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増え続ける子どもの自殺、改善のキーワードは「居場所」

平岩国泰放課後NPOアフタースクール代表理事
(写真:アフロ)

〇今年も9月1日がやってきた

夏休みが明ける9月1日は子どもの自殺が1年で最も多い日として知られています。今年もその日がやってきました。

残念ながら、子どもの自殺は増え続けています。

2019年は399人、2020年は499人の児童生徒が命を絶ち、過去最多を大きく更新する自殺数となってしました。そしてさらに残念なことに、2021年は1~7月の自殺数が270人となり、2020年の同じ時期を1割以上上回るペースで推移してしまっています。このままでは今年も大きく過去最多を更新してしまいそうです。

〇感染症で新しい自殺要因が増える

9月1日に自殺が多いのは「学校に行きたくない」「学校に行くくらいなら命を絶ってしまう」という傾向で、この間色々な大人たちから「学校が辛かったら行かなくていいんだよ」というメッセージも発せられました。昨年発表された小中学生の不登校児童生徒数は18万人と7年連続で増加し、過去最多の人数となりました。引き続き、学校に行きづらい子どもたちが増えていて「学校に行きたくない」理由での自殺も多いと思われます。

一方で、昨年2020年の大幅な増加は新たな要因を含んでいると考えられています。それは感染症により家庭での課題が悪化するケースです。家庭の状況が深刻化することは子どもたちの心に大きなダメージを与えます。

またさらに、感染症により様々な活動が制限され、目標を失っていくケースや友人に相談できなくなって悪化していくことも指摘されています。下記の国立成育医療研究センターの調査によると、コロナ禍で友だちと話す時間が減った人は46%に達しました。また、勉強の大変さが増えたのは41%となり、オンライン環境での孤独な学習による負荷ものしかかってきています。

「学校に行きたくない」という当初の要因に代わって新しい要因ができたわけではなく、当初の要因はそのままに、「学校にも行けない」「友達に会えない」という新しい要因が重なる形で自殺が増えてしまっていると見られています。

〇居場所がなくなる子どもたち

苦しむ子どもたちの相談に乗る組織の声を聞くと、今年は昨年より悩みの相談件数は大幅に増え、また深刻化していると言います。特に「家庭が居場所と感じられない」ケースが最も深刻だそうです。安心の基盤となる家庭が揺れている状況は本当に厳しいものと想像されます。

現代の若者たちの居場所に関する内閣府の調査がありました。

このデータを見ると、4人に1人が家庭を居場所だと思えないという状況です。これは厳しいものがあります。学校が居場所に思える子どもは48%と半分を切ってしまっていて、主要な居場所の中でも最も居心地の悪いという結果です。毎日通い日中のかなりの時間を費やす学校が子どもたちの居場所になっていない現状は大きな改善余地を感じます。

次に上記の居場所がどのように経年変化しているかのデータをご紹介します。

残念ながら、全ての項目で居場所と感じる気持ちが減ってしまっています。自分の部屋、家庭、学校、地域、そして若者の居場所のように言われるネット空間さえも居場所と感じなくなる傾向です。唯一増えているのは「どこにも居場所がない」で5%を超えてしまっています。現代の子どもたちの居場所がどんどんなくなり、これが自殺の増加につながっているように思えます。

そしてさらに感染症が拍車をかけています。

このデータによると、感染症により心の状態は悪化し、ひとりぼっちだと感じる子が16%もいます。クラスで6人に1人が孤独を感じている状況です。

〇今こそ居場所の確保を!

このような状況に対し、注目すべきデータがあります。若者にとっての居場所の数と自己肯定感・将来への希望の相関を示した内閣府の資料です。

このデータは見事に正の関係となっています。居場所の数が多いほど自己肯定感が高く、将来への希望が大きい、という結果です。まず居場所ゼロと1で大きな差があります。1つでも居場所を確保することが必要です。この鍵は「学校」と「放課後」だと考えます。家庭が厳しい子にとって、次の候補は学校ですので、学校が居場所として機能すればセーフティネットになります。また学校で難しい場合にも放課後に居場所があればと思います。「部活のために学校に行っていた」という感覚の方も結構いらっしゃると思いますが、部活だけに限らず全ての子どもたちが自分の居場所を感じられる放課後を作ってあげたいと願います。

また4つ以上居場所があるとさらに大きく安定します。4つというと、部屋・家庭・学校に加えてもう1つです。放課後、地元、習い事、アルバイト先、地域の居場所などなんでも良いので、子どもに「よくきたね!」と言ってあげる場所を確保してあげたいです。

感染症の影響で子ども食堂や地域活動が大きな制限を受けています。しかしこのように社会が不安定な時にこそ、セーフティネットとなる活動を同時に強化しなければなりません。学校や部活や行事など子どもたちの活動を様々に制限する時は必ずセーフティネットを準備することをセットで考えねばなりません。子どもたちの相談に乗ってくれる施設や人を増員して対応しなければ、悪い流れは止まりません。

2021年9月1日は多くの地域で学校が感染症対策に追われた形でスタートしています。学校に行きたい子も行きたくない子もダメージを受けてしまいそうで心配です。友達に満足に会えない子も多いでしょうし、先生方も子どもたちの顔をゆっくり確認できないかもしれません。自殺増加がますます懸念されます。

感染症対策を頑張ることはもちろんですが、同時に社会全体で「子どもたちの居場所を増やしていく」ことに注力されていくことを切に願います。

放課後NPOアフタースクール代表理事

放課後NPOアフタースクール代表理事。1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社、人事、経営企画、海外事業など担当。2004年長女の誕生をきっかけに、“放課後NPOアフタースクール”の活動開始。グッドデザイン賞4回、他各種受賞。2011年会社を退職、教育の道に専念。子どもたちの「自己肯定感」を育み、保護者の「小1の壁」の解決を目指す。2013年~文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年~渋谷区教育委員。2019年~新渡戸文化学園理事長。著書:子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門(2019年発刊)

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