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眞子さまの結婚をめぐる「対人攻撃」の不健全さ

原田隆之筑波大学教授
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

眞子さまのPTSD公表を受けての記事

 眞子さまが複雑性PTSDを公表したあと、なおも誹謗中傷が寄せられていることについて、「現代ビジネス」に寄稿した(「複雑性PTSD」公表後も続く執拗な誹謗中傷…眞子さまと小室さんの「人権」はどこへ)。

 その要旨を簡単にまとめると以下のとおりである。

・小室さんへの勤務先などへのストーカーまがいの報道や容貌についての批判は度を超している。

・ネット上ではさながら「ネットいじめ」の様相を呈している。

・髪は短くあるべきなどという偏狭な価値観の押し付けが、多様性を阻害し息苦しい社会にしている。

・複雑性PTSDとは新しい概念で過剰診断にならないような注意が必要だが、直接会ってもいない医師が診断についてとやかく言うべきではない。

・病名の公表は批判を封じる「言論弾圧」だと言う人がいるが、批判と誹謗中傷は違う。

・誹謗中傷されるのは相手に原因があるからだという言い訳は、「いじめられるほうにも責任がある」という乱暴な議論と同じで、到底容認できない。

・心配しているからこそ批判するのだという言い訳も、過剰なパターナリズムである。

・つまるところ、これらは人権問題であり、皇室の人々の人権についての議論が必要である。

さらに続く誹謗中傷

 この記事は、Yahoo!ニュースに転載されたこともあり、かなりの反響があった。そして「ヤフーコメント」の「洗礼」を浴びることにもなった。

 コメントは現時点で6,000件を超えており、これだけを見ても反響の大きさがわかる。しかし、予想されたようにそのほとんどがネガティブなコメントであふれている。

 しかも「誹謗中傷は控えて、人権問題として考え直しましょう」という記事の内容をまったく読みもせず、タイトルだけをみて脊髄反射のように投稿したコメントが大半である。

 居並ぶコメントのトップに表示されている人の最近のコメント履歴を見ると、そのほとんどすべてが眞子さまの結婚問題を報じるニュースへのコメントである。さながらネットストーカーのように、執拗にネガティブなコメントばかりを繰り返している様子は、なかなか鬼気迫るものがある。

 そのコメント内容も、「ノーベル搾取賞ものだ」「きっと不幸になる」「洗脳されている」「逃げ恥婚」などと、ここに記すのもためらわれるような汚い言葉があふれている。これを誹謗中傷と言わずに何と言うのだろうか。

 2番目のコメントを寄せた人は、コメント数こそ少ないが、やはりほとんどすべてが眞子さまの結婚問題へのコメントであり、「本当に心配しているのです」と自己正当化をしながら、やはり汚い言葉で誹謗中傷を繰り返しているのは同じだ。

10月18日のテレビ朝日の報道では、眞子さまの結婚を祝福したいと思う人は61%で、思わない人の24%を大きく超えたことが報じられた。これを見ると、今なお反対しているのは少数派であるとわかる。そのなかの一握りの人々が、執拗に度を超した誹謗中傷を繰り返しているのである。

 さらにTwitterでは、小室さんが髪を切ったけれどもそれでも前髪が長すぎるとか、紙袋ではなく風呂敷にすべきだとか、何をしても一挙手一投足が気に入らない人がいるようである。

「いじめ」と対人攻撃の心理

 このような執拗で陰湿な個人攻撃は「いじめ」と同じであると、日本だけでなく、海外のメディアでも報じられている。

 いじめとは、心理学では以下のように定義されている。1)

対人攻撃のユニークで複雑な形態であり、さまざまな形態、機能、パターンの人間関係のなかで出現する。いじめは、単にいじめる側と被害者、二者間の問題ではなく、さまざまな要因によって促進、維持、抑制され、社会的文脈の中で発生する集団現象でもある

 いじめと言うとどこか軽いイメージがあるので、この定義が示しているように「対人攻撃」と言った方がより正確だろう。そして、このような対人攻撃の要因は、非常に複雑である。

 そのなかでも特に研究が進んでいるのは、個人的な要因に関してである。いじめのような対人攻撃をしやすい人の特徴として、反社会的なパーソナリティ傾向(残忍さ、共感性欠如、冷酷性、攻撃性)、同調傾向、不安傾向などが指摘されている。2)

 さらに、いわゆる「ネットいじめ」に加担する人々は、当然のことながらネット使用時間が長いこともわかっており、不健康なネット利用が陰湿な行動を促進していると言える。3)

 こうした個人要因に加えて、環境的なストレスの役割も強調されている。自分自身が日常生活、社会生活での不適応を抱えていたり、大きなストレス下にあったりすると、他者への攻撃性が高まるということである。

 ストレスに際して攻撃的言動をすることは、一見ストレス発散のようにも見えるが、言うまでもなくそれは健全なストレス発散ではないため、一層本人のストレスを高めるという悪循環にもなる。

 事実、いじめに代表される対人攻撃は、被害者だけでなく、加害者にも不安、抑うつ、自尊心の低下、自傷行為などさまざまなネガティブな結果をもたらすこともわかっている。4), 5)

 思想的背景があって誹謗中傷や対人攻撃を繰り返している人もいるだろう。しかし、同じような思想をもつ人がすべて執拗な対人攻撃をしているかというとそうではない。やはり、こうした心理的要因を考慮する必要がある。

自分で自分を貶める行為

 先に執拗に対人攻撃を繰り返している人は、小室さんの一挙手一投足が気に入らないようだと述べたが、このような人々は、来る日も来る日も眞子さまと小室さんのニュースを「ストーキング」し、ストレスの種を自ら探しているようなものだ。

 そして、それを誹謗中傷によって発散しているように見える。しかし、その結果、ますますストレスをため込み、自らも精神的に不健康になっていく。他人に汚い言葉を吐いて、「不幸になれ」などと言っている本人が幸せなはずがない。

 いじめや個人への誹謗中傷、対人攻撃などは、する側もされる側もだれも幸せにはならない。精神的なダメージをお互いに受け続けるものである。相手を貶めているように見えて、その実、自分で自分を貶めているのである。このような意味のないことは一刻も早くやめて、自分の不適応やストレスと建設的な方法で向き合うべきである。

文献

1) Swearer SM, Hymel S. (2015) doi: 10.1037/a0038929

2) Fanti KA, Kimonis ER. (2012) doi: 10.1111/j.1532-

7795.2012.00809.x

3) Mishna F et al. (2012) doi.org/10.1016/j.childyouth.2011.08.032

4) Baldry AC (2004) doi: 10.1002/ab.20043

5) Patchin JW, Hinduja S.(2010) doi.org/10.1111/j.1746-1561.2010.00548.x

筑波大学教授

筑波大学教授,東京大学客員教授。博士(保健学)。専門は, 臨床心理学,犯罪心理学,精神保健学。法務省,国連薬物・犯罪事務所(UNODC)勤務を経て,現職。エビデンスに基づく依存症の臨床と理解,犯罪や社会問題の分析と治療がテーマです。疑似科学や根拠のない言説を排して,犯罪,依存症,社会問題などさまざまな社会的「事件」に対する科学的な理解を目指します。主な著書に「あなたもきっと依存症」(文春新書)「子どもを虐待から守る科学」(金剛出版)「痴漢外来:性犯罪と闘う科学」「サイコパスの真実」「入門 犯罪心理学」(いずれもちくま新書),「心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門」(金剛出版)。

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