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トランプ大統領、習氏に頼んで米国人犯罪容疑者の解放にも成功

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
訪中の際、トランプ氏はバスケットボール選手たちの拘留問題で習氏に助けを求めた。(写真:ロイター/アフロ)

 大統領の仕事というのは大変だ。“万引き容疑者の解放”までお願いしなければならないのだから。アジア歴訪は「大成功だった」と自賛したトランプ大統領だが、その傍ら、彼は、中国で、万引き容疑で逮捕されたUCLAのバスケットボール選手の解放にも成功したようだ。

ルイヴィトンで万引き

 アメリカでの様々な報道を総合すると、以下のような経緯になる。

 先週火曜、中国に試合に訪れていたUCLAのバスケットボールチーム”ブルーインズ”の3人の選手が、杭州の宿泊先ホテル近くにある高級ショッピングモール内のルイヴィトンで、サングラスを万引きした容疑で逮捕された。

 ESPNの報道よると、選手たちが、ルイヴィトンだけではなく、他の2つの店でも万引きする様子が防犯カメラの映像に捉えられていたという。翌朝、彼らは保釈金を払って解放されたが、取り調べのため、“自宅監禁”の形でホテルに拘留された。3人は出場予定だった上海での試合には出場できず、他の選手たちとともに帰米もできなかった。

 容疑がかけられた3人の選手の中には、LAレイカーズのルーキーとして著名なロンゾ・ボール氏の弟リアンジェロ・ボール氏も含まれていたことから、捜査の行方が注目された。

鶴の一声?

 中国訪問中、このことを側近から伝えられたトランプ氏は、習主席に個人的に助けを求めた。習氏はこの件を調べ、選手たちに公正に迅速に対処すると約束したと言う。

 トランプ氏は、アジア歴訪を終えてマニラを去る際、この件について、「彼らがしたことは残念だった。とても長い刑期に直面するかもしれないからね」と言って、解放に向けた習氏の対応を「素晴らしい」と褒め讃え、選手たちが早期にアメリカに戻されることを願った。

 “鶴の一声”があっという間に功を奏したのか、3人は、一週間の拘留から解放されて、火曜夜、上海からロサンゼルスへの帰途についたのだ。

 通常、中国当局は、外国人にも公正に対処する必要から、簡単には、容疑者を国外に出さないという。

 選手たちが解放されたことを受けて、大学アスレティック会議コミッショナーは「解決に向けた大統領やホワイトハウス、国務省の努力に感謝したい」と述べ、解決を喜んだ。

 しかし、具体的にどう解決したのか、つまり、中国当局が選手たちにかけた容疑がどうなったのかは確認されていない。ロサンゼルスタイムズが掴んだ情報では、選手たちは告訴されないというが、その理由が証拠不十分によるものなのか、何らかの交渉や取引きがあったからなのかは不明だ。しかし、経緯を考えると、後者であることは想像に難くないだろう。米中関係は、犯罪容疑者も簡単に許してしまえるほど強固になってしまったということか? 

選手たちに感謝を迫ったトランプ大統領

 以降は、後日談となるが、ロサンゼルスに戻ることができた3人の選手たちは万引きしたことを認め、UCLA側は、選手たちを無期限出場停止とした。選手たちは、習氏に解放の仲介を頼んだトランプ氏に感謝の意を表明。もっとも、その前に、トランプ氏が、

「選手たちはトランプ大統領に、”ありがとう”って言うと思う? 彼らは10年投獄されるところだったんだぞ」

と自分の方から、“感謝の押し売り”するようなツィートをしていたことから、選手たちはそれに応えたのかもしれない。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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