Yahoo!ニュース

一般的に人は「自分のことだけ」なのか「他人の役に立とうとしている」のか

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
ボランティア活動は「他人のために役立つ」という行動指針に沿ったもの(写真:イメージマート)

実際には状況によりけりではあるが、人間の行動指針の一つに「他人のために役立つ」と「自分のことを優先する」という相反する概念がある。要は献身の心構えか自分本位かなのだ。それでは実際のところ、世間全体ではどのように思われているのだろうか。統計数理研究所による定点観測的調査「日本人の国民性調査」(※)の結果を基に、その実情を確認していくことにする。

今調査の結果によると、年齢階層間ではやや若年層が低い値を示しているものの、おおよそ5割強は「自分自身の考えとして」自分の好きなことか否かはともかく、人のためになるような暮らし方に賛意を示している。人のためにならなくとも自分の好きなことをする暮らし方に賛成する人は3~4割台。

↑ 「自分の好きなことか否かはともかく人のためになること」の比率
↑ 「自分の好きなことか否かはともかく人のためになること」の比率

それでは回答者自身も含め、回答者が認識している世間一般として、人は他人のために役立とうとしているように見えるのだろうか、それとも自分のことだけに気を配っているのだろうか。その回答結果の経年変化を示したのが次のグラフ。

↑ 一般的に人は他人の役に立とうとしているか、自分のことだけに気を配っているか
↑ 一般的に人は他人の役に立とうとしているか、自分のことだけに気を配っているか

回答者が認識している一般論で、との話だが、「自分本位」の回答値は漸減し、「他人に役立つ」は漸増。特に2008年から2013年には大きな減少・増加の動きを示し、ついに今項目の調査が始まって以来初めて「他人に役立つ」が「自分本位」を上回る形となった。直近の2018年では両者の値とも1%ポイントずつ減ったが、結果として「他人に役立つ」が「自分本位」を上回る状態は継続中。

元々両者はそれぞれ減る・増える傾向にあったものの、2013年の動きはややイレギュラーな雰囲気がある。これは2011年3月に発生した東日本大地震・震災により、ボランティア活動などに励む人たちの姿を見聞きし、「他人に役立つ」活動の様相が強く心に刻まれたのが原因なのだろう。

これを年齢階層別に見たのが次のグラフ。なお今件は現時点で年齢階層別の値について直近2018年分の値が開示されておらず、前回の2013年分までの値の動向を示したものとなる。

↑ 一般的に人は他人の役に立とうとしているか、自分のことだけに気を配っているか(「他人の役に」回答値、年齢階層別)
↑ 一般的に人は他人の役に立とうとしているか、自分のことだけに気を配っているか(「他人の役に」回答値、年齢階層別)

前世紀末期までは20~30代で低めの傾向が見受けられた。要は「自分本位」が高いということ。ところが今世紀に入ると30代までの若年層も値がグンと伸び、他の年齢階層とさほど変わらない結果が出ている。これは上記のグラフ「自分の好きなことか否かはともかく人のためになること」の挙動とほぼ一致しており、21世紀に入ってからのこの年齢層の年齢階層において、これまでの同年齢層とは異なる心境の変化が生じたことを思わせる。

本来歳をある程度重ねないと会得できなかった他人への貢献という社会的意識を、早めに会得できるようになったのかもしれない。また、この21世紀に入ってからの若年層の変化が、全体値としても「他人に役立つ」が「自分本位」を上回ることに貢献した一因であることを考えれば(もっとも2008年から2013年においては、全年齢階層とも同様に大きく上昇しているのだが)、関心をそそられる話ではある。

2013年の大きな増加が震災の影響によるものであることも否定できないが、2018年の結果でも2013年の結果に続き「他人に役立つ」が「自分本位」を上回っている以上、影響のあるなしにかかわらず、実情がそのように見えていることに違いはない。

■関連記事:

【日本の若者が抱えるネガティブシンキング、各国比較で上位独走!?】

【日本は高め、「自国民としての誇り」「何か役立つと思うことをしたい」諸外国での違い】

※日本人の国民性調査

統計数理研究所が1953年以降5年ごとに実施しているもので、各回ごとに微妙に細部は異なるものの、基本的に20歳以上の男女個人を対象にした標本調査。層化多段無作為抽出法で2254人から6400人の標本を抽出し、個別面接聴取法で実施している。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

不破雷蔵の最近の記事