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運転中のClubhouse利用の危険性――ハンズフリー通話は道交法違反になるのか

橋本愛喜フリーライター
Clubhouse(クラブハウス)のルーム(筆者撮影)

今年1月末ごろから日本で急激に利用者数を伸ばしているSNSがある。

「Clubhouse(クラブハウス)」だ。

昨年3月にアメリカで誕生したClubhouseは、これまでの「読む・書く・見せる」型のSNSとは一線を画し、「聴く・話す」に特化した流動型SNSとして、その将来性が世界から注目されている(現在は、iPhoneとiPadのみの対応)。

元々「流行りモノ」に極度のアレルギーのある筆者は当初、同アプリの登録・使用を頑なに拒んでいたのだが、仕事柄どうしても必要になり、友人から招待を受けて2週間ほど前から使用を開始すると、コロナ禍で「生の声」に触れる機会がめっきり減っていたためか、うかつにもこの新型SNSにどっぷりハマってしまい、何をする間でも「ネタ探し」と称して聞き耳を立てる日々。この記事の執筆も大分遅れてしまうという本末転倒な状態になっている。

「音声型」であるがゆえに画面を凝視したりタップしたりする必要がなく、「ながら利用」できてしまう同アプリだが、筆者が2週間このSNSを利用してきた中で、ふとある懸念点が浮かんだ。

「運転中」にClubhouseを使用するのは、果たして安全なのだろうか。

終日道路上で過ごす現役トラックドライバーたちの意見も交えながら、その安全性を検証してみたい。

Clubhouseとは

Clubhouseは、モデレーター(司会進行役)によって立てられた「ルーム」と呼ばれるバーチャルの会議室で、傍聴や会話、議論を楽しむSNSだ。

分かりやすく言えば、「音声型ネット掲示板」。部屋に入る際は、オーディエンス(聞き手)として参加することになるが、モデレーターから許可を得れば、聞くだけでなく、その会話や議論に加わることもできる。

ルームには、知人他人関係なくいつでも自由に入退室が可能なため、「ネットサーフィン」ならぬ「ルームサーフィン」をしながら、自分に合った「部屋探し」ができるのも特徴だ。

その結果、著名人やインフルエンサーはもとより、日常生活や他のSNSなら出会うことのなかった人から、自分では考えもしなかったような意見を思いがけず得ることもよくある。コロナ禍で人との接触に飢えていたのは筆者だけではないようで、夜中にアプリを覗いてみても、こうした「声の出会い」を求める多くの利用者が、思い思いの部屋に集まっているのを目撃する。

このような特徴から、「参加型ラジオ」、「電話とラジオの中間ツール」とも称されるClubhouseなのだが、「音声型」であることから、料理中や散歩中、入浴中、さらには「寝落ちするまで」など、他作業をしながらでもルームに参加し続けることができる。

が、そこで1つ懸念されるのが、冒頭で提示した「クルマの運転中の危険性」だ。

ハンズフリーにしておけば、電話やラジオとほぼ変わらない使い方ができるため、実際すでに「クルマで運転移動中の間だけ繋がる部屋」や「運転中の人集まれ」といったルームが立ち上がっているのを見かけるのだが、果たして危険性は電話やラジオと変わらないのだろうか。

イメージ
イメージ写真:アフロ

運転中の使用に潜む危険

結論から述べると、運転中のClubhouseの使用は危険性が少なくなく、使い方には十分気を付けたほうがいいと言える。

終日道路の上にいるトラックドライバーたちにも意見を求めたところ、

「ラジオや音楽等を聴くのはいいにしても、運転中に運転以外の事をするのはあまりオススメできない。電話で会話している時、なぜか目線が遠くにいって交通状況の把握が疎かになってしまう。業務連絡以外の通話は事故の遠因になりかねないと思う」(勤務歴20年トラックドライバー)

「道路は自由とストレスの繰り返しの場。ただでさえ感情の起伏が激しくなるところで、集中力を過度に奪うアプリは使わない方が無難。トラックドライバーたちが使っていた無線では、通話やClubhouseのようにダラダラしゃべらなかったが、それでも危険だと思うことはあった」(勤務歴34年長距離トラックドライバー)

