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「平均寿命」の誤解と「平均余命」を確認する(2022年公開版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
「平均寿命」の実情と言葉の定義を確認(写真:アフロ)

厚生労働省から2022年7月に発表された2021年分の簡易生命表には、日本における平均寿命などが掲載されていた。その平均寿命そのものの定義と、平均余命について確認を行う。

次に掲載するのは、公開値を基にした平均寿命の推移。戦前は調査そのものが非定期、戦中は行われていなかったこともあり、グラフ上で直線となってしまう部分がいくつか生じている。また分かりやすいように、節目となる動きの部分に説明の吹き出しを加えている。

↑ 平均寿命(日本、戦前は完全生命表のみ・不連続、年)
↑ 平均寿命(日本、戦前は完全生命表のみ・不連続、年)

一番古いデータの1891~1898年では男性42.80年・女性44.30年。織田信長によるものが有名な、敦盛の一節「人間五十年」よりも短い。

以後、少しずつ近代化とともに上昇を見せるが、1921~1925年には大幅に減少してしまう。これは1918年から世界的に大流行したスペイン風邪、そして1923年に発生した関東大震災の影響を受けてのもの。以後、各方面の努力もあったが、戦前は緑の薄い破線で記した「50年ライン」を超すことはかなわなかった。そして戦後初となる1947年調査で、初めて男女とも平均寿命が50年を超えている。

戦後しばらくにおいては社会情勢・健康・食料事情の安定化、さらには「戦死」要素が事実上無くなったこともあり、大きな上昇傾向が見られる。しかし1950年代後半からは上昇傾向が緩やかになり、その流れのまま上昇している。

なお2011年ではやや大きな下落変動が確認できる。これは2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴うものである。戦前の関東大震災、戦後では1995年に発生した阪神淡路大震災でも似たような動きが確認できるが、大規模な自然災害は国全体の平均寿命にすら、明らかな影響を及ぼす事例といえる。直近2021年でも下落が起きているが、これは新型コロナウイルスの流行によるところが大きい。

そして本題となる「平均寿命」の定義について。「平均寿命」とは「各年における0歳児の平均余命」を指す。例えば2021年の女性の平均寿命は87.57年なので、「2021年に生まれた女性は、社会情勢などの大きな変化が無い限り、平均的に87.57年生きられる」ことを意味する。「2021年時点で亡くなった女性の平均年齢が87.57歳」ではない。また「2021年時点で87歳の女性は、普通ならばこの1年間に亡くなってしまうだろう」との意味でもない。

サンプルとして2021年時点の、高齢者における平均余命(2021年時点でその歳において、平均的にあと何年生きられるか)をグラフ化する。

↑ 平均余命(高齢層(一部)、年)(2021年)
↑ 平均余命(高齢層(一部)、年)(2021年)

↑ 平均余命(高齢層、年)(2021年)
↑ 平均余命(高齢層、年)(2021年)

2021年の時点で80歳の女性は、今後さらに平均で約12年生き続ける試算ができる。くれぐれもお間違えなきように。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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