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窮地のレアル・マドリーを救うのは誰か?/Con Pelota “エル・クラシコ”プレビュー(前編)

小澤一郎サッカージャーナリスト
「負ければ解任」も噂されるレアル・マドリーのロペテギ監督(写真:ロイター/アフロ)

 10月28日(日)16時15分(日本時間29日00時15分)にキックオフとなる、ラ・リーガ第10節のバルセロナ対レアル・マドリーの“エル・クラシコ”。

 両チームはどのような状況でこの一戦に臨むのか。

 倉敷保雄、中山淳、小澤一郎によるユニット「Con Pelota(コン・ペロータ)」による直前プレビューの前編は、「このクラシコで負ければロペテギ監督解任」と噂されるなど窮地に追い込まれているレアル・マドリーの現状を詳しくお届けする。

 

■2007年以来、久々にメッシ、ロナウド不在のエル・クラシコ

 

倉敷  まず小澤さんに伺います。現状の両チームの戦力をどう分析していますか。

小澤  大きいのは2007年12月以来、久々にメッシ、クリスティアーノ・ロナウド(現ユベントス)の2枚看板がそれぞれのチームにいないエル・クラシコになるので、より「チーム対チーム」という見方がなされるクラシコになると思います。マドリーの方は今シーズン最初からロナウドがいませんし、今季は彼が抜けたことによる得点力不足が課題です。

戦力的にはやはりバルセロナの方が、メッシがいないとはいえ充実している印象です。ただ、逆に自分の結論から言うと、今回のエル・クラシコはマドリー有利なんじゃないかなと。追い詰められているからこそ、彼らの反発力みたいなものが、この大舞台だからこそ出ると予想しています。

倉敷  いない選手の穴埋めはどの程度できていると考えますか。

小澤  ロナウドの抜けたマドリーに関しては今季、ロペテギが望んだほどのレベルのFWを獲得できず、結果的にリヨンからマリアーノ・ディアスを戻しました。一方で、ベンゼマが昨季までのロナウドのサポート役と違ってストライカーとしての本来の決定力を出していく期待もありましたが、絶対的エースとまではなっていない。

ベイルも出場した時には得点していますが、やはりまだコンディションに波があります。前線の選手の得点力という意味では、バルサよりもマドリーの方が不安を抱えています。

バルセロナも「メッシ依存症」と長年言われてきた中で、突然9節のセビージャ戦でのメッシの怪我(右腕骨折)によって3週間の離脱が決まってしまった。メッシ不在の試合がCLインテル戦(10/24)でしたが、逆にスアレスが奮起していました。

メッシの代わりはデンベレの予想が多かったですが、バルベルデ監督はラフィーニャを使ってきました。得点こそなかったですが、スアレスはやはり相手にとって怖い存在ですし、調子を上げてきた印象です。いない選手の埋め合わせという意味でもバルサの方が上手くいっているようには見えます。

倉敷  中山さんは今回のエル・クラシコをどう見ますか。

中山  まず、レアル・マドリーのジュレン・ロペテギ監督は今回のクラシコの結果にかかわらず、解任される可能性が高いという状況は頭に入れておきたいですね。これまでのロペテギ監督の采配を見ていると、試合によってシステムやメンバーを変えていたジダン前監督の時代と違って、ほぼ同じかたちで戦っている印象があります。

たとえばジダンの場合は、対バルセロナ戦ということを考え、昨シーズンで言えばコヴァチッチ(現チェルシー)をメッシのマーク役として起用するなど、蓋を開けてみなければ分からないような采配をしていました。

しかし、ロペテギはそういうことがほとんどありません。選手の怪我などで多少の入れ替えはするにしても、大体やることは一緒です。ただ、これが最後になる可能性が高い試合で、これまでの流れで彼が采配を振るうのか、それともバルセロナ対策というものをしっかりして戦うのかという部分は、大きな注目ポイントになると思います。

また、スタメン予想で言うと、カルバハルが怪我で間に合わないので右SBをどうするのか。オドリオソラの先発は多分ないと思うので、ナチョを右SBで起用するのではないでしょうか。それと、CBはインテル戦で温存したヴァランが戻るでしょう。あとは、今シーズンはイスコがやや不調なので、前線の3人はベンゼマ、ベイルは確実として、左にアセンシオを使うかどうか。ただ、アセンシオも調子が良くないという点がネックになっていますよね。

