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スポナビライブのラ・リーガ中継終了に伴う「チーム倉敷」としての見解

小澤一郎サッカージャーナリスト
左から中山淳、倉敷保雄、小澤一郎 photo by Raita Yamamoto

 2月8日、スポーツ動画配信サービス「スポナビライブ」が2018年5月31日でのサービス終了を発表しました。これに伴い、昨季(16−17シーズン)から同サービスにおいて配信されてきたスペイン1部のラ・リーガ中継も今週末の第23節が最後となり、スポナビライブで提供していたプレミアリーグ、ラ・リーガの海外サッカーコンテンツは今後「DAZN」で提供されることになります。

 スポナビライブにおけるラ・リーガ中継は、昨季より実況の倉敷保雄さん、解説の中山淳さん、そして筆者(小澤一郎)の3人の「チーム倉敷」を中心として担ってきました。(玉乃淳さんは一身上の都合により解説は休業中)

 われわれが中継終了の一報を受けたのは、1月末の第21節中継時。現場責任者より「2節後の第23節をもってスポナビライブのラ・リーガの中継制作を終了します」と通達されました。

■権利が残る中でライツホルダーたるスポナビライブの撤退

 シーズンまっただ中での一方的な中継終了宣告に、われわれも驚きと動揺、そして無念さを隠せません。

 もちろん、スポナビライブがラ・リーガ中継の看板として「チーム倉敷」を抜擢してくれたことに対しては感謝しています。一方でスポナビライブ(ソフトバンク)は昨季から19−20までラ・リーガの4シーズン分の放映権を獲得していたわけで、日本におけるライツホルダーとして今季を入れてまだ2シーズン半権利が残る今のタイミングでサービス終了の決断は、「権利元としての最低限の責任も放棄した」と糾弾されても致し方ない異常事態とわれわれは受け止めております。

 ただし、ここでチーム倉敷としての見解を掲載するのは何もソフトバンク(スポナビライブ)の責任を問い詰めることが目的ではありません。そうではなく、トップダウンの発表だけでは何も伝わらない(伝えてもらえない)中継現場サイドで持っていた作り手としての想いや現状に対する危機感をスポナビライブでラ・リーガ中継をご覧頂いてきた視聴者の皆様にスピークアウトすることが真意です。

 チーム倉敷は、1シーズン半にわたりスポナビライブのラ・リーガ中継の「顔」としてスポナビライブと視聴者(契約者)、そしてラ・リーガファンをつなぐ大役を有難く頂戴してきました。今週末の中継現場で触れることができるかどうかはわかりませんので、ここで最初に伝えたいのはスポナビライブでラ・リーガ中継をご覧頂いていた視聴者の皆様に対する感謝の気持ちです。

 何とも中途半端な幕切れにはなってしまいましたが、これまでわれわれの実況、解説にお付き合い頂きまして本当にありがとうございました。

 後味の悪い終わり方にはなりましたが、皆様には「さようなら」ではなく、「またどこかで会いましょう」という意味のHasta luego(アスタ・ルエゴ)を残して去りたいと思っています。

■加入者の視聴料だけで放映権料をペイできているところは一つもない

 そもそもサッカーのコンテンツビジネスは採算度外視で赤字を垂れ流している放送、配信形態が実情で、長くこの業界で実況として活躍する倉敷保雄さんによると「加入者の視聴料だけで放映権料をペイできているところは一つもない」とのこと。

 ではなぜどこもそこまで無理をして放映権を買いに行くのでしょうか。

 その問いについても倉敷さんは、「このリーグ、この大会の放映権を持っているという流通イメージによってパトロンから広告収入、銀行から融資を受けやすくなる」のだと説明します。

 長くサッカーメディア界で編集者、ジャーナリストとして活躍されている中山淳さんも「魅力あるコンテンツの放送権、配信権を買うことによって、上場企業であれば株価が上昇するという傾向があります。また、企業としての社会的信用度も上がるため、銀行からの融資を受けやすくなるというメリットもあります」と補足します。

 確かに、UEFAチャンピオンズリーグの放映権を今季限りで失うことになったスカパー!が受けた最も大きなダメージは「株価が下がったこと」と関係者は漏らしていました。

 ソフトバンクがスポナビライブを立ち上げた理由ですが、昨季ラ・リーガ中継を依頼された当時は「スポーツ配信サービス自体での利益は求めない戦略で、あくまでソフトバンク(モバイル)の契約者の増加とキャリアの維持が目的」という説明を倉敷さんは受けていたそうです。確かに、スタート時の金額設定を見ればソフトバンク契約者が月額500円、契約者以外は月額3,000円ですから、この金額差からも「ソフトバンクへの囲い込み戦略」であったことは容易に理解できます。

