U-17日本代表が”なんちゃってスペインサッカー”にならないワケ

ロシア戦でのU-17日本代表のフォーメーション

U-17ワールドカップ初戦のロシア戦に勝利し、21日(現地時間20時キックオフ)にはグループリーグ第2戦となるベネズエラ戦を控えるU-17日本代表。ロシア戦のスコアは1-0だったとはいえ、欧州チャンピオンを相手にボール支配率62%の数字を叩き出したポゼッション、パスワークは「圧巻」の一言。試合後には他国の記者から「日本のサッカーはサプライズかつセンセーショナルだった」という称賛の言葉をかけられたほど。

■手段が目的にすり替わらない”96ジャパン”のサッカー

日本でもFCバルセロナとスペイン代表をイメージした「ポゼッション型」、「パスサッカー」と呼ばれるようなマイボールを大切にボールと試合の主導権を握ることを目指すサッカーが育成年代を中心に浸透するようにはなってきたが、まだまだ本来は手段であるべき「つなぐこと」、「ボールを失わないこと」が目的化してしまい、本来の目的である「ゴールを奪う」ために“有効”なボール回しとならないチームが散見される。

その意味で、今大会の“96ジャパン”(96年生まれ以降の選手で構成される今U-17日本代表の呼称)のサッカーは、初戦のロシア戦だけではなくベネズエラ戦以降も「パスをつなぐこと」の有効性をはっきり示した上で、時にJリーグやA代表のようなレベルの試合でさえ現象して見える「つなぐことが目的化してしまう罠」を回避するための具体策を指導者やサッカーファンに提示してくれるものと期待している。

17歳以下の日本代表監督のみならず、今や「育成世代のスペシャリスト」として実績と評価を兼ね備える吉武博文監督のサッカーが“なんちゃってスペインサッカー”にならないワケ(訳)は当然ながらいくつかあるのだが、集約すると「究極のリアクションサッカー」であることに尽きる。どういうことかというと、吉武監督からも選手たちからも「自分たちのサッカーをする」という合言葉は聞こえてくるのだが、それが「相手の存在を無視したサッカー」とはならず、「相手を見て、判断・相談するサッカー」、つまりは相手の存在を意識したアクションを起こすからこそのリアクションサッカーになっている。

攻撃のコンセプトは至ってシンプルで「相手の守っていないところを攻める」こと。ロシア戦での勝利後、吉武監督は「それぞれの試合であまり具体的なことは言わないというか、『こうしろ』、『ああしろ』ではなくて、『自分の最初のインスピレーションを大事にしてもらいたい』ということは伝えます。『どこで何をしろ』ということは日本の選手はそう言うとそっちの方に移ってしまうので、『相手の守っていないところをちゃんと見よう』と。(伝えています)」と自らの指導方針とチームとしての攻撃方針について説明している。練習でも気になるプレーの後にフリーズをかけて細かく選手に状況確認させる吉武監督の指導法だが、前述の通り「こうしろ」という強制ではなく、ミスが起こった状況を再現した上で「今のはどうだった?」、「相手はどこを守っている?」という発問によって選手が能動的に答えを見つけ出しながら、一方でチームとしての狙い、判断基準を統一させている。

ただし、ロシア戦でのサッカーの出来について吉武監督は満足していない。試合翌日の練習後、同監督は「ずっとやってきていることは相手を見て、相手が守っていないところをいかに攻めるか。そういった点では、ロシア戦はそれができなかった」とコメントしている。だからこそ、攻撃については「パターンがあるわけではない」ともはっきり述べる。例えば、今日の対戦相手であるベネズエラは3バックの3-5-2のシステムを採用するチームだが、「3バックだからこう攻める」というパターンではなく、「相手は3-5-2だったり、3-2-4-1だったりに変化すると思います。その中でどこを守っているからどこを攻めるか」が大切だと強調する。

「同じ3(バック)にしても中の3なのか、外に広がっている3なのか、それが5枚になっているのか、それとも一人だけが下がって4枚になっているのか、というのはやってみないとわからない。それを選手が意識できるかどうか。できなくても5年後、10年後にできるようになるかどうかが、われわれ(指導者)としては一番考えないといけないことだと思います」(吉武監督)

■サークルに縦パスを入れるための距離感と連動

サークル(ギャップ、スペース)への縦パスの入れ方
サークル(ギャップ、スペース)への縦パスの入れ方

戦術的にU-17日本代表の「ボール回し」を分析しても、日本でよく目にする「パスは回っているが後ろで回しているだけで相手にとって何ら怖くないパスワーク」にはなっていない。前線の3枚を例にその構造を説明すると、日本は変速3トップでセンターのFWは「センターフォワード」ではなく、「フリーマン」としてトップ下のポジションに構える。両サイドのウイングは「ワイドトップ」と呼ばれ、フリーマンよりも高い位置をキープし、相手DFラインを引きつけたながらフリーマンと一定の距離感を保ち、連動してバイタルエリアやDFラインの背後のスペースの攻略を試みる。

しかし、ロシア戦でも当然、バイタルエリアは厳しく制限されていた。フリーマンで先発した永島悠史がCBとボランチの間のサークル(=スペース、ギャップ)でボールを受けようとすればボランチやCBが素早くマークに付いた。その時の日本の攻撃コンセプトとしては、相手のDFラインが前掛かりに出てくるスペースをワイドトップが突き、そこに躊躇なく縦パスを入れていくこと。ロシア戦ではスタジアムのみならず、テレビ映像の中にも吉武監督をの指示の声がクリアに拾われており、「サークル」、「(相手の守備が)浅いぞ」という指示を何度も耳にすることができた。

結果的に縦パスが成功しなかったとしても、それによって相手のDFラインが下がる、DFラインの背後にボールが流れることで日本は高い位置から前向きの守備に入ることができる。ボールを大切にパスをつなぐ軸はブレないが、ボールを失うことを怖れ、横パスやバックパスが多くなるような後ろ向きなボール回しにはならない点が吉武監督率いる“96ジャパン”のサッカーの質の高さを物語っている。

吉武監督の守備コンセプト、特に「コンパクトさ」を意識させる理由についてはまたの機会に説明したい。ひとまず、日本時間の今晩25時にキックオフとなるベネズエラ戦では日本のボール回しと前線の「サークル」への縦パスの入れ方に注目してもらいたい。