UCL決勝までに知っておきたい「A・マドリーの守備」

欧州屈指の「堅守」で2年ぶりにUCL決勝進出を果たしたアトレチコ・マドリー(写真:ロイター/アフロ)

5月28日(土)にイタリアのミラノで開催されるUEFAチャンピオンズリーグ(UCL)決勝は2年前と同じく、レアル・マドリーとアトレチコ・マドリーの同国、同都市対決となる。UCL決勝を直前に控え、A・マドリーの守備のプレーモデルをスペインのバルセロナで活動するサッカー指導者の坪井健太郎氏に徹底解説してもらった。

ディエゴ・シメオネ監督の下で、クラブ史上初のCL制覇を目指すアトレチコ・マドリーですが、準々決勝で連覇を狙うFCバルセロナを下し、準決勝では「優勝候補筆頭」と目されていたバイエルン・ミュンヘンにも勝利。2年ぶりの決勝へと駒を進めました。

15-16シーズンのリーガ・エスパニョーラを3位で終えたA・マドリーは国内リーグ38試合での失点数が僅か「18」、1試合平均「0.47」失点でリーガの「最少失点記録」に並ぶ偉大な数字を打ち立てました。欧州主要リーグにおいてもこの失点数の少なさは群を抜く数字で、今やA・マドリーはスペインのみならず欧州でも名実共に「堅守」を誇るチームとなりました。

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具体的な守備のプレーモデルを説明する前に、サッカーの展開を4つの局面に整理する考え方を紹介しておきます。サッカーは自チームがボールを保持している時間帯の「攻撃の局面」、相手チームがボールを保持している時間帯の「守備の局面」、ボールの保有権が切り替わることによる「攻撃と守備の切り替えの局面(それぞれ2つ)」によって整理することが可能です。

この4つの局面は、サイクルとして動いています。

守備のプレーモデルを分析する上では、「攻撃→守備への切り替え」、「守備」の2つの局面を見ていくことになります。

また、守備の局面で実行される「組織的プレッシング」を分析する時にはサッカーのピッチを縦に3分割し、「ゾーン1」、「ゾーン2」、「ゾーン3」と名付け、プレッシングの設定がどのゾーンになっているのかを見極めていきます。

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ここ数年の欧州トップレベルのサッカーを見ていると、プレッシングのやり方がとても緻密になってきています。以前であればプレッシングの実行にバリエーションはそこまでなかったのですが、最近はボールの位置、相手の攻撃の方法によってシステムを替えたり、マークの付き方を変えたり、と複数の守備戦術を併用するチームが増えてきました。

攻撃にもプロセスがあるように、守備のプレッシングにもプロセスがあります。攻撃には「ボール保持⇒前進⇒フィニッシュ」という3段階がありますが、守備ではそれを阻止するために「誘導⇒ボール奪取」というプロセスに整理して考えます。

サッカーというスポーツは団体ボール競技ですから、攻守においてチームで共通の目的を持って連動する必要があります。サッカーのピッチは『68×105メートル』という広大なフィールドですので、攻撃チームには多くの選択肢が与えられています。そこで守備チームはプランなく闇雲にボールを奪いにいっても簡単にパスを回され、はがされてしまいます。

「ボールを奪う」というアクションを可能にするには、その前の準備段階として一定のエリアへの「誘導」を知的に行わなければいけません。守備(組織的プレッシング)がオーガナイズされていないチームは、FWが個人の勝手な判断で相手CBへとアプローチをかけたり、逆にFWがきちんと誘導をしていながら後ろの選手が連動しておらず、簡単にはがされてしまうといったことが起きます。

私の認識では、守備は3つの状況に分けて「使い分け」されています。

【1】ゾーン3で積極的にプレッシングに行く守備

【2】ゾーン2でブロックを形成し待つ守備

【3】ゾーン1に押し込まれゴール前を守る守備

この3つの状況それぞれで守備の戦術アクションを変えているのがアトレチコ・マドリーなのです。CL準々決勝でのバルセロナ戦では1、2戦共に、前半開始10分ほどは【1】のプレッシングを採用していました。

一旦ゲームが落ち着くと、今度は【2】を採用しました。バルセロナのパス回しにおいてGKへバックパスを戻した時、カウンターでゾーン3深くまで到達し、ボールロストした時には【1】を発動させていました。逆に、中盤のプレスをはがされゴール前まで押し込まれた時には【3】の守備へとスムーズに移行していました。

繰り返しになりますが、アトレチコ・マドリーはチームとして明確に3種類のプレッシングを状況に合わせて使い分けています。

これを実際にピッチでミスなく選手全員がプレーするためには、かなりの戦術浸透度がなければ不可能です。そこにシメオネ監督の手腕が見えるのです。

A・マドリーの守備のプレーモデルを説明する上で、CL準々決勝のFCバルセロナとの2試合を用います。16年4月5日にバルセロナのホームであるカンプ・ノウで行われた第1戦は、バルセロナが2-1で逆転勝利をおさめました。

■第1戦 バルセロナ(2-1)アトレチコ・マドリー

バルセロナとのCL準々決勝第1戦でのアトレチコ・マドリーのシステムは中盤が横並びフラットの4-4-2でした。中盤のゾーン2でブロックを作り、中央にパスを通させないよう2トップのグリーズマンとフェルナンド・トーレスがスライドをするのがベースです。

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具体的には、2トップの1人がボールを持っているセンターバックにプレスに行くと、もう1人のFWがバルセロナのボランチであるセルヒオ・ブスケツへのパスコースを切るスライドの仕方です。

