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弁護人は、「ゴーン氏保釈却下の理由」を公開すべき

郷原信郎郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士
(写真:ロイター/アフロ)

 ゴーン氏の2回目の保釈請求が却下されたと報じられている。ゴーン氏側が日本国内に制限住居を設け、パスポートの提出、GPS機器の装着など、「逃亡防止」のためのすべての条件を受け入れるという声明を出していただけに、保釈を認めないのは、検察官が「罪証隠滅のおそれ」を理由に保釈に強く反対する意見書を出し、裁判所がそれを受け入れたということだろう。

 しかし、特別背任で、日産からの不正な支払先とされているサウジアラビアのジュファリ氏は、ゴーン氏の弁解に沿う証言をしているはずで、ゴーン氏側がそれを変更させる必要はない。検察も、ジュファリ氏の供述以外の証拠による立証を予定しているはずだ。

 また、日産関係者は、ゴーン氏が接触しようとしても、会社からの全役職員への接触禁止の指示に反して接触したり、事実に反する証言をするとは思えない。ゴーン氏側が、日産の役職員に接触を図れば、何らかの形で日産側が把握する可能性が高く、それは、保釈の取消し・保釈保証金の没取につながる。そのようなリスクを冒してまで、接触を図るとは考えられない。

 いったい、何が「罪証隠滅のおそれ」とされているのか、ゴーン氏弁護人は、検察官の反対意見を入手しているはずだ。裁判所が受け入れた「検察官の保釈への反対意見」の内容を明らかにし、そのような理由で身柄拘束が続くことの是非を、世に問うべきだ。

 私が主任弁護人を務めた美濃加茂市長事件でも、藤井浩人市長(当時)は、収賄の事実を全面的に否認しており、検察官は、保釈に強硬に反対していた。3回目の保釈請求が却下された際、私は、【藤井市長を人質に籠城する検察】と題するブログ記事を出して、検察官が保釈に反対している理由の概要を明らかにし、それがいかに不当かを世の中に訴えた。

 検察官は、当初は、「検察官側の立証」に対する「罪証隠滅のおそれ」を主張していた。しかし、弁護側の対応によってそのおそれがなくなったため、「弁護側が予定している主張立証」、つまり、被告人に有利な証言をする予定の証人に関して「被告人と関係者が口裏合わせをする可能性がある」などというトンデモナイ主張をしていたのだ。

 結局、この事件では、4回目の保釈請求で、そのような検察官の保釈への反対が不当であることを強く訴えたところ、準抗告で保釈が許可され、藤井市長は、約60日ぶりに身柄拘束から解放された。

 ゴーン氏の事件での長期の身柄拘束は、国際的な関心も高い。検察官がどのような理由で保釈に反対しているのか、裁判所がなぜ却下したのか、その理由を、弁護人が積極的に情報開示すべきだ。

郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

1955年、島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事、法務省法務総合研究所総括研究官などを経て、2006年に弁護士登録。08年、郷原総合コンプライアンス法律事務所開設。これまで、名城大学教授、関西大学客員教授、総務省顧問、日本郵政ガバナンス検証委員会委員長、総務省年金業務監視委員会委員長などを歴任。著書に『歪んだ法に壊される日本』(KADOKAWA)『単純化という病』(朝日新書)『告発の正義』『検察の正義』(ちくま新書)、『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)、『思考停止社会─「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)など多数。

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