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テラハだけじゃなかった世界の恋愛バラエティ ~カンヌ注目の流通トレンドMIPTV2017~

長谷川朋子テレビ業界ジャーナリスト
世界中からバラエティー番組企画が集まるカンヌ見本市の会場。

世界のバラエティー番組は今、恋愛盛り。4月に開催されたフランス・カンヌの世界最大規模のTV番組国際見本市MIPTV(ミップ・ティービー)で今年も世界のコンテンツ流通トレンドが語られた。前回のレポートに続き、今回はバラエティーの番組事情を伝えたい。

イギリス、オランダ、スペインのおもしろ恋愛バラエティー

春のMIPTVでは世界のありとあらゆるバラエティー番組の新作が紹介され、そこから流通トレンドも読み取れる。日本には流通されない番組が多いため、その事情はわかりにくいが、世界のバラエティー番組で人気を集めているのは「リアリティーショー」と呼ぶ台本なしの人間ドラマだ。なかでも、ステージ上で繰り広げる歌の勝ち抜きバトルを追ったリアリティーショーがここ数年、売れ筋である。「ザ・ヴォイス」や「ゴッドタレント」といったオーディション番組が世界で流通されている。

老人がカップル成立を求めてホテル合宿するベルギーの番組
老人がカップル成立を求めてホテル合宿するベルギーの番組

ネクストトレンドとして昨年から注目されているのが「恋愛バラエティー」だ。日本では「ナイナイのお見合い作戦!」(TBS)、「テラスハウス」(フジテレビ、ネットフリックス)、「あいのり」(フジテレビ)といった番組があり、独身男女のカップル成立を目的とした王道のものが支持を集めるが、世界を見渡すと、そればかりではない。老人がカップル成立のために合宿に参加してみたり、子持ちシングル同士が新しい家族を探そうとマッチングゲームに挑戦したりする。危機に陥ったカップルが互いを見つめ直すために旅に出るものもあり、バリエーションに富む。

イギリスのお見合い番組「ゲーム・オブ・クローン」
イギリスのお見合い番組「ゲーム・オブ・クローン」

会場で評判だったのはイギリスの「ゲーム・オブ・クローン」という番組だ。恋愛対象の好みを分析することによって、例えば「金髪ストレート、赤い細身のドレスが似合う女性」だったり、「黒縁眼鏡、黒キャップ、ヒゲの男性」であることがわかったら、その通りの姿かたちの相手を8人集めて、その中から究極の相手を選ぶという内容だ。まるでクローン人間のようなよく似た8人が揃うビジュアルは単純に面白い。

セックスセラピストが悩み解決を手伝うオランダの番組
セックスセラピストが悩み解決を手伝うオランダの番組

おそらく日本では放送基準に引っかかりそうな企画も今回多く紹介された。そのひとつ、夜の性生活を改善するセラピー番組「オン・トップ・ウィズ・グデュエル」というものがオランダにあった。世界共通カップルの悩みあるあるとも言えるが、赤裸々にテレビでその実態を明かし、セックスセラピストのグデュエルさんが事細かにダメ出ししながらアドバイスしていく。お色気路線ではなく情報エンターテイメントとして作られたテイストは日本にはないものだった。 

デート相手の情報をハッキングするスペインの番組
デート相手の情報をハッキングするスペインの番組

また世界的にスマートフォンの普及から、インタラクティブというワードもトレンドにある。番組にうまく取り入れた企画が増えている。「ハッキング・ラブ」というタイトルのスペインの番組は、デート中に聞くに聞けない相手の貯金や過去の恋愛遍歴データをハッキングしながら、それを判断材料に相手を見極めていくというもの。ARでハッキングデータをみせるいまどき演出の恋愛バラエティーだった。

世界のテレビ番組バイヤーに共感を呼んだ「おやすみ日本」

一方、日本のバラエティー企画が「新しい!」と思わせる場面もあった。NHK、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、フジテレビ、朝日放送、読売テレビの8社合同の日本のプロジェクト「トレジャー・ボックス・ジャパン(TBJ)」によるプレゼンテーションがバラエティー番組のフォーマット専門イベントMIPFormats(ミップ・フォーマッツ)で行われ、なかでもNHKが発表した「おやすみ日本 眠いいね!」が支持を得た。

日本のバラエティーセールス共同プロジェクト「トレジャー・ボックス・ジャパン」の告知ポスター
日本のバラエティーセールス共同プロジェクト「トレジャー・ボックス・ジャパン」の告知ポスター

「明日が来るのが不安な夜ってありませんか?」というコンセプトをもとに、視聴者が眠りにつくまでとことん付き合うといった番組内容に共感が広がり、「毎晩眠れないと悩む母親にみせてあげたい」と会場で話していたドイツのプロデューサーもいた。「テレビ番組が眠りを助ける企画はあるようでなかった」という声が多く聞かれた。

恋愛に、眠り。かつては複雑ではなかったような現代あるあるの悩みを解消してくれるそんな企画が、世界の番組流通マーケットでは求められているようだ。手軽に今はアプリでそれを解決できる手段もあり、選択肢はいろいろあるが、アイデア勝負でとことん攻めた企画は、バラエティー番組の存在価値にもなり得る。ありとあらゆる世界の番組企画が集まる場所でそんなことにも気づかされた。

テレビ業界ジャーナリスト

1975年生まれ。放送ジャーナル社取締役。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。得意分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。仏カンヌの番組見本市MIP取材を約10年続け、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威あるATP賞テレビグランプリの総務大臣賞審査員や、業界セミナー講師、行政支援プロジェクトのファシリテーターも務める。著書に「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)、「放送コンテンツの海外展開―デジタル変革期におけるパラダイム」(共著、中央経済社)。

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仏カンヌの番組見本市MIP取材を10年以上続け、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動する筆者が、ストリーミング&SNS時代に求められる世界市場の攻め方のヒントをお伝えします。主に国内外のコンテンツマーケット現地取材から得た情報を中心に記事をお届け。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、独自の視点でコンテンツビジネスの仕組みも解説していきます。

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