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高齢者の自動車運転、日本の実情は他国と比べて多いのか

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
高齢者による自動車の運転。問題視されているが、生活の上で必要不可欠な人も多い(写真:Paylessimages/イメージマート)

高齢化の進行と地域の過疎化に伴い、高齢者による自動車事故が社会的問題の一つとしてスポットライトを浴びている。生活の維持のためには行動範囲を広げる自動車などの移動手段は欠かせないが、心身の衰えに伴う判断ミス、走行中に不意の発症で運転不可能になる可能性があり、結果として交通事故が生じれば、本人だけでなく周囲の人まで被害を受けてしまう。今回は内閣府が2021年6月に発表した「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」(※)の最新版から、日本だけでなく他国の状況も合わせ、高齢者が外出する時の利用手段の中から、自らの体力を消費することなく移動先を決められる移動手段として、バイクやスクーター、そして自分で運転する自動車を取り上げ、その利用実情を確認する。

次に示すのは「ふだん、外出する時に何を利用するか」との複数回答の問いにおいて、選択肢として「徒歩」「自転車」「バイク・スクーター」「自分で運転する自動車」「家族などが運転する自動車」「バス・路面電車」「電車・地下鉄」「タクシー」「自分で操作する車椅子」「介助者が必要な車椅子」「その他」を用意した中で、「自らで移動経由や行先を細かく決められる」「移動の際に体力の消費を必要としない」「いつでも利用できる」の条件に合致した、「バイク・スクーター」「自分で運転する自動車」の回答値を抽出したもの。例えば日本では「自動車(自分で運転)」が54.9%とあるので、60歳以上の半数強は自分で運転する自動車を普段外出する際に利用していることになる。

↑ 外出する時の利用手段(60歳以上、複数回答、一部、国別)(2020年)
↑ 外出する時の利用手段(60歳以上、複数回答、一部、国別)(2020年)

どの国でもバイクやスクーターを利用する人はごく少数。運転時の安定性や運動能力の必要性などを考えると、自動車運転と比べて格段の難しさがあるため、バイクよりは難易度が低いスクーターでも利用する人はあまりいないのだろう。自分で運転する自動車ではアメリカ合衆国の87.0%がもっとも多く、次いでスウェーデンの72.6%、ドイツの67.7%が続く。日本の54.9%は実のところ今回調査国の中では一番低い。

これについて、各国の年齢階層別に見たのが次以降のグラフ。まずは「バイク・スクーター」。

↑ 外出する時の利用手段(60歳以上、複数回答、「バイク・スクーター」回答率、国別・年齢階層別)(2020年)
↑ 外出する時の利用手段(60歳以上、複数回答、「バイク・スクーター」回答率、国別・年齢階層別)(2020年)

全体値ではドイツと並び一番値が低かった日本だが、(海外と比べて、ではあるが)高齢でも少なからぬ人が利用しているのが分かる。70代後半に限れば、日本が一番高い値の4.3%を示している。ただし80歳以上ではゼロ。他方60代前半では他国が6%以上なのに対し、日本では2.1%どまり。

もっとも、一番値の高いスウェーデンですら1割足らずでしかないので、誤差の範囲と解釈すれば、それまでなのだが。

続いて自分で運転する自動車の回答値。

↑ 外出する時の利用手段(60歳以上、複数回答、「自動車(自分で運転)」回答率、国別・年齢階層別)(2020年)
↑ 外出する時の利用手段(60歳以上、複数回答、「自動車(自分で運転)」回答率、国別・年齢階層別)(2020年)

自分で運転する自動車の割合は、当然ながらおおよそどの国でも年を取るに連れて減少する。年を取ると心身ともに衰え、自動車の運転に耐えられなくなる(・耐えられないと周囲が判断して止めさせる)からだ。

他方、各年齢階層の値を見ると、日本は60代前半の値が低く、年齢が上になるに連れて値が落ちる度合いも大きい。80歳以上では20.6%しかいない。一方で、アメリカ合衆国は60代前半で9割近くの人が用い、7割超の値は80歳以上まで維持されている。同国において自動車は高齢者にとっても生活必需品となっている実態が容易に理解できよう。

■関連記事:

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【自動車やバスを多用し、歩行は案外少ない…高齢者の外出手段の実情を探る(最新)】

※高齢者の生活と意識に関する国際比較調査

5年毎に行われている調査で、最新分は2020年12月から2021年1月にかけて日本、アメリカ合衆国、ドイツ、スウェーデンにおいて、60歳以上の男女(老人ホームなどの施設入所者は除く)に対して調査員による個別面接聴取方式や郵送調査法、電話調査法、訪問依頼・電話聴取法によって行われたもので、有効回答数は各国とも1000件強。それぞれ男女別・年齢階層別・地域・都市規模などを元にウェイトバックが行われている。過去の調査もほぼ同様の様式で実施されている。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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