Yahoo!ニュース

テレビはもう古い? ~カンヌで聞いた世界のコンテンツ流通トレンドMIPTV2017~

長谷川朋子テレビ業界ジャーナリスト
映画祭と同じ会場のパレ・デ・フェスティバルでテレビ見本市が毎年行われている。

フランス・カンヌで世界最大規模のTV番組国際見本市MIPTV(ミップ・ティーヴィー)ウィークが4月1日(土)から6日(木)まで開催された。世界中のテレビ業界関係者がカンヌ市中心部に位置する会場のパレ・デ・フェスティバルに集まり、世界のコンテンツ流通トレンドが語られた。

サラ・ジェシカ、ブレイク・ライブリーよりもユーチューバーが主役

MIPTVは番組を売買する商談会をメインに50年以上にわたって毎年この4月の時期にフランス・カンヌで開催されている。今年は95か国から約1万人が参加した。テレビ業界関係者が一堂に会するタイミングに、新番組のPRや上映会が華やかに行われたり、最近は制作資金を調達するための企画開発会議なども盛んだ。加えて、世界では今、どんなドラマやバラエティーが流行っているのか、VRなど新しい技術を取り入れた番組アイデアは何か、そんなこともわかる場でもある。

なかでも注目した話題のひとつが「ジェネレーションZ」世代が求めるコンテンツだった。「ジェネレーションZ」はマーケティング用語で、1990年半ばから2010年に生まれの現在、小学校の高学年から中学生、高校生、大学生あたりまで年齢層を指す。

ヨーロッパでシェアを広げるYouTubeチャンネル「Zoomin Studios」は「少し前までは今の25~40歳の「ミレニアム世代」がデジタルを駆使する層として注目していたが、時代は今、ジェネレーションZ。この世代が新しい番組アイデアを作り出し、視聴者の中心にある」と説明していた。

アイコンで説明されるとさらにイメージしやすい。アメリカで人気の「Awesomeness TV」が例えたものがわかりやすかった。なお、Awesomeness TVは米企業のコムキャストやベライゾンが出資して立ち上がり、俳優で監督のブライアン・ロビンスとMTVネットワークの元プロデューサー、ジョー・デボラが創設者という成り立ちだ。

ジェネレーションY世代を代表するアイコンは元祖アラサードラマ「SEX and the CITY」主演のサラ・ジェシカ・パーカーだ。筆者も含め、今の40代女子の多くがかつて夢中になり、支持したドラマだろう。

ジェネレーションY世代を象徴するサラ・ジェシカ・パーカー
ジェネレーションY世代を象徴するサラ・ジェシカ・パーカー

一方、ミレニアム世代のアイコンは「ゴシップ・ガール」主演のブレイク・ライブリー。当時、パーティー・ピープル、パリピと言われる若者世代にはまったドラマである。先の「SEX and the CITY」と比較すると恋愛や友情に対する価値観が異なる部分もあり、時代の違いを感じさせる。

ミレニアム世代を代表するブレイク・ライブリー
ミレニアム世代を代表するブレイク・ライブリー

そして最後に出されたジェネレーションZのアイコンはリザ・コッシーだ。ソーシャルメディアアワード「ショーティー・アワード」の受賞歴もある人気のユーチューバーという。テレビ世代には全くもって認知されていない人物かもしれないしれないが、アメリカのジェネレーションZにとっては納得の人物だそうだ。

ジェネレーションZ世代はユーチューバーのリザ・コッシー
ジェネレーションZ世代はユーチューバーのリザ・コッシー

そんなジェネレーションZ世代は「1日7時間スマホ視聴は当たり前」「スナップチャットなど動画系SNS使いが得意」と説明が続いた。Awesomeness TV調べの面白いデータも紹介された。

ジェネレーションZ世代は1週間のうちビデオストリーミングを使う割合が27%に対して、ジェネレーションY世代の大人はビデオストリーミングを一生のうち使う割合が27%という皮肉な数字も出していた。

ジェネレーションZ世代にとってビデオストリーミングは身近な存在だ。
ジェネレーションZ世代にとってビデオストリーミングは身近な存在だ。

つまり、テレビで生まれ育った世代とデジタルネイティブの世代とは求めている番組に違いがあるということだが、ジェネレーションZ世代向けの番組流通が広がりをみせていることも見逃せない。Zoomin Studiosは世界に3500人のビデオジャーナリストやユーチューバーを抱え、2万5000ものオンラインチャンネルを束ねているだけでなく、従来のテレビ局とも積極的に共同でコンテンツ制作も進めているということだ。

松本人志ドキュメンタル、ディーンフジオカドラマを成功例と紹介

従来のテレビ局よりも場合によっては制作費が多く投下され、いまや数多くの番組がエミー賞やゴールデングローブ賞を受賞し、今年はついに製作映画「マンチェスター・バイ・ザ・シー」でオスカー初受賞を果たしたAmazonプライムのキーノートも今回、目玉のひとつだった。

グローバルコンテンツのトップであるAmazonスタジオバイスプレジデントのロイ・プライス氏が登壇し、こんなことを話した。

目玉のキーノートはAmazonスタジオバイスプレジデントのロイ・プライス氏
目玉のキーノートはAmazonスタジオバイスプレジデントのロイ・プライス氏

「会員数が2016年に2000万人増加し、サービス展開地域を240か国に拡大。コンテンツパワーは、会員数の伸びがベースにある。市場の流れは、ルールを打ち破ることで変わる。最も重要なことは影響力のあるタレントや俳優に参加してもらって、新しいと思うことをやってもらうことだ。」

昨年は制作費2億ドルを投下したオリジナルの自動車情報番組「グランド・ツアー」をはじめ、地域ごとにオリジナルコンテンツも積極的に制作したことも説明した。その額は30億ドルに上る。「ドイツ、日本、インドのローカルコンテンツ展開は成功している」と話し、具体的に松本人志とディーン・フジオカの名前を挙げながら、バラエティー「ドキュメンタル」とドラマ「はぴまり」を成功例のひとつとして紹介した。

グローバル展開するAmazonやNetflixはローカル戦略としてオリジナルコンテンツを増やしており、動画配信サービスの世界的なトレンドとして、今後もその勢力を伸ばしていいきそうだ。従来のテレビ局と動画配信の番組に視聴者層の棲み分けがありつつも、世代や枠を越えたコンテンツも台頭していきそうな勢いを感じる。

テレビ業界ジャーナリスト

1975年生まれ。放送ジャーナル社取締役。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。得意分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。仏カンヌの番組見本市MIP取材を約10年続け、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威あるATP賞テレビグランプリの総務大臣賞審査員や、業界セミナー講師、行政支援プロジェクトのファシリテーターも務める。著書に「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)、「放送コンテンツの海外展開―デジタル変革期におけるパラダイム」(共著、中央経済社)。

動画時代に知るべき「世界の映像コンテンツ市場」の動きと攻め方

税込440円/月初月無料投稿頻度:月2回程度(不定期)

仏カンヌの番組見本市MIP取材を10年以上続け、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動する筆者が、ストリーミング&SNS時代に求められる世界市場の攻め方のヒントをお伝えします。主に国内外のコンテンツマーケット現地取材から得た情報を中心に記事をお届け。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、独自の視点でコンテンツビジネスの仕組みも解説していきます。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

長谷川朋子の最近の記事