腕を回して行き詰まりを突破する:身体運動と前例に囚われないアイディア産出の関係から

(提供:アフロ)

技能者や部下の育成では、彼らが問題に直面し、その解決を通して熟練していくのを見ることが何回もあります。しかしその中には、自分たちの力だけではどうしても解決できない問題もあります。育成する側としては、それをぜひ解決して乗り越えてほしいと考えますが、当事者はどうやれば乗り越えられるかわからないものです。

そんなとき、育成する側が過去に経験したことであれば、その知恵を使って手助けできるかもしれません。しかし、知識やテクノロジーが目まぐるしく進歩する中で、育成する側にとっても未経験な問題に直面することがあります。そうなると、過去の経験は当てにならないかもしれません。前例に囚われないアイディアを生み出す必要があります。

この問題へのヒントが、心理学研究に掲載されています。

「身体運動の大きさが拡散的アイディア産出に与える影響」という研究報告です(永井・山田・仲嶺, 2019)。この報告では、体の動きを上手く使うことで、前例にとらわれないようなアイディアを生み出すことができる可能性が示されています。

実験では、「コメ名称を考えホワイトボードに記入する(Yamada & Nagai, 2015)」などの創造性課題に、参加者が取り組みました。

参加者は2つのグループに分けられました。一方は腕を大きく回した後に上記の課題に取り組むグループ、もう一方は腕を小さく回した後に課題に取り組むグループです。

腕の回し方は、「壁面に描かれた直径80cmあるいは3cmの円に対して、利き手の人差し指を円に沿って2秒に1周の速さで時計回りの方向になぞるように回す」とされました(※論文中にはより詳細な腕回しの条件が記載されています)。

データを分析した結果、腕回しの大小で生み出したアイディアの数に違いはないものの、腕回しが大きいグループの方が、「先行事例や典型例に囚われないアイディア生成をもたらすこと、多様性に富むアイディア産出に通じる可能性が示唆された」とのことです。

その理由として、「腕を大きく回す身体的な動作が小さな腕回しよりも、認知情報処理システムにおいて「広範囲・拡散的」という概念を駆動し」た可能性などが指摘されています。

どういうことかというと、腕を大きく回す動作に、実は頭の中の視野を広げる効果があるのでは?ということかと思われます。それによって普段だったら考えないようなことが頭の中の視野に入る、つまり思い浮かびやすくなった可能性があるのです。

技能者や部下の育成での問題の解決に行き詰まったとき、自分の知っていることだけで解決しようとしてしまっていることがあります。そういうとき、実は頭の視野が狭くなっているかもしれません。この状態は認知的視野狭窄といいます。時間がないとか早くしなきゃいけないと思っているときほど、そうなりやすいものです。

そんなとき、体を大きく動かすと頭の視野が広がり、前例に囚われないアイディアの産出を促す可能性があると知っていれば、解決のヒントが見えてくるかもしれません。

例えば、今回の研究報告で紹介されたような腕を大きく回す動作をすると、知らずに囚われていた先入観や思い込みから解放され、視野が広がる可能性があります。

腕を回す動作以外にも、周りを散歩してみるとか、いつもと違ったものが目に入ってくるように動き回ってみるとか、自分にとって効果のある動きを探してみるのもよいでしょう。

技能者や部下と職場の周りを散歩しながら、前回の記事で紹介した肯定的あいづちを交えて問題について話し合うと、前例に囚われない解決のヒントが生まれるかもしれません。

引用文献

・永井聖剛, 山田陽平, & 仲嶺真. (2019). 身体運動の大きさが拡散的アイデア産出に与える効果. 心理学研究, 90-17342.

・Yamada, Y., & Nagai, M. (2015). Positive mood enhances divergent but not convergent thinking. Japanese Psychological Research, 57(4), 281-287.