「運転しながらは危ないし、ドライバー同士の使用は時にケンカになりそうな気がしますね」(勤務23年トラックドライバー)

といった声が聞かれた。

運転中の「聴く」「話す」でいえば、ラジオやハンズフリーでの電話通話、同乗者との会話なども同じではあるが、Clubhouseにはこれらとは大きく異なる点がある。

①好きなものだけを聞けるツール

Clubhouseはラジオと違い、狭いテーマが設定されたルームを自ら探しにいくことができる。そのため、常に自分に関心のある情報が流れている状態になるので、耳が「聴きっぱなし」の状態になるのだ。

そうなれば必然的に意識は会話に集中。運転における注意力が散漫になると考えられる。

特に「モデレーター」や「スピーカー」としてルームに参加している場合は、その会話の流れをより把握する必要が生じるため、注意力はさらに低下する。

「選局できる」という部分においてはラジオも同じではあるのだが、1つの番組の中には天気予報から音楽、DJによる語りなどがあり、自分に必要のない情報は聞き流すことができるため、聴くための集中力が上手い具合に途切れるのだ。

②ハンズフリーでも気になる画面

繰り返し述べている通り、Clubhouseは音声型SNSであるため、画面を見ずとも利用ができる。ただ、実際使ってみると、会話中どうしても画面が気になったり、操作したくなったりしてしまう特徴がいくつかあることに気付く。

例えば「ミュートボタンでの意思表示」がそうだ。

自分がスピーカーで参加している場合、右下にミュートボタンが付くのだが、これを連打することで「拍手」や「同調」の意を示すという、ユーザー暗黙の「小ワザ」がある。

「会話に参加しなければ」という気持ちが強い人の場合、運転中でも連打しようとしてしまうケースが考えられるだろう。

また、Clubhouseを実際使っていると、「発言者の確認」をしたくなる瞬間がよくあるのだが、これはドライバーの意識を画面に向けてしまう要因になり得る。

Clubhouseの画面には、現在発言している人のアイコンにマークが付くようになっており、スピーカーが複数いても、誰が話しているのかが目視できる。

知り合い同士の会話であれば声だけで認識できるが、その時初めて話をする相手が複数いる場合、そのマークの存在は大きく、確認する頻度が自然と多くなってしまう。

こうした画面注視は、後述する「ながら運転」に当たるため、とりわけ注意が必要だ。

右下にあるミュートボタンを連打することで、声を出さずとも「同意」や「拍手」の意思を表せる(筆者撮影)
右下にあるミュートボタンを連打することで、声を出さずとも「同意」や「拍手」の意思を表せる(筆者撮影)

今や「走行中の通話」は、スマホをハンズフリーにして誰もが行っていることだし、「話す」という点においては、同乗者がいれば運転中でも会話はする。

が、これらとClubhouseが明らかに違うのは「会話のコントロールが利かない」ことだ。

相手が目に見えない不特定多数の場合、その会話を中断したりさせづらく、相手も自分が運転中だということを考慮しながらしゃべったりはしないことを忘れてはならない。

ながら運転には当たらないのか

現在、クルマの運転中にスマホを持ちながら通話する、いわゆる「ながら運転」は道路交通法第71条第5号の5で禁止されている。

自動車又は原動機付自転車(以下この号において「自動車等」という。)を運転する場合においては、当該自動車等が停止しているときを除き、携帯電話用装置、自動車電話用装置その他の無線通話装置(その全部又は一部を手で保持しなければ送信及び受信のいずれをも行うことができないものに限る。第百十八条第一項第三号の二において「無線通話装置」という。)を通話(傷病者の救護又は公共の安全の維持のため当該自動車等の走行中に緊急やむを得ずに行うものを除く。同号において同じ。)のために使用し、又は当該自動車等に取り付けられ若しくは持ち込まれた画像表示用装置(道路運送車両法第四十一条第一項第十六号若しくは第十七号又は第四十四条第十一号に規定する装置であるものを除く。第百十八条第一項第三号の二において同じ。)に表示された画像を注視しないこと。

