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出版業界のデジタルシフトは急務に・・・

小川浩株式会社リボルバーCEO兼ファウンダー。
雑誌を読む人の数は減っているが、そのコンテンツはいまだに重要だ。(撮影:筆者)

出版社が作ってきたコンテンツが死ぬのではなく、紙で配布するというメディアフォーマットやビジネスモデルが死にかけている

 出版社が苦しみ続けている。2017年10月の雑誌の販売金額は、2ヶ月連続のフタケタ減だという。このままでは、多くの出版社が倒産や廃業の憂き目に遭うことは時間の問題かもしれない。

 では電子書籍化が雑誌を救う鍵かというと、僕はそう思わない。タブレットサイズのスマートデバイス市場が思ったより大きくならず、消費者にとってのファーストスクリーンはスマホ。販売されている電子書籍は紙の雑誌をPDF化しているだけだから、スマートフォンで読もうと思えば、常に消費者に窮屈な思いをさせることになる。つまり雑誌の電子書籍化は、固定された紙の雑誌をベースに作られたコンテンツを小さなスクリーンで読ませる無理を読者に強いている。現行の電子書籍のコンテンツは、タブレットくらいの大きさのスクリーンを必要とするレイアウトで作られており、しかもフォントサイズや構成は固定的に作られたままなのである。

 つまり、これまで出版社が雑誌として作り続けてきたコンテンツそのものは、いまだに消費者に必要とされるものだが、紙で配布することを前提に作られた、固定化されたレイアウトのフォーマットが古びており、さらに書店やコンビニなどで配布するという流通モデルが死にかけているのだ。

出版社のコンテンツは重要であり、その配信の仕方を工夫せよ

 僕は出版社のコンテンツは重要であり、その配信の仕方を工夫することで蘇ると信じている。ラジオのように”音声だけ”というコンテンツのフォーマットは、電子化しようがどうしようが、メジャーなフォーマットとして成立できなくなるだろうが、写真などの画像+テキスト、というフォーマットはこれからも大きな需要がある。もちろん動画との組み合わせも重要だが、動画オンリーのフォーマットに比べると、画像とテキストは、読者が好きなタイミングと尺でその情報を摂取できる、という点ではるかに優秀なのだ。

 (その意味では、画像+テキスト+動画、というフォーマットを極めることが最も重要であると言える)

 結論として、出版社は紙の雑誌の完全なる死が訪れる前に、デジタルシフトを完了させなければならない。具体的に言えば、

URI(Uniform Resource Identifier)を持ち「場所」あるいはネットワーク内の位置を固定されたコンテンツとして提供

することだ。平たく言えば、Googleで検索できて、スマホでもPCでも快適に読めて、FacebookやTwitterなどのSNSでもシェアされやすく、スマートニュースやグノシーなどのアグリゲーターアプリにも提供できるフォーマットでコンテンツを作らなくてはならないのだ。

 このための簡単な方法は、オウンドメディアとして、雑誌をWebメディア化することだ。その際、レスポンシブWebデザインで、全ての記事をパーマリンク化するなど、基本的かつ最も効率的な構造で作成することはいうまでもない。

 もちろんコンテンツのフォーマットをデジタルシフトさせるだけでは足りない。マネタイズの方法自体をデジタル化させなければならない。これまでの雑誌は、雑誌そのものの販売(=固まりとしての有償コンテンツ)+広告、というハイブリッドであったが、当面雑誌をWebメディア化した場合、無償コンテンツ+広告となる。要するに100%広告による収益となる。

 有料会員を集め、コンテンツの有償化を目指すメディアもあるだろうし、かつての雑誌と同じく広告との収益ハイブリッドを目指す者もあるだろう。ECやO2O=オムニチャネル化によるマネタイズを最大化しようとする企業も出てくるはずだ。

とにかく藁をも掴むべし

 現時点で、僕がどのモデルが良い、と断じることはない。どの方法も良いだろうし、いまここで想定していないマネタイズ方法も出てくるかもしれない。ただ、どの方向へと向かうかはおいて、先に述べたデジタルシフトー”URIによって「場所」あるいはネットワーク内の位置を固定されたコンテンツとして提供を開始すること”ーを急ぐ必要はある。デジタルコンテンツを提供するという方向へと舵を切ることがまず大事で、それをためらっている状況は、いたずらに死を待つのと同じだということを、認識しなければならないのである。

 どう儲ける?それを考えるのははっきりいって後回しだ。まずはデジタルシフトをしてからだ。

 溺れかけている者は、藁にもすがる。何かにつかまってとにかく浮こうとするはずだ。デジタルシフトしてどうするの?儲かるの?と訝って何もしていないとすれば、それは自分が溺れていることにまだ気がついていない、ということなのであり、一層危険な状態にあるのだ。

株式会社リボルバーCEO兼ファウンダー。

複数のスタートアップを手がけてきた生粋のシリアルアントレプレナーが、徒然なるままに最新のテクノロジーやカッティングエッジなサービスなどについて語ります。

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