリカの敗北”だと捉えられるかもしれませんが、私は逆に、金正恩政権を崩壊させる“トロイの木馬”になると思うのです。

歴史を振り返ると、アメリカが核武装した毛沢東政権を認めたことが、政権を穏健化させ、今日の米中関係の構築に繋がりました。反対に、北朝鮮のように認められず、孤立してきたキューバとイランでは、アメリカが望むような政権崩壊は起きませんでした。つまり、孤立化は敵意を生み出すだけなのです。孤立化した国はどんどん誇大妄想化して、核兵器のボタンを押す寸前まで追い込まれて行きます。北朝鮮を孤立させないという政策は魔法のような解決策にはならないものの、解決の一助になると思います。

第三に、トランプ政権は、キューバミサイル危機や1969年の中ソ戦争、インドパキスタン戦争など過去の経験を教訓に、核攻撃という事態に備えてゲームプランを持つことです。

 18日、トランプ大統領は、「国家安全保障戦略」を発表する中、北朝鮮の非核化実現を訴えた。しかし、歴史は、非核化の難しさと孤立化の問題を浮き彫りにしている。トランプ大統領が軍事行動により日韓を犠牲にしたくないと考えているのなら、残された解決策は、ランバーグ氏が指摘するように、“核保有容認と封じ込め”しかないのか? 

 もっとも、北朝鮮の核保有を容認するリスクは多々ある。北朝鮮が核保有国としての取り決めを遵守する保証はないし、他の国々も核保有の野心を駆り立てられることだろう。

 北朝鮮に対して吠え続けるばかりのトランプ大統領は、現実的に、どんな方法で北朝鮮の非核化を実現するのだろうか?

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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