 しかし、その後スポナビライブはあっさりとソフトバンク契約者以外の価格を下げて視聴者の囲い込み戦略に変化するような動きを見せました。またサッカーで言えばプレミアリーグとラ・リーガのサブライセンスをJ SPORTS(プレミア)、WOWOW(ラ・リーガ)のみならず、同じ配信事業者であり最大のライバルであるDAZN(プレミアとラ・リーガ)にまで売ったことで撤退とまではいかなくとも「高額な放映権料の回収」「事業縮小」の動きを見せました。

■チーム倉敷が目指すゴールは「サッカーファンを増やすこと」

 そもそもサッカー中継の業界では長年、サッカー視聴にお金を払う層は「10〜15万人」と言われてきました。おそらく、今もそのパイは大きく変わっておらず、われわれはむしろ「縮小傾向にあるのでは?」と危惧しています。

 チーム倉敷としてラ・リーガ中継で挑んできたことは、少なくともラ・リーガのファンを増やすことでした。ラ・リーガには欧州屈指の戦術レベルがあり、フットボールそのものに大きな魅力があることは間違いありません。

 しかし、日本でリーガファンを増やすためには倉敷さんが実況で体現されていた「フットボールをきっかけに派生する文化も伝えていく」姿勢、つまりスペインの食文化、言語、地域性といった国そのものの魅力を訴求していくことが必要だと私たちは考えてきました。

 だから、倉敷さんに影響を受ける形で私も中継準備においては単に両チームの試合をチェックする、現地メディアに目を通して試合情報をまとめるのみならず、スペインの一般紙や国営放送のネット配信ニュースを細かくチェックし、スペインの文化に関連する書籍や雑誌を手に取る習慣を作りました。

 結果的にスポナビライブを舞台とした挑戦は私たちの力不足もあって道半ばで途絶えることになったわけですが、今後どの舞台でどういうリーグ、大会、サッカーを扱うことになっても、われわれがサッカーの中継や番組で目指すゴールは「サッカーファンを増やすこと」です。

 チーム倉敷の先頭に立つ倉敷さんはラ・リーガの中継を担うのであればレビュー、プレビューをしっかりと行い、質の高いハイライト、関連番組を作りましょうという提案を昨季の中継スタート時から制作サイドに行ってきました。

 人口減少、高齢化の加速のみならず、趣味、娯楽に使えるお金が減ってきている日本ですから、コンテンツを何の道案内もなく垂れ流すだけではお金を払ってまでサッカーを観てくれるファンは少なくとも「増えない」でしょう。

 一昔前は電車やお店で、普通に欧州でプレーする日本人選手の活躍ぶり、世界最高峰の大会であるCLが世間話のネタとして話題に上がっていたように思いますが、今やサッカー好きを公言される人でも「月額数千円を払ってまでサッカーを観なくなった」という人が実際増えているのではないでしょうか。

■今はサッカー文化の危機に直面している

 倉敷さんは、「現実性の高い子作り政策を拡散していかないと、人口はどんどん減少します。日本社会の出生率が上がっていないのと同じで、若者はエンタメにどんどんお金を払えなくなっているし、無料でゲームはできるし、ただでYouTubeは見れる。そういう中で、今はサッカー文化の危機に直面しているのではないでしょうか」と語りかけます。

「レビューとプレビューをしっかりとやって、このリーグにはこういう面白さがあるということを啓蒙していくことが大切です。そのリーグ自体の面白さ、国としての面白さをわかっている知識や人を総動員して、しなやかな文化として展開していかないと今のままではサッカーが文化として痩せて、枯れていきます。

 例えば、来季からスカパー!がブンデスリーガの放映権を獲りましたが、ドイツはこんな仕組みのリーグなんだ、日本とのつながりはこんなにあって、日本人選手が活躍できているのはこんな理由がある。アントラーズで培った技術がブンデスリーガのレベルでも通用する理由はここにある、といった技術分析にまでうまく落としていけば、Jリーグへの興味にも繋がるでしょう。作り手の工夫と愛情次第で素晴らしいコンテンツになる大きな可能性があります。

