リモート環境で起きやすい仕事の間違いや抜け忘れを防ぐ3つ工夫

リモート環境で仕事をする機会が増えるにしたがい、オフィスで働いていたときはあまり起こらなかったようなミスが増えて困っている、という事例をうかがいます。

例えばメールの誤送信や送信忘れ、添付ファイルの付け間違い、資料の読み取り間違いなどです。一歩間違うと大きな損失につながるケースもあるため、対策が必要です。

これらのような「やり忘れ」や「やり間違い」のミスは、個人の集中力や注意深さだけの問題ではなく「どのような環境で行っているか」も影響するとされます※文献1。したがって、仕事専用ではないことも多いリモート環境は、オフィスと比べてミスが起こりやすい環境な可能性があります。

その一方で、個人で仕事専用のリモート環境を整備することは難しいでしょう。また環境の影響がある以上、「もっと注意深くやる」といった意識の徹底だけではミスを防ぐことは難しいものです。今ある環境の中で個人として取り組める具体的な工夫が重要となります。

そこでこの記事では、技能五輪選手のメダリストが実際にやっている「やり忘れ」や「やり間違い」のミス(以下、これらをまとめてミスと表記します)を予防する具体的な工夫を3つご紹介します。「注意深くやる」を具体的な行動に置き換えることで、リモート環境でのミス削減や生産性の向上に役立てば嬉しく思います。

1.マルチモードインプット(MMI)

情報をインプットする際に目・声・指の3つの感覚(マルチモード)から情報を多角的にインプットし、精度を上げる方法です。MMIの具体的なやり方として、メールの送信を例に説明します。送信する前に宛先のメールアドレスや宛名、文章の内容、添付ファイルなどを目で見るだけではなく、人差し指でさし示しながら小さな声でつぶやきます。音量は、自分で「何かつぶやいてるな」とわかれば十分です。

マルチモードインプットのイメージ
マルチモードインプットのイメージ

MMIは、「目は間違うもの」という前提に立ち、「補正情報で精度を上げる」ことを目指すものです。人の脳は予測変換する性質があり、目から入ってくる情報が多少間違っていても、「こうだろう」と自動的に補ったり修正したりして読み取る傾向を持ちます*文献2。便利で合理的な性質ですが、ちょっとした間違いには気づきにくくなります。

MMIはこうした間違いを予防する効果があると考えられます。例えば送信先のメールアドレスを確認する際、目だけでなく指でアドレスを追うと間違い箇所で引っかかったり、声に出すと「あれ?」と間違いに気づいたりしやすくなります。さらに、MMIには「情報のインプットを早く正確にする」という効果もあります。文書やグラフなどを短時間で正確に読み取らなければいけないとき、特に効果を発揮します。

著者らが技能五輪の情報ネットワーク施工職種を対象に行った調査では、メダリストは入賞しなかった選手と比べて約1.5倍、MMIを実行していました*文献3。

なお、一般的な「指差し呼称」との違いですが、前者が主に動作や作業の完了の確認に使われるのに対し、MMIは完了の確認だけではなく、資料や設計図などの読み取りも含め、情報をインプットするあらゆる機会で使われます。

難点は、MMI自体がめんどうなこと、やり慣れると形骸化する場合があることなどです。前者についてはやるタイミングを絞っておくこと、後者についてはたまにやり方を変えてみることなどが良いと思われます。

2.ペースコントロール(PC)

タスクを、一定のペースを保って行う方法です。メール送信前のチェックを例にあげると、30秒や1分のように、かけるべき時間をあらかじめ決めておきます。この時間をその作業のペースとして、仮にペースより早く確認が終わっても、ペースを使い切るまで送信ボタンを押さないようにします。これによって確認の精度を高めることがねらいです。ペースは作業に対して少し多いくらいがよく、必要作業の1.2~1.5倍くらいを目安とします。

