挫折が成長につながる場合とつながらない場合の違い。研究から見た挫折した部下をマネジメントするヒント

部下の挫折を目にした人は、「それを糧に成長してほしい」と期待し、黙って見守ったり、時には若い頃の自分を重ね合わせながら声をかけ励ましたりすることと思います。

しかし、挫折そのものが成長の糧になるわけではない、ということが最近の研究結果から明らかになっています。

挫折によって目指していた道を諦めたり、その仕事自体を嫌いになって離れてしまったりといったことも、実際の現場ではよく起こることです。

以下で紹介する研究では、人は挫折の中に何らかの意味を発見した場合にのみ成長することが示唆されています。

この点を踏まえると、挫折した部下にとって有益なのは、「黙って見守る」や「意見の押し売りをする」ではなく、「意味の発見」を手助けしてあげることだと考えられます。

■挫折が発見につながるか?が鍵

高知大学の渡邊ひとみ先生が発表した論文からこんなことがわかっています(文献1)。

大学生を対象にした研究で、「自分にとって重大な意味を持つ出来事がアイデンティティの確立にどのように影響するか」を検証するものです。

アイデンティティの確立とは、ざっくりまとめると「自分らしさ」を理解・受容し、自信をもって主体的に行動できるようになることです(文献2)。

研究の一部を紹介します。

研究では、例えば”センター試験で上手くいかずに、第2志望の大学にも落ちた”など、その人にとって重大でネガティブな出来事や、その意味の探索(ベネフィット・ファインディング)が、アイデンティティの確立をどのように促すかが統計的に分析されました。

その結果、ネガティブな出来事そのものはアイデンティティの確立を促さないことが明らかとなりました。つまり、挫折そのものが成長につながるわけではないのです。

ではなぜ私たちは挫折を糧に成長したと感じるのでしょうか?

重要となるのが、挫折と成長を仲介する要因です。研究では、「ありのままの受容と自己成長」、「新視点の獲得」「生きる目的への気づき」が、挫折と成長の仲介をすることが示されました(図1)。

図1
図1

これらの要因に共通するのは、「意味の探索と発見」です。

つまり、

  • ありのままの受容と自己成長:自分の力では変えられないことに適応するという、自分の限界の発見
  • 新視点の獲得:いろいろなものの見方や考えがあることを教えられたという、見方の発見。
  • 生きる目的への気づき:努力する大切さを教えてもらうなど、たとえ目的に達しなくても努力することがその先のなにかにつながるという、可能性の発見

これらの発見が、その人の新たな自分らしさを形作り、成長へとつながっていくのでしょう。

挫折が成長につながるとき、実は私たちはこうした「意味の探索と発見」を行っていると考えられます。

それは自分一人でやる場合もあれば、誰かに話を聞いてもらいながらの場合もあるでしょう。挫折してすぐにできる場合もあれば、挫折したことで受けた心の傷が和らいだ後にできる場合もあります。

■挫折を糧にした成長を促すには?

この研究の結果を踏まえると部下が挫折を経験した際、いかに「意味の探索と発見」を手助けするか、が重要といえます。

もっとも挫折したばかりの人は、経験を受け止め心理的な苦痛をいやすプロセスにいる可能性もあるので、すぐに「意味の探索と発見」に取り組めるとは限りません。その場合は時間が必要で、経験を整理し、心理的な苦痛を和らげるような手助けがまず優先されます。

その上で、自らが挫折について「意味の探索と発見」を行った経験について伝えたり(ただし武勇伝的な語りは逆効果)、「意味の探索と発見」につながるような問いかけをしたりすることが、部下の成長を後押しするのではないでしょうか。

参考文献

・文献1:渡邊ひとみ. (2020). 青年期のアイデンティティ発達とネガティブ及びポジティブ経験に見出す肯定的意味. 心理学研究, 91-19010.

・文献2:下山晴彦. (1992). 大学生のモラトリアムの下位分類の研究. 教育心理学研究, 40(2), 121-129.