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なでしこジャパンは「華麗なパスサッカー」を忘れたのか?

小澤一郎サッカージャーナリスト
オランダとの決勝トーナメント1回戦に向けた準備を進めるなでしこジャパン

「決勝トーナメントでイニシアチブを取れる試合というのはそう多くない」

6月16日(現地時間)に行なわれたエクアドル戦で1-0の勝利をおさめた後の記者会見でなでしこジャパンの佐々木則夫監督はこう述べた。連覇の期待を背負って迎えた女子ワールドカップ(W杯)・カナダ2015のグループリーグ(GL)で順当に3連勝をして1位通過を決めた後の発言だけに少し違和感を持った人もいるかもしれない。

果たして、冒頭の発言にはどういう意味が込められていたのか?

なでしこ”らしさ”とされてきた「華麗なパスサッカー」はどこへ行ってしまったのか?

■粘り強く、数少ないチャンスをものにするサッカーこそが「らしさ」

記者会見の最後に佐々木監督が冒頭の発言をした文脈は以下の内容だった。

「やはり各国レベルが上がってきているし、個の質も以前と比べればすごく上がってきている大会になっているなと。予想はしていましたけれど、予想以上と感じる部分もあります。前回優勝というのはありますが、われわれが今後の決勝トーナメントでイニシアチブを取れる試合というのはそう多くないんじゃないかなと。持ち前の粘り強さ、そういった中で数少ないチャンスをしっかりとものにすること。われわれのサッカーで、何とか食いついて、食いついて勝って、一つ一つのステージを上げてきたい。それに尽きます」

スイス(1-0)、カメルーン(2-1)、エクアドル(1-0)とのGL3試合で個人的には今大会におけるなでしこジャパンのサッカースタイルがはっきりと確認できた。それは佐々木監督が「われわれのサッカー」と定義した「イニシアチブが取れない中で粘り強く守って数少ないチャンスをものにすること」である。そう考えると、3試合を通してチームの重心が低く、前線が孤立気味だった点もうなずける。

■「華麗なパスサッカー」は幻想?

今年3月に行なわれたアルガルベカップの取材中、宮間あやは「前回大会を見返してもらえばわかると思いますが、なでしこは元々そこまで細かいパスサッカーをしていたわけではありません」と述べていた。その言葉を聞くまで、私自身も世界王者に輝いた結果や「女子サッカー版バルサ」、「華麗なパスサッカー」といった国内外の一部メディアによる過度な賞賛によってなでしこジャパンのサッカーのベースを細かなパスワークや前線からのプレスと連動したコンパクトさにあると勘違いしていたのだが、これまでも、これからもなでしこ“らしさ”とは粘り強い守備であり、耐え忍びながら数少ないチャンスをものにする勝負強さなのだ。

そう、「華麗なパスサッカー」は幻想だ。

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重心の低い戦いを象徴したシーンが、カメルーンとの第2戦にあった。90分に失点したシーンなのだが、なでしこジャパンは2-0で勝っている試合終了間際の時間帯にもかかわらず、中盤と前線の6選手が敵陣に入っていた。その局面で前線の選手たちは高い位置でのプレッシングを選択したが、DFライン(左から鮫島、熊谷、岩清水、近賀)の4選手は前に連動する形でラインをプッシュアップのではなく、攻め残りしていたカメルーンの3トップに裏を取られないよう深めのラインを敷いた。

それによってチームは間延びした状態となり、DFラインの前には広大なスペースが生まれる。そのスペースに下りた17番エンガナモイに上手くスペースを使われてしまい、最後は17番からのスルーパスに抜け出した3番エンシュートに決められ2-1とされた。

なでしこのDFリーダー、岩清水梓はこの時の状況について次のように説明する。

「前に3枚残っていて、1回ロングボールを蹴られそうになったのでラインを下げました。まさか間(バイタルエリア)にあのパスが入るとは思っていなかったので」

ロングボールを警戒してDFラインを下げたアクション自体は理に適ったものだが、もしなでしこのサッカースタイルにおけるプライオリティが敵陣でのボールポゼッション、高い位置でのボール奪取と前線のプレスに連動したコンパクトさであれば、そもそもDFラインはハーフライン付近に設定され、攻め残りしたカメルーンの3トップ全員がオフサイドゾーンに取り残されていたはず。

■構造的に大量得点を奪うチームではない

失点した以上、このシーンはなでしこにとっての課題なのだが、なでしこのプレースタイルに照らした修正法を考えるとDFラインが高いラインを保ってチームをコンパクトに保つよりも、中盤のラインが素早くプレスバックをして決定的なスルーパスを出されないような対処法が適している。よって、今のなでしこジャパンのサッカーは構造的に相手を圧倒してボール支配率を高め、数多くのチャンスから大量得点を奪うようなチームではないということ。

日本との対戦までに2戦で16失点を喫していたエクアドル相手に1点止まりだった攻撃陣に対して案の定、「得点力不足」といった文字が踊っているが、決勝トーナメント以降も鍵は粘り強い守備である。具体的には、DFラインと中盤のラインの距離感をいかに狭く保ち続けるか、相手のシュートに対して面を作ってブロックできるかどうかだと見ている。

サッカージャーナリスト

1977年、京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒。スペイン在住5年を経て2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論を得意とする。媒体での執筆以外では、スペインのラ・リーガ(LaLiga)など欧州サッカーの試合解説や関連番組への出演が多い。これまでに著書7冊、構成書5冊、訳書5冊を世に送り出している。(株)アレナトーレ所属。YouTubeのチャンネルは「Periodista」。

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