逆にバルセロナは、直前のCLインテル戦のメンバーがメッシ不在時のベストチョイスとなるでしょう。インテル戦と同じメンバーで、しかもマドリーのCLが火曜でバルサは水曜という点から言うと、疲労という部分は考慮する必要がありますので、そういう部分では、もしかしたらラフィーニャではなくデンベレを起用する可能性はゼロではないという見方もできます。とはいえ、インテル戦と同じスタメンになるという予想が妥当でしょうね。

 

■CLプルゼニュ戦での失点シーンから見えたこと

 

倉敷  勝つことでしか問題を解決できないロペテギ監督に求められる仕事は何ですか? 戦術面か、モチベーターとしての面か、中山さんはどんなところを、追い込まれたロペテギに期待しますか? 

中山  まずモチベーターというところで言うと、彼にはジダンのようなカリスマ性があるわけではありません。たとえばCLプルゼニュ戦(10/23)でも2−0の状況でベイルを下げてアセンシオを投入し、システムを4−4−2に変えました。しかしその後の選手たちを見ていると、4−4−2に変えた意味を理解しないままプレーしていたように思います。

結局、トニ・クロースが不用意に攻撃に参加したところからカウンターを受けてしまい、交代で入ったフェデリコ・バルベルデも戻り切れずに、失点してしまいました。あのシーンを見た印象としては、ロペテギ監督の指示を選手がしっかり理解してくれるような関係性が構築できていないのではないかと疑ってしまいます。

倉敷  もう少しマドリーの話を続けます。小澤さんはレアル・マドリーが今季ここまで不調な理由、特にアウェーでほとんど勝てていない状況をどう分析しますか?

小澤  決定機を作ってシュートは打ってはいるのですが、それが入らないというのが一番大きい。それを取り除くと、やっぱり前線の3枚のポジションが、ベイル、ベンゼマが出た時には定まっていますが、やはり左に入るアセンシオ、イスコのポジション、役割が定まっていない。

今季のマドリーの左ウイングは、基本流動的に動いて、中盤に下がります。しかし、その流動的な動きが人によってバラバラでチームとして定まったポジション、約束事がないように見受けられます。

ジダンの時もそうした面はありましたが、やはりロナウドがどっしり真ん中に構えていたので、彼を中心に周りが動く約束事、序列はピッチ上で見えました。今季のマドリーの左サイドの幅と深さは、マルセロの攻撃参加によって作る約束事は確かにあります。ただ、左ウイングとの連携はあまりない。そこはもう少し監督が戦術的に落とし込んで整理する必要があるのではないかと見ています。

あともう1つ、これは度々言っていますが、ロシアW杯後で特に中盤の3枚のカゼミーロ、クロース、モドリッチのコンディションが悪い。モドリッチ、クロースがあれだけミスパスをする、ボールを失ってからのトランジションの強度が出ないのはロペテギとしても予想外だったでしょう。

ボール保持から敵陣に押し込み、失ったとしても高い位置で即時回収というところが全然出来ていないので、カウンターを受ける頻度が高い。加えて、W杯優勝メンバー(フランス代表)のヴァランも不安定ですので、間延びしていることが多いし、守備が安定していません。

  

■補強面では年々戦力ダウン!?

 

倉敷  レアル・マドリーはCL三連覇を果たし、ジダンとロナウドの退団でひとつのサイクルが終わったとの見方もあります。実際にロペテギの手腕だけが問題ではないと思いますが、小澤さんはどんな意見をお持ちですか。

小澤  CL3連覇を達成して、その後W杯もあったので、主力選手のモチベーションが下がっている部分はあるでしょう。あとはやはり補強面。ここはマドリーのファンもきちんと分かっていて、ロペテギを解任すべきかという現地メディアでのアンケートではいつも半々ぐらいに分かれるところを見ると、批判の矛先というのはペレス会長とホセ・アンヘル(GM)のフロントです。

ロナウドの穴を埋めなかった、コヴァチッチが出て行き、ロペテギがMFをリクエストしたけれども連れてこなかった。それによってダニ・セバージョスが出場機会を得ているプラス面もありますが、補強面からマドリーを見ると年々チームとしての選手層の厚み、レベルはダウンしている印象です。

倉敷  なるほど。では選手の面を見ていきましょう。先程中山さんからは具体的なポジションの話が出ていました。まず左のマルセロが完全な状態で出られるか分からない。右のカルバハルも難しい。小澤さんは、マドリーのDFラインの並びをどう考えますか。

小澤  CLプルゼニュ戦を見ても、ルーカス・バスケスのサイドバック起用というのは厳しいと思っているので、中山さんと同意見で右SBはナチョを置くしかない。マルセロの怪我は大丈夫という情報は出ているので、間に合わせてくるでしょう。

倉敷  もし、マルセロが出られないとしたら誰ですか?

