似たもの夫婦とミラーニューロン

画像

野村克也元監督夫妻。爆笑問題の太田光夫妻。もともと他人のはずなのに、なぜか兄妹のように顔がそっくりな夫婦がいます。研究によれば、結婚して25年ほどたった夫婦は、新婚当初よりもずっとお互いに顔が似てくるそうです。しかも、夫婦仲が良いほどよく似るそうです。なぜこうなるのかについてはいろいろなものが影響しているようですが、その一つにミラーニューロンとよばれる神経細胞の働きがあります。まだ発見されて20年ほどしかたっていない新しい細胞です。しかし、わずか(?)20年の間に、私たちが他人と似てくること、その裏側に人の気持ちを自然に感じとる仕組みがあって、ミラーニューロンがその仕組みで中心的な役割を果たしているとわかってきました。

自動的な共感の仕組み

ミラーニューロンは、名前の通り、鏡のように人の行動や感情をそっくり真似する細胞です。目の前の人が喜んでいるの怒っているのか。私たちが特に意識しなくてもなんとなくわかるのは、このミラーニューロンの働きが関わっているといわれています。たとえば、あなたがプレゼントをあげ、相手が喜んでいるなと感じたとき、あなたの頭の中でミラーニューロンが反応して相手の喜びをうつしだしています。さらに、その人と同じ表情をする(自然にでも意図的にでも)、つまり喜んでいる人と同じように喜んだ顔をすると、あなたの感じる喜びは高まっていきます。文字通り、相手が喜ぶと自分も嬉しいのです。

真似と共感の関係を確かめたある実験では、参加者は顔写真を何枚かみせられました。恐怖や悲しみの顔など、いろいろな表情をした顔の写真です。同時に、写真を見ている参加者の脳の活動も測定されました。その結果、見ている人の脳では、ミラーニューロンや感情と関係のある領域などが活動していることがわかりました。しかも、この活動は表情の真似によってもっと高まったのです。参加者に「写真の表情を真似してください」とお願いした場合、見ているだけと比べてよりミラーニューロンなどの活動がも高まることがわかりました。真似は、共感を高める働きがあったのです。その後も研究が重ねられ、ざっくり説明すると、まずミラーニューロンが相手の表情などを真似て、その後感情や意図の理解が起こっていくのではないか、といわれています。

真似は親密さともつながっています。下の図をみてみてください。青とオレンジの人(に見えないかもしれませんが)、どちらのペアの方が仲良さそうに見えますか?どっちも大して変わらないかもしれませんが、あえていえばオレンジの方が仲が良さそうに感じられた人が多いのではないでしょうか。

画像

同じ振る舞いをすると、親密さを感じます。これも真似の1つです。たとえばアイドルに手を振って、振りかえしてくれたら嬉しい。ミラーニューロンが働き、手を振るという行動を通してアイドルの頭の中とあなたの頭の中がつながったと感じられるからかもしれません。

共感する力は変化する

共感を支えるミラーニューロンの活動は、生まれつきずっと変わらないのでしょうか。近年、共感などが苦手な自閉症スペクトラムの背景に、ミラーニューロンの機能不全があることがわかってきています(たとえば京都大学の研究)。それをふまえ、自閉症児への療育などで、療育者が意図的に子どもの振る舞いを真似するミラーリングという方法が注目されています。そして、ある程度の療育効果があることも確かめられてきつつあるようです。他にも、ある調査では、新人の看護師とベテランの看護師を比べると、看護行為を見た際のミラーニューロンの活動量が違うことがわかりました。これらのことを考えると、練習や経験をかさねることで、共感する力は伸びていく可能性を持っているのだと思われます。

似たもの夫婦の話に戻ると、親密な人たちほど、無意識に、お互いを真似し合っているのかもしれません。そしてそれが何十年も続く。そうすると、次第にお互い真似が上手くなり、表情や振る舞いが似てきて、そっくりな夫婦になっていくのかもしれません。真似は、相手の立場になって考える際の土台にもなります。相手の立場になって考えなければならないのに、それがなかなかできないこともあります。そんなとき、相手の立場になってふるまう、つまり真似をしてみると、何か発見があるかもしれません。

-

参考にした主な文献

□ミラーニューロンの発見 マルコ・イアコボーニ著 早川書房

□ミラーニューロン ジャコモ・リゾラッティ著 紀伊国屋書店

□『特集1再考:発達障害児の早期発見・早期支援』 教育と医学 第691号 慶應義塾大学出版会