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実はあまり知られていない「飲酒後の運転に必要な時間の目安」と「あんパンに反応するアルコール検知器」

橋本愛喜フリーライター
市販されているアルコールチェッカー。こちらは4000円程度だ(筆者撮影)

千葉県八街市で起きた飲酒運転死傷事故から今月28日で1か月が経過した。

無情にも関心事の移り変わりは早いもので、この1か月で飲酒運転に関する報道は激減。オリンピックやコロナ対策での多忙を理由に、国も菅首相があれほど豪語していた「通学路の総点検」を先延ばしにしてはいないだろうかと、個人的には非常に心配しているところだ。

事故直後に各地で行われた飲酒検問では、酒酔い・酒気帯び運転で検挙されるドライバーが続々とあぶり出された。

NHKの報道によると、同事故後に飲酒運転の疑いで逮捕されたドライバーは、千葉県だけで少なくとも26人。

さらに同県警察本部の発表では、今年上半期の県内における飲酒運転の検挙件数は586件にも及んだという。

こうした現状に対し、当時一部から「あんなことがあってもまだ飲んで乗るトラックがいるのか」という批判の声が聞こえてきたのだが、事故後に全国で検挙された飲酒運転者は、トラックドライバーだけではない。

飲酒運転事故の実態

飲酒運転における問題は、トラックに限ったことではない。

原付以上運転者(第1当事者)の「全国飲酒あり事故件数」は、ここ数年右肩下がりの傾向ではあるものの、平成30年には198件確認されている(昨年は159件)。

一方、全日本トラック協会が出している「トラック事業における総合安全プラン2025」によると、トラックドライバーの飲酒事故は同年(平成30年)は20件しか起きていない(もっとも、業界は飲酒運転事故ゼロを目指しているため、「しか起きていない」よりも「も起きている」のほうが正しいが)。

つまり、今後飲酒運転による犠牲者を出さないためには、トラックだけではなく、全車両種ドライバー・ライダーが飲酒運転に対する問題意識を持つべきなのだ。

警察庁「交通事故統計」より引用
警察庁「交通事故統計」より引用

前回記事「世間が知らない「飲酒運転は悪も、車内飲酒するトラックドライバーを全否定できない事情」」でも紹介した通り、現在緑ナンバーのトラックドライバーたちには、出庫前と帰庫後、また、1日で業務を終えられない長距離トラックドライバーには、加えて翌日出発する前に「点呼」をすることが法律で定められており、その際にアルコールチェックの実施も義務化されている。

一般車の場合、酒気帯び運転になる基準は、下記の表のとおり「0.15mg/L」以上だ。しかし、トラックドライバーの場合は「0.00mg/L」。つまり、少しでもアルコールが検知されれば、ドライバーはトラックを1mmたりとも動かすことはできないのだ。

警察庁ウェブサイトより(表は筆者作成)
警察庁ウェブサイトより(表は筆者作成)

あまり知られていない運転前の飲酒目安

それがゆえに緑ナンバーのトラックドライバーは、普段から「飲酒量」や「経過時間」を意識することが習慣化しているのだが、アルコールチェック義務のない一般ドライバーの場合、そこまで深く「量」や「時間」を意識することなく、「寝て起きれば抜けているだろう」としてしまいがちだ。

アルコール摂取量の基準とされる酒の「1単位」は、純アルコールに換算して「20g」

あくまでも目安だが、この1単位を各種アルコール飲料に換算すると以下のようになる。

ビール中びん1本(5%:500ml)

焼酎0.6合(25%:110ml)

ウイスキーシングル2杯・ダブル1杯(14%:60ml)

ワイン(14%:180ml)

日本酒1合(15%:180ml)

(カッコ内はアルコール度数:量)

体質や体調、体の大きさなどにもよるため、こちらもあくまでも目安だが、1単位の分解時間は4~5時間と言われていることは覚えておくといい。

国土交通省「飲酒に関する基礎教育資料」より。航空会社向けの案内のため若干厳しめに試算されている
国土交通省「飲酒に関する基礎教育資料」より。航空会社向けの案内のため若干厳しめに試算されている

しかし、筆者が全ドライバーに勧めたいのは「アルコールチェッカーの購入」だ。

実はあまり知られていないが、現在、アルコールチェッカーは安いものだと1000円ほどで市販されている。

あまりに安いものは精度に不安があるためお勧めはできないが、筆者もこのほど4000円程度のチェッカーを購入。

飲酒後にその経過を観察などしているが、日ごろ飲酒の習慣のあるドライバーも安全な道路環境のために、1台購入しておくといいだろう。

酒以外にチェッカーが反応する「あんパン」

そんなアルコールチェッカーだが、実は日々使っているトラックドライバーからは「誤検知する食べ物や日用品がある」という報告が度々届く。

興味深かったため、今回SNSでドライバーから改めてアンケート実施。「ついで情報」として、多い順に紹介してみよう。

①アルコール消毒液

「出勤時にアルコール消毒液で手を洗うと0.015位出ます」

「コロナになってから、やたらと引っかかるようになりました(笑)」

②マウスウォッシュ

「あれはヤバいくらいアルコール反応出ますよ!数値は忘れましたが、確か泥酔くらいの数値が出た覚えがあり、会社からメチャクチャ怒られた覚えが…。運行前点呼の時には、2度と使わないと決めました」

③栄養ドリンク

「‟ファイト一発系”も‟元気はつらつ系”もガンガン反応します」

④アンパン

「アンパンマンの顔食べた後は反応しましたね(笑)口をゆすぐとすぐに戻ります。機種にもよりますがあんこがダメっぽいです」

⑤ガム(ミント系)

「運行管理の講習でオレンジジュース、マウスウォッシュ、栄養ドリンク、タバコ、キシリトール系のガム、ミンティア等が出る可能性があるから吹く前に摂取しないように気をつけてと言われました」

⑥入れ歯安定剤

「つい先日アルコール反応が出て、飲んでないと主張してた人が捕まりました。原因は『入れ歯安定剤』。実際に安定剤を雑に付けたり、間違った付け方をするとアルコール検知器に反応するみたいで、それを実際にやってみせて証明したらお咎めなしになったみたいですね」

⑦発酵食品

「味噌汁、パン、キムチ等発酵物で出る傾向があります」

⑧歯磨き粉

「ミント系のガムに反応するので同じ成分かなんかが原因何でしょうかね?」

ちなみに、このアンケートで個人的に最も印象深かったのが「入れ歯安定剤」と答える人の多さだった。

機会があれば今後記事化するが、この回答からトラックドライバーの高齢化と、歯が悪くなってもなかなか歯医者に行けないトラックドライバーたちの不定期な労働環境が垣間見える。

いずれにしても、飲酒運転を根絶するにはドライバー1人ひとりの意識と、飲酒運転させない環境づくりが必要だ。飲酒する際は是非、量や時間を考えながら楽しんでほしい。

アンケートの様子はこちら

参考資料:

千葉 八街 児童死傷事故から1か月 飲酒運転で検挙あとを絶たず

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210728/k10013165571000.html

警察庁「交通事故統計」

https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/toukeihyo.html

警察庁ウェブサイト

https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/insyu/info.html

飲酒に関する基礎教育資料(国土交通省)

https://www.mlit.go.jp/common/001283559.pdf

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フリーライター

フリーライター。大阪府生まれ。元工場経営者、トラックドライバー、日本語教師。ブルーカラーの労働環境、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆・講演などを行っている。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)。メディア研究

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