前線ではその守備をベースにバルセロナがGKテア・シュテーゲンへとボールを下げた時、要するに敵陣深くまでボールが移動した時には前からはめに行く守備を実行していました。基本的には中盤でブロックを作りゾーン2でボールを待ち・奪う【2】の設定で、GKにボールが下がった時には前に出て行く【1】を実行するという、2種類のプレッシングの併用です。

前からはめに行く時には、ブスケツに対して中盤のボランチ(ガビ orコケ)が出て行き、バルセロナのサイドバック(右のダニエウ・アウベス、左のジョルディ・アルバ)に対しても中盤のサイドハーフであるカラスコとサウールがマークをしていました。

ただし、A・マドリーは前半途中でシステムを4-1-4-1に変更します。トーレスが前半35分に2枚目のイエローカードを受けて退場となりますが、システム変更は彼が退場する前の前半15分あたりの時間帯です。

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A・マドリーがキックオフから何回か前線からのハイプレスをかけに行ったのですが、その時にはがされてしまいライン間を使われるというシーンが2、3回出ていました。その現象が繰り返し出たので、シメオネ監督はゾーン3での積極的なプレッシング【1】をコントロールしました。前に出て行く守備というのはフィジカル的な負荷もインテンシティも高くなりますし、アウェイでの第1戦の序盤から無理をして前に出て行く必要はないという判断があったと見ています。

ただし、システム変更後にトーレスが退場してしまったことで10人となりましたから、それまでの時間帯がいわゆる「監督のプラン」であり、「プランニングされた守備戦術」でした。

■第2戦 アトレチコ・マドリー(2-0)バルセロナ

A・マドリーのホームで行われた第2戦も試合の入りは同じでした。A・マドリーのシステムは4-4-2で、ベースはゾーン2でブロックを形成し待つ【2】の守備戦術です。

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第1戦との違いは、2トップのシステムを試合終盤まで引っ張った点でした。第1戦序盤で4-4-2から4-1-4-1へとシステム変更してから起きた現象として、バルセロナのCBであるピケ、マスチェラーノに「コンドゥクシオン(スペイン語で『運転』の意味)」と呼ばれる”運ぶドリブル”による持ち上がりを簡単に許したことです。

トーレスが退場するまでの数分でしたが、前線には1トップのトーレス1人しかいませんので、相手のCB2人に対して「1対2」の状況となります。そうなると、簡単に横パス1本で前線(FW)のラインをはがされ、前進を許すことになります。

2試合共に守備戦術のプランニングは同じでしたが、2トップを維持して前線のFWのラインでのライン突破を簡単に許さないという狙いだけは、第2戦で新たに見えた守備戦術でした。また、それはシメオネ監督が近年4-4-2のシステムを好んで採用する理由でもあります。

第2戦も実行した守備は同じでしたが、最終ラインでは左サイドバックのフィリペ・ルイスがマッチアップするリオネル・メッシに対してマンマーク気味についていました。通常、A・マドリーの右サイドにボールがある時には、左SBは左CBのカバーリングができるポジションまで中に絞るポジションを取りますが、メッシが右サイドに張っている時のF・ルイスは中に絞らず、左CBのルーカス・エルナンデスとの距離を開けるリスクを冒してもメッシに付いていました。

そのリスクをチームとしてどう管理していたかというと、本来左SBが中に絞って埋めるべきスペースはボランチのアウグスト・フェルナンデスがケアしていました。序盤から自動的にそうした守備をしていたので、これも監督がきちんとプランニングしていた守備と言うことができます。

FCバルセロナのようなボールを保持するプレーモデルを持つチームを相手とする時の守備戦術で大切なことは、自分たちのブロックの前でボールをつながせることです。バルセロナの生命線は中盤の3人(ブスケツ、イニエスタ、ラキティッチ)、もしくはメッシが中央に入ってきた4人によるフエゴ・インテリオール(中央でのプレー)で、そこをいかに封じるかです。

そういった意味で、第2戦でのA・マドリーは中央にボールをほぼ入れさせることなくゲームを進めていましたので完全に「A・マドリーの守備戦術の勝利」と言っていいでしょう。

ただし、第2戦は後半に入りバルセロナがビルドアップの形を変えてきました。ブスケツがピケとマスチェラーノの2CBの間に下りて、A・マドリーの2トップに対し「3対2」の状況を作り、ビルドアップを行うようになりました。

それによってSBが高い位置を取れるようになり、A・マドリーが自陣まで引かざるを得ないような状況、時間帯が多くなりました。メッシも中盤に下りてくる回数が増えてきましたから、バルセロナの攻撃時の陣形は3-5-2のシステムになっていました。

バルセロナのリアクションに対してA・マドリーがどう対応するのかを見ていましたが、結果として前からプレスに行くことを諦め、プレッシングの設定をゾーン1でゴール前を守る守備に変更しました。ただ、A・マドリーが好んで【3】の守備を選択しているわけではないことは強調しておきます。

A・マドリーが攻め込まれた状況下でなぜ失点しないかというと、基本的に「CBが外(サイド)にカバーリングに行かない守り方」をしている点が大きいです。A・マドリーの守備のルールにおいては、ボランチがCBのスペースを埋められる距離にいる時のみ、CBは外へのカバーリングに出ていきます。

UCL決勝で対戦するレアル・マドリーを筆頭に、サイドを突破された際には多くのチームがCBを外(サイド)にカバーリングに出す守り方をしていますが、A・マドリーは「クロスを上げられること」よりも「中央でクロスを跳ね返すこと」にプライオリティを置き、中央でシュートを打たせないことを優先する守備を徹底しています。

(文/坪井健太郎、構成/小澤一郎)