 逆に言えば、『日本人が何人もプレーしています』と宣伝しただけではサッカーファン、契約者の獲得にはつながりません。ブンデスリーガの世界レベルでの立ち位置と、日本人選手のレベルをしっかり比較する番組がなければ新しいファンは獲得できないでしょう。

 残念ながらサッカー中継制作の現場は、ここ数年ずっと、どのチャンネル、配信サービスもそこを理解している人間が不在で、劣化し続けています。若いディレクターに正しいビジョンと予算を与えて自由に勝負させる人間がいないのです。少し古くとも大きな船があるというのに新しい水夫に舵を渡していないのでは、新たなコンテンツを買ったところで新しい波を乗り越えてはいけないでしょう」

 こうした倉敷さんの意見に付け加える形で中山さんは「企業が利益を追求しなければいけないことは重々承知していますが、権利を買いながら『儲からないから』、『もう要らないから』と言って、あっさり事業から撤退するようなことはサッカー界にとっての大きな損失につながります。それだけは本当にやめてほしい。そこには、これまで続いてきた日本のサッカー中継文化も間違いなくあったはずなので、現在のライツホルダー、これからその担い手として手を挙げようと考える事業者には、『文化として受け継がれてきたものを手に入れる』という高い意識を持ってもらいたいです」と冷静に語ります。

■本来、フットボールはしなやかなもの

 日本においては「娯楽が多い」とよく言われます。

 もしかすると豊かなサッカー文化を醸成していくために、これだけライバルとなる娯楽があることはマイナスなのかもしれません。それでも倉敷さんは、「フットボールほど世界につながっている競技は他にはないわけです。本来、フットボールってしなやかなものなんですよ」と力強く話します。

 倉敷さんが口にする「しなやかなもの」

 欧州サッカーではファン(リーグ)のセグメント化が進み、自分の好きなリーグ以外のリーグまで幅広く興味を持って視聴するような環境・文化がなくなりつつあります。また、Jリーグもご贔屓のチーム以外のことには関心を示さないという傾向が顕在化しているように感じます。確かに数多くの娯楽が存在する日本において可処分の所得と時間が年々減少傾向にある中、そうした傾向は自然な流れなのかもしれません。

 そういう現状だからこそ倉敷さんは「『まだ見ぬサッカーの友へ』という番組が必要なんです」と力説します。感動、驚き、知識といったものをパッケージにして、道案内を付けて伝える。本来、サッカーも文化も「しなやかなもの」なのです。倉敷さんがいればそう難しいものではない気がするのですが、現状どこもやらない、やろうとしない。これは私個人の見解になりますが、とても残念、ですよね。

 ただし、フットボールはこれからも生き続けていきます。スポナビライブがラ・リーガ中継を終了することになってもDAZNやWOWOWで視聴することができます。われわれが愛するラ・リーガ、スペインという国は存在し続けますから。

 ラ・リーガを好きである限り、フットボールを愛する限り、また皆さんとはいつか、どこかで再会できるでしょう。

 また会う日まで。アスタ・ルエゴ!

倉敷保雄(くらしき・やすお)

1961年生まれ、大阪府出身。ラジオ福島アナウンサー、文化放送記者を経て、フリーに。現在はスカパー!やJ SPORTSでサッカー中継の実況として活動中。愛称はポルトガル語で「名手」を意味する「クラッキ」と苗字の倉敷をかけた「クラッキー」。番組司会、CM、ナレーション業務の他にゴジラ作品DVDのオーディオコメンタリーを数多く担当し、ディズニーアニメ研究のテキストも発表している。著作は「ことの次第」(ソル・メディア)など。

中山淳(なかやま・あつし)

1970年生まれ、山梨県出身。月刊「ワールドサッカーグラフィック」誌の編集部勤務、同誌編集長を経て独立。以降、スポーツ関連の出版物やデジタルコンテンツの企画制作を行なうほか、サッカージャーナリストとしてサッカーおよびスポーツメディアに執筆。また、CS放送のサッカー関連番組に出演し、スポナビライブでラ・リーガ中継の解説も務めていた。出版物やデジタルコンテンツの企画制作を行う有限会社アルマンド代表。

サッカージャーナリスト

1977年、京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒。スペイン在住5年を経て2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論を得意とする。媒体での執筆以外では、スペインのラ・リーガ(LaLiga)など欧州サッカーの試合解説や関連番組への出演が多い。これまでに著書7冊、構成書5冊、訳書5冊を世に送り出している。(株)アレナトーレ所属。YouTubeのチャンネルは「Periodista」。

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