フェイクニュースが外交官の命を奪ったか? NHK検証番組公式ツイッターで中田敦彦、宇野常寛らが警鐘

NHK「クローズアップ現代+」twitter公式アカウントより

◆「ファクトチェックの日」を前に

来月、4月2日は「世界ファクトチェックの日」(International Fact-checking Day)。米国のポインター研究所に拠点を置く世界ファクトチェックネットワーク(IFCN)の呼びかけで一昨年から始まりました。

今月は日本のファクトチェック機関や大手新聞社などの主催で「フェイクニュース現象」や「メディアリテラシー」をテーマにしたシンポジウムワークショップなどが都内各地で開かれます。

メディアの専門家たちとの協業で市民社会の側から「情報への耐性」の底上げを目指そうという取り組みです。

◆関西地方を襲った台風21号と外交官の死

皆さんは、昨年9月、台湾の外交官が自ら命を絶ったことをご存知でしょうか。関西地方を襲った台風21号への対応を巡って、誤った情報が拡散され、それが外交官を追い詰めた可能性があると台湾のメディアなどが報じました。

亡くなったのは、領事館に相当する、台北駐大阪経済文化弁事処の蘇啓誠(そ・けいせい)代表(61)。

当時、台風21号の影響で関西国際空港には450人以上の台湾人が取り残されたといいます。台湾人旅行客に対する支援が不十分だとして大阪弁事処には批判が相次いでいました。きっかけはSNSを通じて拡散されたある情報。「中国の駐大阪総領事館が専用のバスを手配し、中国人観光客を優先的に救出した」という主旨のものでした。

実際、私もこの内容を動画と共に伝えるSNSの投稿をリアルタイムで追っていました。「果たして本当だろうか?」と静観したのを覚えています。中国総領事館による救出劇は、その後の検証でいわゆる「フェイクニュースだった」ということが明らかになりました。バスは空港側が手配したものだったというのです。この事実が明らかになる前日に、蘇さんは命を絶ちました。

◆NHK「クロ現+」は外交官の死をどう検証するのか

どのようにして情報は拡散されていったのか、なぜ外交官は命を絶つことになったのか、その背景を今夜のNHK「クローズアップ現代+」が検証します。NHKの取材によると蘇さんの遺族は「ひとりの外交官の死を教訓に、ネットユーザーやマスコミ、政府や組織、それぞれが考えてくれることを切に願っています。もう二度と、罪のない人が犠牲にならないように」と語っています。

NHKでは番組をSNSとの連動で伝えるため、タレントの中田敦彦さん、批評家の宇野常寛さん、そして筆者にツイッター上でのコメントを求めました。それぞれ1分から90秒ほどの内容です。

8.6秒バズーカがブレイクした時に、彼らのネタが日本文化を揶揄している、反日要素が含まれているみたいな完全な誤った情報を流されたのだけど、会社側もちょっとナイーブな案件だから本人コメントは控えようとさせてしまった。そのことによって否定も出ないから「本当なんだ」と拡散する人たちが多くて。

 僕が驚いたのは同じ芸能界のタレントでも本当に信じちゃっている人から「君の事務所の後輩大丈夫あれ?」みたいに普通に聞かれてしまった。僕も最近で言うとユーチューバーのカジサックさんのことを僕が批判した、という完全なデマが。僕は褒めていたにもかかわらず批判したとフェイクニュースが流れて、それに対して本人のカジサックさんが裏取りをせずに反応して、カジサックさんへの批判がものすごく殺到した。この件は一体誰が悪かったのかという会話になてって、お互い和解は出来たのですけれども、これは現代的によくある問題なんだと、当事者になったり、近くで見ていて体感したんですよね。

(SNSで)まるで大喜利のように誰が一番気の利いたことを言うのか、それが肯定であれ否定であれ、誰が一番気の利いたことを言うかと言うゲームになってしまっていて、そのゲームに乗っかることが目的になってしまっていて、実際に何が起こっているのかとか、誰も疑問を挟まなくなっていると。その怖さですよね。みんなそろそろ気づいていると思うんですけど、人間は単に書くだけでは賢くならないんですよね。むしろ、書くこと、参加すること、動員されることが目的になっていくとバカになっちゃうんですよ。物事を考えなくなってくる。今のインターネットって人に考えさせるためのものではなくて、人に考えさせないためのものになっていますよね。

