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コロナと犯罪 コロナ禍における犯罪の発生状況と今やるべき対策とは

原田隆之筑波大学教授
(提供:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

上半期の犯罪発生件数

 先日、警察庁から今年上半期(正確には1ー7月期)の犯罪統計(速報値)が発表されました。これをみると、ほぼすべての項目において、犯罪が大幅に減少していることがわかります。

 たとえば、全犯罪認知件数は357,396件で、前年同時期の17.1%減です。このうち、少年非行は10,388件(4.7%減)でした。

 罪種ごとに減少率をみると、最も大きく減少したのは窃盗で19.9%減でした。また、殺人、強盗、放火、強制性交の「凶悪犯」は、5.9%減。暴行、傷害、恐喝などの粗暴犯は、9.6%減でした。強制わいせつや公然わいせつなどの性犯罪も、14.3%減少しています。

 都道府県別でみると、青森、秋田、山形、富山、大分、宮崎の6県でわずかに増加していますが、それ以外はやはり大幅に減少しています。特に、東京、大阪、愛知、福岡、北海道などの大都市圏では、軒並み20%程度も減少しています。

 増加している県は、いずれも元々の犯罪発生件数が少ないので、その時々の事情によって誤差程度の増減があるものと考えられます。

 犯罪はここ15年ばかりの間、一貫して減少を続けています。とはいえ、例年の減少幅は数%から10%程度であるのに比べ、今年はそれを大きく上回っているのです。

原因として考えられるもの

 これら大幅な減少の原因の1つは、やはりコロナ禍による外出自粛や飲食店の時短営業などが挙げられるでしょう。

 言うまでもなく、多くの人が外出せずに家でじっとしていれば、そこに犯罪が発生する余地は小さくなります。また、アルコールは犯罪発生の代表的なリスク要因の1つですが、繁華街から人が消え、外での飲酒機会が減ることは、犯罪減少と大きな関連があるでしょう。

 減少幅の大きかった窃盗ですが、手口別にみると、特に侵入盗(空き巣)の減少が大きい(22.4%減)ことから、やはり外出自粛や在宅勤務の増加が関係していることは間違いないと言えるでしょう。

 少年非行も同じです。今年は、仲間同士で集まったり、夜遅くまで徘徊したりということができにくかった状況であったと思われます。これらもやはり、非行促進要因であることから、非行件数の減少に影響したことが考えられます。

 よく夏休みは非行が増加すると言いますが、今年は夏休みも短くて、海開きが見送られたり、花火大会やお祭りの中止が相次いだりしました。これらのイベントの減少もまた、非行件数減少に影響を及ぼしたとみてよいでしょう。

 おそらく、8月以降も犯罪や非行は、引き続き大きく減少するものと思われます。

 犯罪は、社会が大きく動く混乱期や、社会が躍動しているような時代に増加します。これまで戦後日本には、3つの「犯罪増加の山」がありました。1つは戦後間もなくの混乱期、2つ目は高度成長期、そして3つ目はバブル期です。

 一方、社会や経済活動が停滞しているいま、犯罪は目に見えて減少しているのです。これはコロナが生んだ思わぬ「効果」と言えますが、喜んでばかりもいられません。

不安要因とその対策

 すでに何度か報じられているように、家に閉じこもってストレスがたまると、家庭内暴力、ドメスティックバイオレンスの増加が懸念されます。

 同じく、児童虐待など、弱者への虐待にも十分な注意が必要です。これらの犯罪は、家庭のなかで起こるため、外からは気づきにくいことが問題です。また、高齢者などをターゲットに、特別定額給付金をねらった特殊詐欺の発生も懸念されるところです。

 緊急事態宣言中には、「ネットカフェ難民」となった家出少女などを狙って、泊まる場所を提供すると誘うツィートが目立ったとそうです。

 今年は、社会のあらゆる場面で、例年とは大きく異なった出来事が起きています。何が起こるかわからない今、犯罪が減っているとはいえ、犯罪者は「社会の弱いところ」を巧みに狙っています。感染症予防に加えて、防犯にも十分な気を配る必要があることは、言うまでもありません。

 特に、人と人との関係が希薄になりがちな今、それに付け込んだ犯罪が増えるのではないかと懸念しています。自粛警察やマスク自警団など、ギスギスした問題がたびたび報道されますが、どうせ目を光らせるならば、近所に困っている高齢者はいないか、子どもの泣き声はしないかなど、地域社会を犯罪から守るような本当の意味での「自警団」になっていただいたほうが、よほど世のため人のためなのではないでしょうか。

 それは、見えない絆で社会を守る大きな力になることは間違いありません。

警察庁 犯罪統計資料

筑波大学教授

筑波大学教授,東京大学客員教授。博士(保健学)。専門は, 臨床心理学,犯罪心理学,精神保健学。法務省,国連薬物・犯罪事務所(UNODC)勤務を経て,現職。エビデンスに基づく依存症の臨床と理解,犯罪や社会問題の分析と治療がテーマです。疑似科学や根拠のない言説を排して,犯罪,依存症,社会問題などさまざまな社会的「事件」に対する科学的な理解を目指します。主な著書に「あなたもきっと依存症」(文春新書)「子どもを虐待から守る科学」(金剛出版)「痴漢外来:性犯罪と闘う科学」「サイコパスの真実」「入門 犯罪心理学」(いずれもちくま新書),「心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門」(金剛出版)。

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