小澤  控えにレギロンがいることはいますが、まだ経験もレベルも足りない選手なので、万が一マルセロが欠場となればナチョを左に回してオドリオソラを右で使うしかないでしょう。

倉敷  センターバックはどうします? 調子が上がりませんが、それでもヴァランで行きますか。

小澤  ヴァランで行くでしょうね。大舞台なので、ここは彼に信頼を置いて、昨季までのヴァラン、ラモスに戻ってもらう意味でも使うと見ています。

  

■「ゴールにボールが入りたがらない」時期を乗り越えたジダン体制

  

倉敷  マドリーの決定力について中山さんに伺います。マドリーは長くこの問題に悩むことはありませんでした。ロナウドにどのような形でボールを渡せば点が取れるかということが主な攻撃システムだったわけですが、彼のいない今季、攻撃の完成度はどう見ていますか?

中山  開幕当初はベンゼマが順調にゴールを決めていましたし、彼が柱になるだろうと思っていました。また、珍しくベイルも怪我なく開幕から好調でしたから、その2人が主な得点源になり、さらにマリアーノ・ディアスが1シーズンで二桁以上ゴールを決めてくれれば、ある程度はリーグ優勝を狙えるだけの得点力をキープできるのではないかなと思っていました。

ところが、ベンゼマのパフォーマンスが落ちてしまったところから異変が始まり、チームとしてフィニッシュが決まらない状況が続いています。でも、考えてみたら昨シーズンもロナウドが開幕から不調が続き、よくジダンが「ゴールにボールが入りたがらない」というコメントをしていましたよね。

ただそのときは、メディアもジダンに対して批判を強めることはなかなかできないという部分を含めて、ジダンだからこそあの苦しい時期を乗り越えられたと思います。実際、ロナウドの復調とともにチームも調子を上げて、最終的にはCL3連覇を成し遂げたわけですから。

しかしロペテギが同じように周囲の批判に耐えられるかというと、おそらく耐えられないでしょう。最近のアセンシオやイスコの調子を見ても、急に決定力が上がるとも思えません。だとしたら、監督を変えて選手の気持ちをリフレッシュさせるしかない、という流れになりそうな予感はします。

 

■メディアとロペテギの関係は?

  

倉敷  クラシコは全メディアが取り上げるトピックスです。小澤さん、メディアとロペテギの関係というのはどうですか?

小澤  やっぱりジダンと違ってカリスマ性がないので、メディアはロペテギを思いきり叩ける状況にはありますよね。だから、ここ最近の会見では本当に解任を連想させる質問ばかりです。

倉敷  それは厳しいですね。

小澤  最近のロペテギの会見でメディアは「カンプ・ノウのベンチに座っていると思いますか?」みたいな質問ばかり出ています。CLプルゼニュ戦後の会見で、勝利したのにロペテギに「勝った監督だとは思えない表情ですが?」という質問をした記者にロペテギもちょっとイラッとしたのか、「あなたは心理学でも専攻されていたのですか?」と聞き返す場面がありました。そのくらいロペテギもメディアからの袋叩き、批判に消耗しています。

中山  しかも監督に就任するまでの経緯として、W杯直前にスペイン代表監督を辞め、代表にダメージを与えてマドリーの監督になったというのは大きいでしょうね。それは、メディアとしても叩きやすいバックグラウンドになっていると思います。

倉敷  ロペテギの実践するサッカーについてまず小澤さんに聞きます。昨季までのマドリーは超高速カウンターがとても魅力的でしたが、ロペテギになってややポゼッションに移行していますね。同じ印象をプレミアのレスターシティにも感じていて、こちらは監督がクロード・ピュエルになってから、ヴァーディという必殺の武器があるのに宝の持ち腐れです。

カウンターに対してのセットアタックがワールドカップ以降、重要視されているのもわかりますし、新監督が今までとの違いを見せたい気持ちもわかりますが、この移行期間も勝っていかないといけない。彼はどう考えていると想像しますか?