強い憤り、強い悲しみ、もしくは強い喜び、強い感動というのは何者かが自分の心の中に侵入してくる、注射でも打つような感覚で入ってこようとしている。なのでちょっと待ってほしい、ちょっと待とうかという、それくらいの防衛力を自分の心の壁に一つしておいても良いのではないか。僕ももしリツイートしていていたらこの方を殺してしまう片棒を担いでいたかもしれない。それはあなたかもしれない。

◆台湾のファクトチェック機関と連携した日本の「FIJ・ファクトチェックイニシアティブ」

今回の誤った情報の拡散について検証した、台湾のファクトチェック機関「TFC」の取材や調査に協力した、日本のファクトチェック支援団体があります。昨年1月に弁護士やジャーナリスト、研究者などが中心となって設立した「FIJ・ファクトチェックイニシアティブ」です。

米デューク大学公共政策学部でジャーナリズムのリサーチを行う「Duke Reporters’ Lab」では、世界のファクトチェック専門サイトのデータベースを作成し、随時更新しています。「Duke Reporters’ Lab」によると、専門サイトの数は昨年までの4年間で3倍以上の149にまで増えたと言います。しかし、日本でのファクトチェックの取り組みは始まったばかりです。

「Duke Reporters’ Lab」より
「Duke Reporters’ Lab」より

FIJは今回の事案をどう向き合っているのか、堀が共同代表をつとめる「GARDEN Journalism」で取材をしました。

FIJの理事で事務局長を務める楊井(やない)人文さんは外交官が亡くなった今回の事案について冷静な呼びかけをしています。

「今回の事件は本当に悲劇的なことだと思います。ただ、自殺の原因を「偽ニュース」のせいにしてしまうことも危険です。おそらく問題はそれほど単純ではないはずです。一番危険なのは「偽ニュース」そのものではなく、自ら「疑う」「考える」ことをやめてしまい、わかりやすい話や感情的になりやすいニュースに、簡単に飛びついてしまうことだと思います。メディアも「単純化」「センセーショナリズム」の誘惑に負けずに、ファクトチェックや検証報道を通じて、人々に冷静さを取り戻させる役割を担ってほしいと思います。」

FIJ設立の目的は、「ファクトチェックの普及、啓発等に関する事業を行い、社会に誤った情報が拡がるのを防ぐ仕組みを作り、市民が事実と異なる情報に惑わされないような社会を構築すること」。

早稲田大学ジャーナリズム大学院/政治経済学術院教授で、FIJの理事長を務める瀬川至朗さんは、FIJ設立に至った経緯やファクトチェックの意義をこう話します。

「フェイクニュース、真偽不明の情報がネットを通じて急速に拡散する時代になり、そういう不確かな情報に市民の健全な判断が左右される恐れがあるという時代になっていると言えると思います。一方で、既存のメディアに対する市民の信頼が失われつつあるというのも世界共通の課題だと思います。そういう中で、日本におけるファクトチェックを推進することが重要。ファクトチェックの意義は、誤報・虚報の拡散を防止に貢献すること、ジャーナリズムの信頼性向上に貢献すること、言論の自由の基盤強化に貢献することです。」

◆ファクトチェックに取り組みやすい環境づくりを

FIJの特徴は、ファクトチェックを行う団体ではないというところ。

「日本でファクトチェックを行う組織、あるいは個人に情報面、技術面、資金面のサポートを行い、ファクトチェックの担い手(ファクトチェッカー)を増やし育てることが大きな役目。目標は、日本においてより多くのメディアや個人がファクトチェックに取り組めるネットワークの構築を目指すということです。」と、瀬川さん。

ファクトチェックの協働・支援の仕組みが活躍した最初の事例が、FIJの呼びかけにより行われた「2017年総選挙のファクトチェックプロジェクト」です。

提供:ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)
提供:ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)

ファクトチェッカーとして参加した4つのメディア「Buzz Feed Japan」、「Japan In-depth」、「ニュースのタネ」、「GoHoo」に対し、FIJの「情報共有支援チーム」から対象候補や選挙にまつわる正確性に疑義のある情報を提供。「情報共有支援チーム」では一般市民の方々が情報収集を支え、4つのメディアは同じ情報を持って、それぞれの視点からファクトチェック行いました。

