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自殺を招き番組中止が決定! リアリティショーで求められる出演者ケアの制作体制

長谷川朋子テレビ業界ジャーナリスト
フジテレビは「テラスハウス」TOKYO編の打ち切りを発表した。

 人気リアリティショー「テラスハウス」に出演中だった木村花さんの訃報を受けて、TOKYO2019-2020編の打ち切りが5月27日に発表された。SNS上での誹謗中傷や番組上の演出問題が取り沙汰されているなか、今回のようなことが二度と起こらないためにもリアリティショーそのものの制作の改善点について言及したい。

 そもそも制作上の改善を求める理由はいくつかある。危険性を伴うリアリティショーそのものの放送・配信に反対の意を唱える声もあるだろう。だが、エンターテイメント番組がある限り、また新たなスタイルの番組は必ず生まれてくる。だからこそ、今できることのひとつとして、視聴環境の変化に合わせた制作フローの見直しを図るべきだと思うのだ。

 視聴環境の変化のひとつにあるのが番組とSNSの関係性だ。そもそもリアリティショーが今、日本のみならず世界的に人気を得ている理由に、その多くが良い意味でも悪い意味でもSNSによって盛り上がる環境が作られていることが大きい。それはリアリティショーに限らないことだが、リアリティショーはSNS上での盛り上げがより仕掛けやすい。リアルとフィクションを掛け合わせたエンターテイメント番組であるからだ。

 オーディションによって選ばれた出演者たちはそれぞれある程度キャラクター付けがされるのが、つまりフィクション部分。エンターテイメント番組として成立させるための「わかりやすさ」を追求し、本人の意図するところではないキャラクターが作り上げられることもある。完全なフィクションであれば、キャラクター設定されても台詞のある台本に沿ってそのキャラクターを演じ、全てがフィクションとして捉えることができる。だが、リアリティショーではリアルな部分も追い求める。制作側が用意した台本もあるが、出演者のアタマの中で考え、発せられた言葉や感情が揺れ動いた行動を切り取って映し出される。カメラが回る中で出演者の素の部分を視聴者は見逃さない。そこにリアリティを感じ、中毒性も高まりやすい。そして、そこに共感性も加わり、SNS上での盛り上げを助長する。「テラスハウス」の場合はそれが巧みだった。人気番組へとプラスに転じてもいた。

制作フロー改善のポイントにある心理カウンセラーの起用

 だが、SNS上での盛り上げがマイナス面と背中合わせであることを十分に認識する必要もある。事実、リアリティショー出演者に投げかけられる誹謗中傷の被害は北米、ヨーロッパ、アジアなど世界中で広がっている。リアリティショーに関連し、死に追い込んだ話も後を絶たない。イギリス発の世界で今最もヒットしている恋愛リアリティショー『LOVE ISLAND』ではこれまで番組に関連した3人の自殺者を出したと言われている。そのたびに実は次の段階に進んだ建設的な議論もある。指摘されているのはやはり制作フローの見直しである。そのなかで出演者ケアに注力する体制づくりが主な論点にある。

具体的なポイントは主に3つある。

出演者のオーディション時点で番組起点のネットいじめ状況を説明。

撮影前、中、後の3段階で出演者ケア体制を強化。

ネットいじめに対応できる専門の心理カウンセラーを番組制作スタッフとして起用。

 番組をきっかけに注目される参加者も多いリアリティショーでは、オーディション時に参加者にプラスとマイナスの両面を説明することを改めて徹底して欲しい。撮影プロセスごとの3段階のケア体制も再発防止に役立つだろう。そして、心理カウンセラーの起用はコストがかかることでもあるが、制作スタッフが兼ねることなく、専門家に頼ることで最悪の事態を少しでも回避するためのリスク管理として捉えたい。リアリティショーの知名度を世界的に広めたオランダ発の「ビッグブラザー」では心理学者のエマ・ケニー氏の監修が番組の成功と継続に大きく作用したとされている。

 先の『LOVE ISLAND』を制作するイギリスの民放テレビ局ITVは直近で2019年5月に見直しを図った制作フローの詳細を公開し、以降、番組を継続させている。一方、それでも問題が絶えず起こり、改善が何度も求められている現実もある。日本では恐らくこれが初のケースとみられるリアリティショーを要因とした死。番組の制作も中止された。今現在展開されているリアリティショーはもちろんのこと、今後開発されるリアリティショーも含めて出演者ケア体制はSNS時代に合わせて強化するべきだ。

写真:筆者撮影作成。

テレビ業界ジャーナリスト

1975年生まれ。放送ジャーナル社取締役。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。得意分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。仏カンヌの番組見本市MIP取材を約10年続け、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威あるATP賞テレビグランプリの総務大臣賞審査員や、業界セミナー講師、行政支援プロジェクトのファシリテーターも務める。著書に「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)、「放送コンテンツの海外展開―デジタル変革期におけるパラダイム」(共著、中央経済社)。

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