つまり、

①緊急時以外、スマホを持った状態で運転してはいけない

②カーナビなどの画面を注視しながら運転してはいけない

とされているため、このClubhouseにおいては、走行中に「聴く」「話す」だけであれば、直接的な違反にはならない。

が、注意しておかねばならないことが2つある。

1つは、道路交通法には上記とは別に、70条で「安全運転の義務」が定められていることだ。

車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。

つまり、ハンズフリーの状態で通話などしながら運転している時に事故を起こした場合、「他人に危害を及ぼすような運転」をしていた、と判断される可能性があるということだ。

音声に関してこの条件に該当し得る要因には、「大音量」、「イヤホンの使用」などがある。

「イヤホン」、「音量」と明言はされていないにしても、場合によっては違反になる可能性があることは覚えておいた方がいい。

道交法に当たらなくても条例でアウトの場合も

さらに、この「ハンズフリー」においては、道交法で明示されていなくとも、各都道府県の規則で「違反」となっていることもある。

例えば東京都の場合、

「高音でカーラジオ等を聞き、又はイヤホーン等を使用してラジオを聞く等安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両等を運転しないこと」

神奈川県の場合は、

「大音量で、又はイヤホン若しくはヘッドホンを使用して音楽等を聴く等安全な運転に必要な音又は声が聞こえない状態で自動車、原動機付自転車又は自転車を運転しないこと」

と、音の大小に関係なく、イヤホンの使用自体を禁じているところもある。

このように、道交法ではセーフでも、各都道府県の規則ではアウトというケースがあることも知っておくべきだ。

そして、注意点の2つ目は、こうしたスマホを使用しての運転は、道交法や各都道府県の規則違反にならずとも、未使用よりは確実に危険度が高い、ということだ。

警察庁のウェブサイトによると、携帯電話の「使用なし」と比較して、「使用中」の死亡事故率は、約2.1倍も高い(「死亡事故率」は死傷事故に占める死亡事故の割合)。

出典:警察庁ウェブサイト
出典:警察庁ウェブサイト

また、自動車は時速60キロで走行した場合、2秒間で約33.3メートル進むとしている。

この際の衝撃は、14m(ビル5階)の高さから地面に落下した時の衝撃と等しい。

言うまでもないが、これは2秒のよそ見によって、その後の一生の時間を無駄にすることを意味する。

出典:警察庁ウェブサイト
出典:警察庁ウェブサイト

過去の「ながら運転」の事案に鑑みると、今後間違いなく「Clubhouseを原因とする事故」は起きる。もしかすると既に起きているのかもしれない。

Clubhouseの運転中における使用について、同アプリユーザーにも意見を聞いたところ、「確かに使い方を誤ると危ないかもしれない」「会話中も画面はやはり見てしまっている」という声も。

とはいえ、「眠気防止」、「リアルタイムの交通状況の情報共有」という観点からは非常に有効であると言えるため、一概に「使用を禁止すべき」とするのも浅薄な判断だ。

口と耳が自由になる運転時。もしClubhouseを使用するならば、以下のような対策をするといいかもしれない。

1.モデレーターやスピーカーにならない

2.ミュートにしておく

3.できるだけ他人の多い議論が深まるようなルームを選ばない

4.画面はオフにしておく

5.イヤホンマイクは使用しない

※今回、このClubhouseが本当に「ながら運転」にあたらないかの確認に加え、危険ではないか、今後何らかの対応が必要と感じるかなどを警察庁に問い合わせたところ、回答が可能かどうかを含め、返答には時間が必要とのことだった。今回は速報性を優先したため、返答を待たず当記事を配信したが、もし回答があった場合は後報する。

参考文献:  

●東京都道路交通規則

https://www.tomin-anzen.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/pdf/koutuu/pdf/07_jitensha-kisoku.pdf

●神奈川県道路交通法施行細則の一部改正について

https://www.police.pref.kanagawa.jp/mes/mesf0261.htm

●警察庁ウェブサイト

https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/keitai/info.html

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現在、お話を聞かせてくださる方、現場取材をさせてくださる方を随時募集しています。

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フリーライター

フリーライター。大阪府生まれ。元工場経営者、トラックドライバー、日本語教師。ブルーカラーの労働環境、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆・講演などを行っている。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)。メディア研究

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