小澤  やはりロペテギ自身、マドリーに来るまでの監督キャリアを見ても、基本的にはボールを持って相手陣内に押し込んでというポゼッション型の監督ではあります。そういう監督ですし、マドリーというクラブはスペクタクルなサッカーをして、単にカウンターで勝つだけではなく、ボールを支配して勝つんだ、ということは自分なりにくみ取って来ているはずです。

カゼミーロではなくクロースをアンカーに置くトライを見ても、そこへの挑戦は感じますね。ただ、クロースは「自分はカゼミーロじゃない」みたいな発言をして受け入れていませんでしたが。

倉敷  はい、そんなコメントもありましたね。

小澤  やはりまだ上手く選手に受け入れられてない部分は感じます。あと、スペイン代表なんかでやっていたのは、押し込んでボールをかなり支配しているんだけど、最終的に引かれた時にどう崩すんだという時にはやはりサイドの攻略でした。

スペイン代表の時はサイドバックの活用、時に3バックを使うこともありました。そういうトライも実はやりたいのでしょうが、今のチームのカラーからするとやはり4−3−3、4−4−2の4バックシステムは崩せない。基本的に攻撃はサイドバックの攻撃参加がキーになってくるので、カルバハルが使えないとか、マルセロがシーズン立ち上がりから満足なコンディションじゃないというところは痛手でした。

 

■伝家の宝刀「超高速カウンター」は使うのか?

  

倉敷  中山さんはいかがですか? 追い込まれてもロペテギは自分のやりたいサッカーにこだわるでしょうか。勝ちたい選手たちが自分たちの意思で伝家の宝刀にこだわったりはしないでしょうか。「雀百まで踊り忘れず」なんて展開も想像に難くないと思うんですが。

中山  おそらくカウンターを重視した戦い方はしないと思います。もちろん、これまでの積み上げの中で、選手たちはバルセロナに押し込まれた時にカウンターを仕掛けることは当然できると思います。だから、わざわざ自分たちでバルサを自陣に呼び込んでカウンターで仕留めようという発想は出てこないでしょう。

結局、ここまでを見ていると、ロペテギの色というよりも、どちらかと言うと選手の色をベースにしてチーム作りが進んでいるように見えます。となると、昨シーズンもそうだったように、ボールを支配してスペクタクルなサッカーで対抗するのが自然だと思います。

倉敷  では、マドリーにおいて今回のキーマンになりそうな選手を挙げてもらいます。先ず小澤さん、いかがですか?

小澤  この大一番で出てくるのはアセンシオかイスコかなと。彼らが出てこないとちょっと勝ち目はないでしょう。特に、イスコは会見の発言なんかを聞いていても、リーダーとしての自覚が芽生えて、窮地に追い込まれているロペテギを助けたいという強い意志が見えます。元々、アンダーのスペイン代表時代から重用してもらっている監督ですから恩義を感じているのでしょう。

アセンシオも今年はロナウドが抜けて、「アセンシオのシーズンになる」という期待を背負った中で、ここまで全然奮っていない。マドリーのみならず、これからのスペイン代表を担う2人には個人的にも期待しています。

倉敷  イスコはコンディションが気になりますね。中山さんはいかがですか? 

中山  現在のマドリーは選手層が厚そうに見えて実際は薄い。もしAチームとBチームに分けたとしたら、両チームの力の差がものすごく出てしまうのではないでしょうか。それを考えると、今回のクラシコで活躍するとしたらAチームの誰かということになるでしょうね。

こういった大きなゲームでその可能性を秘めているとしたら、やはりベイルが最有力だと思います。コンディションにもよりますが、彼の図抜けた身体能力、あるいは爆発力みたいなものが、こういった大一番では期待できそうです。

 

後編に続く>

 

Con Pelota(左から中山淳、倉敷保雄、小澤一郎) photo by Raita Yamamoto
Con Pelota(左から中山淳、倉敷保雄、小澤一郎) photo by Raita Yamamoto
サッカージャーナリスト

1977年、京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒。スペイン在住5年を経て2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論を得意とする。媒体での執筆以外では、スペインのラ・リーガ(LaLiga)など欧州サッカーの試合解説や関連番組への出演が多い。これまでに著書7冊、構成書5冊、訳書5冊を世に送り出している。(株)アレナトーレ所属。YouTubeのチャンネルは「Periodista」。

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