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リサイクル率80%! 「ラーメン凪」の煮干はスープを取った後どうなっているのか?

井手隊長ラーメンライター/ミュージシャン
株式会社凪スピリッツジャパンの代表・生田悟志さん (※筆者撮影)

国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)に目標12「つくる責任 つかう責任」というものがあり、その中に廃棄物の管理や削減の取り組みの内容が含まれている。

食品であれば「食品ロス」や「リサイクル」の問題が大きく取り上げられ、世界中でその対策に追われている。

すごい煮干ラーメン凪 西新宿七丁目店 (※筆者撮影)
すごい煮干ラーメン凪 西新宿七丁目店 (※筆者撮影)

ラーメン店においては、どのような対策が行われているだろうか。

あまりに対策が遅いと嘆くのは「すごい煮干ラーメン 凪」を展開する株式会社凪スピリッツジャパンの代表・生田悟志さんだ。

生田さんが環境を考えるようになったのは、オゾン層の破壊や地球温暖化、公害など環境破壊のニュースを見た時からだった。10年ほど前のエコブームの時代に、店で使っていた割り箸をやめエコ箸を採用したが、それも半年で摩耗し、捨てざるを得ない状況になった。

有識者に聞くと、日本で作られる割り箸は端材や間伐材が原料になっていて、それ自体が不要なものの有効活用だということを知る。エコ箸を洗って使う方が環境に負荷がかかるかもしれないということを知ったのである。

「凪」の「すごい煮干ラーメン」 (※凪スピリッツ提供)
「凪」の「すごい煮干ラーメン」 (※凪スピリッツ提供)

外向けのパフォーマンスのためだけのエコは止めよう。そう思った生田さんは、ラーメンのスープに使う大量の「煮干」のガラの再利用をしようと動き始める。

「凪」では毎月6トンほどの煮干を使う。これを再利用のために処理するとなると、そのために電気代などのコストがかかり、エコを目指しながら実際はエコにならないというジレンマに陥っていた。

生田さんは毎月6トンほど出る煮干のガラの再利用に乗り出した (※筆者撮影)
生田さんは毎月6トンほど出る煮干のガラの再利用に乗り出した (※筆者撮影)

「大量の煮干の再利用は手を尽くしましたが、上手くいきませんでした。使った煮干のガラを使って味噌を作れば量ができすぎる。粉末にしようとすると乾かすなどの加工にコストがかかりすぎる。煮干をネギ畑にまいて肥料にしようともしましたが、虫が湧いてネギがすべて腐ってしまいました」(生田さん)

できることから一つずつトライしてきたが、もっと根本的に手を打たねばと思うようになった。

ここで廃棄物の管理会社である株式会社イーコスに相談を持ちかける。イーコスは廃棄物処理に関する法令を遵守し、自社のネットワークを生かしリサイクルを推進する会社だ。

こうして、「凪」の廃棄物はすべてデータ取りを行い、今まで単純焼却してきたものをできるだけリサイクルに回していった。

「凪」のセントラルキッチン(板橋区) (※筆者撮影)
「凪」のセントラルキッチン(板橋区) (※筆者撮影)

板橋区にあるセントラルキッチン(工場)では、細かい麺や小麦、煮干ガラを回収して、日本フードエコロジーセンターの飼料化工場で豚のエサにし、全国の養豚場に送られている。豚ガラ、鶏ガラ以外の廃棄物はほとんどリサイクルに回っていて、そのリサイクル率は約80%に上る。

大量の煮干ガラは豚のエサとしてリサイクルしている (※筆者撮影)
大量の煮干ガラは豚のエサとしてリサイクルしている (※筆者撮影)

麺・小麦 931kg

煮干ガラ 5283kg

豚・鶏ガラ 1526kg

計 7740kg

リサイクル率 80.3% (2021年10月実績)

製麺工場でも細かな麺の切れ端や小麦粉が出る (※筆者撮影)
製麺工場でも細かな麺の切れ端や小麦粉が出る (※筆者撮影)

豚ガラ、鶏ガラのような骨のリサイクルはどうしても難しいため、スープを仕込む時に骨と骨以外を分けて炊く必要が出てくる。別々に炊くというやり方のほかには、寸胴の中に分けるための仕切り板を入れる、骨以外をネットに入れて炊くなどがある。

「現場は一時的に大変になりますが、慣れればできますし、家でゴミを分別するのと基本的には同じです。各現場のスタッフにやることの意義をしっかり伝えて落とし込むことが大切だと思っています」(生田さん)

専用の容器で毎週回収を行う (※筆者撮影)
専用の容器で毎週回収を行う (※筆者撮影)

ラーメン店においては、全国でチェーンを展開するような店では取り組みを始めているが、個人店レベルになるとコスト面からもなかなか手が出ない状況だ。生田社長はこれをラーメン業界全体に広げ、全体のコストを下げる動きを目指している。

「コスト面では、現状だと通常の処理の1.5~2倍はかかってしまいます。ただ、今までやっていなかったからコストがかからなかっただけで、これが当たり前だと思った方がいい。そして、業界、地域で一気に取り組めばコストは下がる。そこを目指したいと思います。

さらには、取り組みをしているお店を“見える化”し、店に来ていただくお客さんにもしっかりアピールできるようにした方がいいと思います」(生田さん)

これからは競争優位よりもシェアの時代。効率化を図ってコストを下げ、個人店でも取り組める仕組みを作ることが大切だ。

「分別さえしっかりできていればリサイクルは可能です。基本的に、人間が食べられるものはリサイクルできると考えて問題ありません。業界の意識がそろっていけば、いずれ『ゴミを買わせてくれ』という時代が来るかもしれません」(生田さん)

ラーメンライター/ミュージシャン

全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。東洋経済オンライン、AERA dot.など連載のほか、テレビ番組出演・監修、コンテスト審査員、イベントMCなどで活躍中。 自身のインターネット番組、ブログ、Twitter、Facebookなどでも定期的にラーメン情報を発信。ミュージシャンとして、サザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」や、昭和歌謡・オールディーズユニット「フカイデカフェ」でも活動。本の要約サービス フライヤー 執行役員、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長も務める。

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