【シリーズ 難民支援(1)】パレスチナ・ガザ地区で取材した 日本人女性が続ける草の根平和構築

立ち入りが著しく制限されている、パレスチナ・ガザ地区を映像で取材した

6月20日は国連で決めた「世界難民の日」。難民の保護と援助に対する世界的な関心を高める日だ。UNHCR・国連難民高等弁務官事務所は 難民問題解決へ向け各国政府に要望を提出するための署名活動を実施、 #WithRefugees #難民とともに のハッシュタグで協力を呼びかけている。2018年9月の国連総会までに世界で500万人の署名が必要だという。

すべての難民の子どもたちが教育を受けられること

すべての難民の家族が身の安全を確保できること

すべての難民が仕事や新しい技術を学ぶ機会を通して、社会に積極的に貢献できるような環境を整えること

こうした要望を国際社会に届けるキャンペーンだ。

■紛争、暴力、迫害により世界で強制移動を強いられた人は過去最多に

UNHCRが昨日19日に発表した報告書によると、2016年末時点で家を追われた人の数は6560万人に上り、2015年末時点と比べて約30万人増えたことがわかった。

6560万人の内訳は、難民、国内避難民、庇護申請者の3に分けられるが、難民の数は、過去最多となる2250万人に上った。パレスチナ難民のほか、550万人ものシリア難民や昨年急増した南スーダンの難民問題が特に深刻だ。南スーダンでは7月から2016年末までに73万9900人が国外に避難。難民の数は187万人に膨らんだ。

また、シリア、イラク、コロンビアなどで多く発生している国内避難民の数は、2016年末現在で4030万人。母国から逃れ、難民として国際的な保護を求めている庇護申請者の数は2016年末時点で280万人となっている。

UNHCRによると、6560万人とは、平均して、地球上の113人に1人が避難を余儀なくされていることを意味するという。これは世界で21番目に人口が多いイギリスより多い人数だ。

■パレスチナ・ガザ地区での知られざる日本人による平和構築事業

NPOやNGOなど公益活動の現場を専門に取材し発信するメディアGARDEN Journalismでは、シリアやパレスチナで難民支援を続ける日本のNGOの活動に着目した。国からの助成金の見直しによる資金不足や、渡航禁止区域などでの人道支援を続けるために民間からの資金を募るなど、草の根的な平和構築に貢献するNGOは常に様々な課題と向き合いながら活動を続けている。難民の日に因んで「シリーズ 難民支援」と題して、紛争地などでの知られざる日本のNGOの活動を映像などでお伝えする。

ガザ地区の子供たち 栄養失調や貧血などが深刻だ
ガザ地区の子供たち 栄養失調や貧血などが深刻だ

第一回はパレスチナ・ガザ地区で難民や経済的に困窮するパレスチナ人を支援するJVC・日本国際ボランティアセンターの平和構築事業をお伝えする。堀も先日、取材許可を得て壁に囲まれ孤立するガザ域内で撮影を行った。国際的にはテロ集団とされるイスラム政党ハマースが実質的に統治する地域だ。JVCでは民間からの寄付を募りながら、子ども達の栄養改善につながる教育プログラムを地域の女性達向けに実施してきた。

日本ではあまり報じられていないガザ域内のいま。取材中、パレスチナの方々が胸に手をあて頭を下げてくれた。「日本は原爆の犠牲になりながらも、敗戦から見事に立ち直り経済復興を遂げた素晴らしい国です。そして、その経済の力を世界の不均衡のためにこうして平和的に役立てています。その姿に敬意を伝えたいのです」。

私たちは、パレスチナで難民生活を続ける人たちのことを知っているだろうか。こんな片思いはあってはいけない、現場で強くそう思った。ぜひ映像をご覧いただき、記事も読んでもらえたらと思う。

先日、中東の紛争地を訪ねた。人口約190万人、パレスチナ自治区ガザ。イスラエル政府によってパレスチナ住民が隔離生活を強いられている。ガザ地区は周囲をコンクリート製の分厚い壁に囲まれ、出入域のためには特別な許可証が必要となる。許可証はガザ外での専門治療が必要な病人でもなかなか発行されず、一般市民はほぼガザから出ることができない。そして壁を通過するには、空港や原発施設よりも厳格なチェックゲートを抜けなくてはならない。壁の手前に設けられた緩衝地帯に入るだけでも住人は威嚇射撃を受け、殺されている。

