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2021年5月度外食産業売上は前年同月比でプラス19.8%

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 特に居酒屋は苦境が続く。(写真:ロイター/アフロ)

日本フードサービス協会は2021年6月25日付で、同協会の会員会社で構成される外食産業の市場動向調査における最新値となる、2021年5月度の調査結果を公開した。それによると同月の総合売上は前年同月比でプラス19.8%を示した。新型コロナウイルス流行による緊急事態宣言やまん延防止措置の発出継続で客足は大きく鈍ったが、比較対象となる前年同月の2020年5月は1回目の緊急事態宣言下で大きな落ち込み(総合売上は前年同月比マイナス32.2%)を示しており、それとの比較となるため大きなプラスとなった。なお発表では但し書きとして「新型コロナウイルス流行前となる2年前同月との比較ではマイナス19.8%」とあり、今回のプラスは反動の領域内の動きでしかないとしている

全業態すべてを合わせた2021年5月度売上状況は、前年同月比で119.8%となり、19.8%の増加を記録した。これは前回月から継続する形で2か月連続の増加。前年同月と比べると日取り(休日や土曜日の日数)の上では休日・土曜日いずれも変わらず、売上には影響なし。気象環境では雨天日は東京は多く大阪も多く、平均気温は東京は高め、大阪は低めのため、客足への影響判断はマイナスと解釈できる。

また、新型コロナウイルスの流行による外出自粛や多人数が集まる場所への忌避感は強い。まん延防止措置や緊急事態宣言が一部地域に対して発出継続中で、該当地域では営業時間の短縮要請や酒類の販売提供に関する要請が行われ、客数の大幅減が生じる状況となっている。また就業者の在宅勤務も継続され、就業者相手の業態では苦戦が続いている。

業態別に詳しく動向を見ると、ファストフードは全体では前回月から継続する形で3か月連続のプラス(プラス13.3%)。ハンバーガーチェーン店がメインの洋風だが、そのメイン企業となるマクドナルドは、2014年夏からの相次ぐトラブルをきっかけとした多様な問題点の露呈による低迷から復活の動きを見せている。今回月では「変わらずテイクアウト、デリバリーなどにより好調が続き」とあり、テイクアウトやデリバリーの選択肢を持つことへの奏功の影響が大きく、また他業態とは異なり緊急事態宣言すらもプラスに作用し、売上はプラス10.3%とプラスに。なお2年前同月比、つまり新型コロナウイルス流行前となる2019年5月との比較では、全業態で唯一のプラス(プラス24.9%)を示している。

なおマクドナルド単体の2021年5月における営業成績はプラス5.7%(売上、既存店、前年同月比)とプラスを示している。客数がプラス22.5%と大幅に伸びており、持ち帰り需要を上手くこなしたようだ(マクドナルドの月次報告書にも「安全・安心を優先し、お客様の利便性を考えた店舗運営や、ドライブスルー、デリバリー、デジタル施策、バリュープログラムの継続やお客様との繋がりを強化するマーケティング活動といったこれまで実施してきた取り組みにより、ベースセールスが着実に上昇しています」との表記がある)。

牛丼チェーン店を含む和風は、客数はプラス7.4%、客単価はプラス4.3%となり、売上はプラス12.1%。麺類は客数プラス46.3%、客単価はマイナス3.1%となり、売上はプラス41.9%。和風は「一部でデザート類の販促などもあり客単価が上昇」とある。持ち帰り米飯/回転寿司は売上がプラス10.6%。「テイクアウト需要に支えられ」とあり、洋風同様に巣ごもり需要の波に乗ったようだ。

パブ/居酒屋部門では、パブ・ビアホールの売上はプラス97.9%、居酒屋の売上はマイナス4.1%。部門全体では売上はプラス2.7%を示した。「酒類提供の制限や営業時間短縮の要請などで飲酒業態は壊滅的な状況が続いており、多くの店舗が休業を余儀なくされている」と説明されており、新型コロナウイルスの流行と業界の体質との相性の悪さのダメージが継続中で、今回のプラスも反動でしかないとしている。さらに居酒屋に限れば前年同月(マイナス88.5%)からの大幅な反動があってもマイナスを示しており、状況は一層悪化している実情がうかがえる。

↑ 外食産業前年同月比・全店データ(2021年5月度分)(日本フードサービス協会報告書より抜粋)
↑ 外食産業前年同月比・全店データ(2021年5月度分)(日本フードサービス協会報告書より抜粋)

↑ 外食産業売上前年同月比(業態別)(2021年5月度)
↑ 外食産業売上前年同月比(業態別)(2021年5月度)

↑ 外食産業売上2年前同月比(業態別)(2021年5月)
↑ 外食産業売上2年前同月比(業態別)(2021年5月)

新型コロナウイルスの影響だが、そもそも論として店舗が自主休業していれば客が来るはずもなく、営業しても(場合によっては自治体からの要請に従う形で)時短や販売品の制限を行うところも多く、イートインは客同士の距離を取るために収容効率が悪化、さらに来店客数そのものが三密忌避気運で少ないことから、客数は激減する形となった。企業も従業員のリスク回避で集団での外食をひかえたり、リモートワークの浸透で出社する人が少ないため催しで外食を使う機会が無くなり、これも大きなマイナスの影響を与えている。疫病の影響である以上、仕方がないとはいえ、衝撃的な値には違いない。特にその店舗スタイルや就業者向けのビジネスの色合いが強いパブや居酒屋は大きな痛手が継続している。さらに営業時間の短縮要請や夜の酒類提供時間の短縮・自粛要請がダメージをより大きなものとしている。

次回月の2021年6月分では、新型コロナウイルスの流行状況は5月と比べればやや落ち着く方向にあり、ワクチンの接種も進んでいるものの、まん延防止など重点措置や緊急事態宣言は一部地域で発出継続中で、外食産業には厳しい環境が続いている。他方今回同様、前年同月の2020年6月ではすでに新型コロナウイルス流行による大きな影響(総合売上は前年同月比マイナス21.9%)が生じており、それとの比較となるため、大きなプラスを示すかもしれない。

上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。合わせてご視聴いただければ幸いである。

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(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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