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訪日直後のトランプ氏、「米軍をみくびった国にろくなことはなかった」と“無神経発言”?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
横田基地で米軍を前に演説するトランプ氏(写真:ロイター/アフロ)

 今日、日本を離れるトランプ氏だが、その前に言及しておきたいことがある。それは、“無神経発言”と取れるトランプ氏の発言についてだ。

 日本のメディアが遠慮がちな報道を続ける中、英国は容赦ない。11月5日付けの英インディペンデント紙が、以下のようなタイトルで、トランプ氏を斬っている。

 ドナルド・トランプ、“米軍をみくびった国にろくなことはなかった”と豪語

 このタイトルには、“大統領は、原爆で約14万人の人々を殺した国でした発言で、無神経だとレッテルを貼られた”というサブタイトルも添えられている。

Donald Trump boasts ‘it was not pleasant’ for countries that underestimated US military - during speech in Japan

日本の人々の気持ちを害することに

 

 以下が、同英紙が問題にしているトランプ氏の演説のくだり。訪日初日、エアフォース1から降機直後に横田基地で行ったものだ。

「いかなる独裁者も、いかなる政権も、いかなる国も、アメリカの決意をみくびるべきではない。過去に、我々をみくびった国にろくなことはなかっただろう?」

 この発言について日本のメディアは、北朝鮮を牽制したものだと報じた。確かに、現在の情勢を見れば、それに間違いはない。

 しかし、後半部分の「過去に、我々をみくびった国にろくなことはなかっただろう?」というくだりについては、日本の人々の気持ちを害する可能性があると同紙は指摘している。アメリカから投下された原爆で14万人もの人々が亡くなった国で、こんな無神経な発言はないのではないかと、外交政策の専門家のコメントを交えて訴えているのだ。

 このくだりを口にした時、トランプ氏の脳裏を日本のことが過ったのかはわからない。しかし、日本のことも指しているのだと解釈されてもおかしくない曖昧な発言ともいえる。

 あるいは、トランプ氏が、日本がかつて戦争した国だったと忘れるほど日本のことを信頼しているゆえに出た“失言”だったのか。

 たとえそうであったとしても、横田基地の演説会場には自衛隊員もいたし、何より、多くの日本の人々がテレビを見ていたはずだ。中には、英語を理解し、嫌な気持ちになった者もいたかもしれない。トランプ氏は人々の気持ちをもっと配慮すべきだったのではないか。

 

みくびっているのはトランプ氏の方かもしれない

 重要な外交の場でのこんな発言に、W.H.ブッシュ元大統領なら、“No”を突きつけるところだろう。ブッシュ元大統領父子にインタビューして書かれた、アメリカで今月発売予定の著書『ザ・ラスト・リパブリカンズ』(マーク・アップデグローブ著)の中で、ジョージ・W.H.ブッシュ元大統領は昨年、こう言って、トランプ氏を一蹴したのだから。

「ワォ、あの男は大統領であることの意味がわかっていない」

 これは、外交経験のないトランプ氏が放った「私自身がベストな外交政策アドバイザーなんだ。とても頭がいいし、たくさん交渉してきたからね」という発言に対してしたコメントだ。トランプ氏の発言には自信過剰な彼らしさが滲み出ているが、同時に、外交というものをみくびっているようにも聞こえる。外交の難しさを痛感したW.H.ブッシュ元大統領もそう感じたから、上記のような発言をしたのだろう。

「我々をみくびった国にろくなことはなかった」と豪語したトランプ氏だが、「外交をみくびった大統領にもろくなことがなかった」という結末にならぬよう、発言には十分に気をつけてほしいものだ。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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