これまでは南側に隣接するエジプトに抜けるための地下トンネルが機能していたが、2013年にエジプトで一部のライバル政党支持者への厳しい弾圧も辞さないシシ政権が誕生してからはトンネルの多くが埋められてしまい、物資や人の往来も厳しい制限を受け、ガザはまさに孤立した状態、深刻さが増している。

現在、ガザ地区は国際的にはテロ集団とも呼ばれる政党・ハマースによって実効支配されている。ガザの隔離・封鎖を強いるイスラエルとは激しく対立しており、2014年には一気に緊張が高まり戦争に発展、ドローンによる空爆やミサイルの発射などイスラエルからの大規模な攻撃で街は破壊しつくされた。

政治的背景により、国際社会から孤立するガザ。現場では電力不足、物資の不足、仕事の不足、電力が使えないことによる水資源の汚染など深刻な人道危機を抱えている。

そうした中、日本の国際NGO、JVC・日本国際ボランティアセンターでは、20年以上前からガザ支援を続けている。パレスチナ事業担当の並木麻衣さんは、高校生の時に目の当たりにした、2001年9月11日のニューヨーク同時多発テロをきっかけにアラビア語を学ぶために大学に進学。パレスチナ・イスラエルへの留学経験もある。卒業後は一般企業に勤めた後、アフリカや中東での支援活動に身を捧げてきた。

JVC職員の並木麻衣さん
JVC職員の並木麻衣さん

今回、並木さんに同行し訪ねたのは、ガザ地区ジャバリヤ市ビルナージャ。貧困地区だ。イスラエルによる封鎖や戦争、その後の電力不足などの影響で仕事を失ったり、安定した収入が見込めない世帯が多く住む地域。貧困であっても、難民には認定されておらず、国連からの支援物資も受けづらい人たちだ。

カロリー重視に偏った食事などのせいで、栄養失調や貧血などを抱える子供達が多く、骨に栄養が回らず、足が曲がって成長してしまう病気にかかる子供も少なくない。

JVCではこうした状況を改善するため、地元のNGOと協力して地区に住む女性や母親たちに栄養に関する知識や食事改善の技術を教え、トレーニングする支援活動を2011年から続けてきた。4年間のプログラムが終わり、これからは保健・栄養アドバイザーとなった女性たちが自立した活動を行い、地域でまだトレーニングを受けていない母親たちに技術を伝える段階に来ているという。

一方で、ガザは国連をはじめとした外部からの支援物資がなくては住民生活が成り立たない地域。住民の中には、支援物資をあてにした生活に染まり切っている人もいて、このままの状況を放置しておくのは問題だという声もある。

並木さんは「誰かに“恵んで”もらわないと生きていけない暮らしは尊厳を損ないかねない。だから、その地にいる人たち自身が動き、何かを生み出せるような支援を」と考え、女性達の自主的な活動を促す支援活動を続けてきた。

これまでに30人が栄養の知識を身につけ、各地域でのリーダー的存在として、子供達の栄養改善だけではなく、コミュニティをつなぎとめる役割を果たしてきた。「仕事を見つけるきっかけになった」「自分の役割を見つけた」「子どもたちにとって大切な仕事だ」など、女性たちはガザでの希望を紡ぎ出している。

並木さんは言う。「この活動を末長く行うこと、今できることをやり続けるしかない」。

時間がかかるが一人一人が変わっていくことで、混沌とした泥沼からこの地を本当の意味で解放する日がくると信じている。1万円あれば、2人の保健・栄養アドバイザーを育成できるという。

目の前の子どもたちを救い、今を生きる母親たちが自ら希望を見出す事業だ。JVCは政府の資金に頼り切ることはしない。民間の資金だからこそ、こうした政治的な思惑が交錯する難しい地域での支援を続けられているからだ。こうした地道な平和構築はもっと知られるべきだし、評価されるべきものだと思っている。

JVCでは今、ガザでの支援を続けるために、200万円の寄付を募っている。

知ってほしい。中東で隔離されたこの地で奮闘する日本人がいることを。