ファクトチェッカーが記事を作成するにあたっては、透明性や公開性を担保するなどのファクトチェックの国際標準的な原則を踏まえて、ガイドラインを作成。2017年9月時点の暫定的なガイドラインとして、以下の5つ「対象言説を特定する、認定事実と結論の明示、判断根拠と情報源の明示、わかりやすく、誤解を与えない見出し、公開日・作成者・訂正情報の明示」を定めました。

結果、4つのメディアから合計22本の記事が発表されました。

提供:ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)
提供:ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)

◆「藁の中から針を探すような作業」を人力で

総選挙だけでなく、普段からファクトチェッカーへの情報面でのサポートできるよう、FIJでは「Claim Monitor」という実験的なプロジェクトを始めました。

提供:ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)
提供:ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)

これは、正確性に疑義がありファクトチェックが必要な情報を集約し、ファクトチェッカーに共有するためのプラットフォームです。取材当時、市民記者、地方公務員、国内外の大学生、フリージャーナリストなど、15名の多種多様なバックグラウンドを持ったメンバーが、仕事や勉学の合間を縫って参加していました。

彼らが行っているのは、疑わしい情報について指摘しているTweet(ソーシャルメディア「Twitter」での投稿)をチェックし、さらにそれがファクトチェックの必要な情報かどうかをふるいに掛け、必要だと判断したものを「端緒情報」として「Claim Monitor」で共有する作業です。スタートからの約3ヶ月間で約250件の「端緒情報」が集まったといいます。

提供:ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)
提供:ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)

対象となるのはメディア報道、政治家の発言、有識者の言明など多岐に渡りますが、ファクトチェックすべきはその「意見」ではなく「事実」だと、楊井さんは話します。

「必ず気をつけていかなければならないのは、『事実』と『意見』をきちんと区別するということ。あくまでも我々が検証するのは、『意見』や『立場』が正しいかどうかでは全くありません。『事実』が正確かどうか、きちんと客観的な根拠に基づいた言説なのかどうかということだけをチェックするのが、ファクトチェックの役割です。」

提供:ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)
提供:ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)

しかし、「端緒情報」を見つけるこの作業が、最も労力を必要とする大変な作業だと楊井さんは言います。

「『偽or偽装or嘘偽り』などのキーワードで絞り込み、さらに何らかのURLも紐づけられているTweetをチェックします。しかし、本当にファクトチェックが必要な情報は、我々の経験では1000件に1件。まさに、藁の中から針を探すような作業です。また、業として毎日のようにやっていると、かなり疲れます。普通の精神状態ではできなくなります。ネットの情報をモニターしていると、キーワードである程度絞っているとはいえ、相当汚い言葉で色々言っているTweetもあります。見ていて気持ちの良い情報は少ないですね。また、雑多な分野で常時いろんなニュースが入ってくるので、頭の中を整理するのも大変です。心的に負荷のかかる作業だと言えると思いますね。」

GARDEN Journalism
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◆「市民の皆さんもファクトチェックに参加していただけるような仕組みを」

楊井さんは、市民も参加しやすいファクトチェックの仕組みづくりをFIJとして工夫していきたいと考えています。

「欧米、特にヨーロッパでは、元々ジャーナリストではない人がファクトチェックに取り組むということが非常に増えていると聞いております。非常に多様なバックグラウンドの人がファクトチェックに参加しているというのを、一昨年、(取材時では昨年)ファクトチェックの国際会議に参加して非常に感じました。FIJでも市民の皆さんにもファクトチェックに参加していただけるような仕組みを作れないかと取り組んでおります。悪意のある人はいますけど、多くの誤った情報の大半は、人間の勘違いや思い込みで生じているものが大きいと思います。今は誰でも発信できる時代ですから、誰でも間違った情報を発信してしまう可能性がある。自分で誰かの間違った情報を広めてしまう可能性がある。自分事として当事者意識を持って欲しい。ファクトチェックをすることは、自分たちのスキルアップ、リテラシーを高めることにも役立つと思います。手の空いている人は少しでも参加して、時間のない人はファクトチェックをする人を応援する側として支援していただければなと思います。」