ペースコントロールのイメージ
ペースコントロールのイメージ

この方法は、「急ぐと手順は省略される」という前提に立ち、「一定時間、省略しにくくする」ことを目指します。確認作業のような一つのタスクを締める作業段階を「締めフェーズ」と呼んでいますが、締めフェーズでは「早く終わりたい」とか「次の作業に進みたい」といった欲求が生まれやすく、作業が一種の速度超過になるものです。たとえば時速60kmで運転していれば見落とさない道路標識でも100kmで運転すると見落とすように、速度超過は作業者の認知的な視野を狭め(トンネルビジョンと言います)、ミスが増えてしまいます。

PCには速度超過やトンネルビジョンを予防する効果があると考えられます。ペースを使い切るまで次のタスクに進めないので、もし時間が余ればそこで深呼吸したり再度確認したりして、落ち着いて締めフェーズを終えることができます。

著者らが技能五輪の情報ネットワーク施工職種を対象に行った調査では、メダリストは入賞しなかった選手と比べて約1.2倍、PCを実行していました*文献3。

難点は、最初は最適なペースがわからないこと、急いでいるときは先に進みたい欲求が思った以上に強く、抗いづらいことなどです。前者は締めフェーズの作業時間を測って、自分の最適なペースを見つけることから始めます。後者はMMIと組み合わせてやることで、ある程度コントロールできる面があります。

3.レスト&リスタート(RR)

ペースコントロールと同じく、締めフェーズでの確認の精度を上げる方法です。締めフェーズに入る前に少しだけ休息(レスト)をとります。この休息は1分ほどで良く、飲み物を飲む、一回席から立ち上がる、息をゆっくり吐く、視線を上に向けるなどをしてみます。その後、締めフェーズに取り掛かります(リスタート)。

レスト&リスタートのイメージ
レスト&リスタートのイメージ

この方法は「集中力は消耗する」という前提に立ち、「回復後に取り組む」ことを目指すものです。以前の記事でも解説しましたが、人の集中力は有限で、時間とともに消耗します。締めフェーズは作業工程の終わりにあるため、多くの場合、集中力が消耗した状態で取り組むことになります。そのため、通常であれば問題なく行える作業を間違えたり、気づくはずのことを見落としたりといったミスが増えやすいものです。

そこで、休息してから締めフェーズをリスタートすることで、集中しやすくします。一般に、休息で集中力の消耗を回復できることがわかっています。また、筆者がこれまで行ってきた技能五輪選手への面談では、30秒~1分ほどの休息でもある程度は集中力の回復を感じるという報告も聞いています。

難点は、ペースコントロールと同じく急いでいるときに「止まる」という判断がしづらいことや、何をすると休息になるのかが人それぞれという点などです。休息の方法は、上に述べたことなどを試しつつ、手間がかからずできるものを模索すると良いかもしれません。

工夫を続けるための仕組みも大事

ここで紹介した方法は、いずれも普段やっていることに一手間加えるものです。この一手間が面倒なものです。少しやってみて、良いと思ってもなかなか続かないこともあります。また、工夫によってミスが減っても、ミスしたときと比べて、ミスしなかったときは記憶に残りにくいため、あまり実感が持てないかもしれません。

その対策の一つに、正しくやった回数をカウントする方法があります。もし工夫をやって、ミスせずタスクを終えられたなら、それは成功となります。その成功数をカウントし、10回、20回と重ねていきます。いわゆるゲーム化(ゲーミフィケーション)する方法です。ゲームで倒した敵の数や獲得ポイントが増えていくことで、「またやろう」とモチベーションが続くのに似たイメージです。

まとめ

リモート環境では、オフィス環境などの仕事専用の環境と比べてミスが起こりやすくなるという問題があります。

その対策として、マルチモードインプット(MMI)、ペースコントロール(PC)、レスト&リスタート(RR)の3つの方法を紹介しました。

どれか一つでも「試してみよう」と思えるものがあれば幸いです。

参考文献

・文献1:日本認知心理学会監修 原田悦子・篠原一光編. (2011)."注意と安全". 北大路書房.

・文献2:樋口貴広. (2013). "運動支援の心理学 知覚・認知を活かす". 三輪書店.

・文献3:羽田野健, & 菊池拓男. (2018). 技能者の熟達度によるコンダクト・スキルの分析と指導法の提案. 日本教育工学会論文誌, S42067.