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“少年王”トランプは、和牛ステーキにケチャップをつけるのか?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
鉄板焼きの和牛ステーキをトランプはどう食べる?(ペイレスイメージズ/アフロ)

 トランプ大統領が、いよいよ12日間アジア歴訪の旅に出る。支持率歴代最低が続く中、トランプ大統領としては、この旅で外交手腕を見せつけて、地に落ちた支持率を挽回したいところだろう。しかし、肝心な外交交渉に入る前に、トランプ大統領は外遊先で食べるフードで米国民の顰蹙を買う恐れが出てきた。訪日の際、彼の好物、ステーキが供されることになったからだ。また、ステーキか。肉は和牛ではあるとはいえ、米国民は、再び、あきれ果てているに違いない。

 5月に、トランプ大統領がサウジアラビアを訪問した際も、ステーキが用意され、彼はそのことで多くの批判を浴びていた。招待されたら、その国の土着の食べ物を食べて、その国の文化を理解しようと努めるのも、大統領にとっては重要な外交の一部だからだ。少なくとも、歴代の大統領たちはそれをよく心得ていた。ジョージ・ブッシュ元大統領は、”権八”で小泉元首相と焼き鳥を堪能したし、バラク・オバマ元大統領は”すきやばし次郎”で安倍首相と寿司を食べた。

 しかし、”America First”のトランプである。そんな土着の”食べ物外交”は意に介そうはずがない。そもそも、刺身が大嫌いなのだ。ハリー・ハート氏の著書『ロスト・タイクーン』によると、1990年に来日した際、トランプ氏は「まずい刺身は食べないぞ」と言って、マクドナルドでハンバーガーを食べたという。

 今回、ステーキでもてなすことについて、政府関係者は「ステーキ好きのトランプ氏のために選んだ」と言っているが、トランプチームからステーキのリクエストが来た可能性もある。あるいは、日米関係をより強固にしたい首相が、ご機嫌を取ろうと、トランプ大統領の大好きなステーキを用意させることにしたのかもしれない。

不評だった「トランプ・ステーキ」

 トランプ大統領のステーキ好きは有名で、2007年には、”トランプ・ステークス”なるブランドステーキを、お洒落なライフスタイルショップで売り始めたほどだ。もっとも、美味しくないと不評で、ほとんど売れず、わずか2ヶ月で販売中止となった。ショッピングのオンラインサイトでは、2014年頃まで売られていたものの、今では姿を消している。トランプ大統領側は「トランプのゴルフクラブなどトランプが所有しているプロパティーに行けば買える」と言っているが、自身のプロパティーで売るぐらいでは売上げもタカが知れているだろう。ビジネスでは数々の失敗を重ねてきたトランプ大統領だが、ステーキビジネスもご多分に漏れないようだ。

“お子様”みたいな食べ方

 ”食は人を表す”というが、トランプ大統領はどんなステーキを好んでいるのか。まずは焼き方の好みが彼を物語っている。上質な肉にもかかわらず、固くなるまで”超ウェルダン”に焼かせるのだ。トランプ大統領に長年仕えた執事のアンソニー・セネカル氏は、彼の好むステーキについて「皿の上でカチカチ音をたてていた。超ウェルダンだった」と話している。しかし、なぜそこまで焼くのか? その理由は、トランプ大統領がマンハッタンはウエストサイドの再開発事業をしていた当時、彼と交渉に当たっていたある活動家のエピソードに見いだすことができそうだ。活動家はこう言っていた。

「トランプタワーの彼のオフィスを訪ねても、トランプ氏はいつもデスクの向こうから”ハロー”と挨拶するくらいで、前に出てきて握手を交わすことはありませんでした。誰かと握手しても、その後では手洗するような“黴菌恐怖症”だからです」

 クリンリネスにこだわる人はいる。しかし、上質な肉であっても、黴菌を死滅させるべくカチカチになるまで焼かれれば、最高の味わいが得られようはずがない。

 さらには、その食べ方もトランプ大統領という人物を物語っている。ステーキにケチャップをつけて食べるのだ。アメリカでは、彼のそんな食べ方について”お子様みたいだ”と揶揄する声もある。実際、トランプ大統領は、別荘のあるフロリダのマーラーゴでも、子供がよく食べるミートローフを好んで食べているという。ビッグマックやケンタッキーフライドチキンのような子供が喜びそうなファストフードも大好きだ。ピザも、トッピングだけ食べて、クラストは食べないという好き嫌いの多い子供のような偏食ぶりである。そして、これらはどれも、古き良きアメリカンなフードだ。

ケチャップか、和風ダレか

 昨年取材した、『熱狂の王 ドナルド・トランプ』の著者で、ピュリッツァー賞受賞ジャーナリストのマイケル・ダントニオ氏が、こう話していたのを思い出す。

「トランプ大統領は、1950年代の古き良きアメリカ黄金時代へと回帰したがっている”少年王”なのです」

 しかし、1950年代のアメリカとは違い、現代のアメリカは多種多様なエスニックフードで溢れている。それにもかかわらず、トランプ大統領には、エスニックな新しいフードを受け入れる姿勢が感じられない。食べるフードにおいても、政治方針同様、排他的な”アメリカ第一主義”を貫いているかのようだ。

 トランプ大統領は、今回、日本で供される和牛ステーキにも、“少年王”よろしく、ケチャップをつけて食べるのだろうか? それとも、”少年王”の汚名を返上するべく、”和風ダレ”をつけて食べるという大人なパフォーマンスをして見せるのだろうか? トランプ大統領のステーキの食べ方から、対日外交の姿勢が見えてくるかもしれない。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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