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全紙前期比マイナス…新聞の販売部数などをさぐる(2019年前期版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 「朝刊持ってきたよ」ワンちゃんが持ってきたのはどこの社の新聞?(写真:アフロ)

前期比では全紙マイナス

日々の情報を紙媒体で家庭に知らせる報道メディア、新聞。その新聞の中でも全国的に販売網を持つ全国紙における、2019年前(半年)期時点の販売部数の実情を、日本ABC協会発行による「新聞発行社レポート 半期」の掲載値から確認する。

まずは主要全国紙、具体的には読売新聞・朝日新聞・毎日新聞・日本経済新聞(日経新聞)・産経新聞の計5紙における「販売部数」。今値は該当半年間における平均値であること、朝刊「販売」部数のみで夕刊は含まれないことに留意する必要がある。また電子版は含まれておらず、紙媒体としての新聞販売部数に限定されている。

↑ 2019年前期における主要全国紙の朝刊販売部数(万部)
↑ 2019年前期における主要全国紙の朝刊販売部数(万部)

部数トップの読売新聞は数年前まで「販売部数1000万部超」をセールスコピーとして用いていた。他紙と比べて「ケタが違う」部数はそれだけで大きなセールスポイントとして呈することができた。しかし2011年前期でその大台を割り込み、以後販売部数の減少が続いている。

読売新聞に続く部数を示しているのは朝日新聞、そこから部数を半分以下に減らして毎日新聞、日経新聞、そして産経新聞が続いている。各新聞の部数の差異から考察する限りでは、毎日新聞と日経新聞との間で順位変動が起きる可能性が一番高い。ここ数期の間、毎日新聞の部数減少度合いが著しいため、あと数期で両紙の間で順位変動が起きるかもしれない。

前期からの変動実情

続いて部数動向などを基に独自算出した値を用い、複数の比較グラフを生成し、状況のより詳しい精査を行うことにする。まずは1つ前の半期、今回ならば2018年後期との差異を計算したもの。単純計算で、半年の間の変動部数を確認できる。

↑ 2019年前期における主要全国紙の朝刊販売部数変移(2018年後期との比較、変化率)
↑ 2019年前期における主要全国紙の朝刊販売部数変移(2018年後期との比較、変化率)
↑ 2019年前期における主要全国紙の朝刊販売部数変移(2018年後期との比較、万部)
↑ 2019年前期における主要全国紙の朝刊販売部数変移(2018年後期との比較、万部)

最大の下げ幅を示したのは毎日新聞で8%超え。半年でおよそ1/12もの部数が失われたと表現すれば、その衝撃がどれほどのものかは容易に理解できよう。続いて大きな下げ幅を示したのは産経新聞の4.59%、そして読売新聞の3.26%、朝日新聞の3.25%の下落。日経新聞は2.13%の下落。

部数そのものの増減では、読売新聞のマイナス26.75万部がもっとも減少部数が大きく、毎日新聞のマイナス21.51万部が続いている。それぞれ単純計算で、およそ毎月4.6万部・3.6万部の減少が生じていることになる。

世帯普及率も増加紙は皆無

最後に世帯普及率の算出。これは全世帯に対して各新聞(朝刊)が届いている世帯の比率を表したもの。例えば読売新聞は13.57%とあるので、大体7世帯に1世帯は読売新聞を購読していることになる。なお今件値は日本国内における販売数と住民基本台帳に基づく該当年の世帯数から算出している。

↑ 主要全国紙の世帯普及率(2018年後期・2019年前期)
↑ 主要全国紙の世帯普及率(2018年後期・2019年前期)

朝刊は世帯単位で定期購読される場合が多く、また世帯構成員全体が目を通す可能性が高い。未成年者が新聞の閲読機会を得るとすれば、多分に世帯購入の新聞によるものだろう。今件は単純な朝刊の販売部数よりも新聞市場・業界のすう勢を推し量る指標として有意義な値である。これを見ても読売新聞の絶対的なポジションをはじめとした、各主要紙の現状がつかみ取れる。

注意事項を挙げるとすれば、世帯普及率の動向は、漸増する世帯数にも影響を受ける点。人口は漸減しているものの、一人暮らし世帯が(若年層と高齢層で)増えるため、世帯数は増える。そして一人暮らしの世帯では新聞の購読率は落ちるため(読み手が一人しかおらずコストパフォーマンスが低くなる、世帯収入が二人以上世帯より低いので可処分所得が下がり、新聞購入の余裕が無くなる)、世帯普及率はマイナスのプレッシャーを受ける形となる。

電子版の存在

各紙の販売部数の減少の一つの要因に、購読者の一部が紙媒体版から電子版に切り替えたため、紙媒体の新聞販売部数としてはカウントされなくなったからでは、との説が挙げられる。各紙とも何らかの形で電子版を展開しているが、定期的に展開状況が把握できる値を公開しているのは日経新聞のみ。「現時点で」容易に取得可能な最新のデータとしては日本経済新聞の媒体資料が確認できるが、それらによると2019年7月時点で

・朝刊購読数…298万8124

・朝刊(紙媒体)販売部数(2019年6月)…230万7849部

・電子版有料会員数…68万0275

となる。最初の数字で販売部数ではなく購読数の表現を用いているのは、今件の「新聞発行社レポート 半期」による朝刊の部数(紙媒体発行部数)に電子版有料会員数を合算したため。紙媒体の朝刊のみを朝刊の販売部数とするなら230万7849だが、有料電子版も新聞の販売とみなせば298万8124となる。ただし双方媒体を同時取得しているケース(日経Wプラン、紙と電子版の双方を読むパターン)が多分にあるため、媒体を問わずに日経新聞を取得している契約者・世帯数はもう少し少ないものとなる。

電子版でも有料ならば新聞の販売には違いないとの解釈ならば、日経新聞の朝刊販売部数は298.8万部となる。この値は毎日新聞の紙媒体版(241.1万部)を抜いている。毎日新聞の有料電子版が多くの購読者を得ていれば日経新聞に抜かれることは無いが、その真偽を確かめることはかなわない。公開できるだけの実績を挙げていれば、電子版の有料会員数、つまり紙媒体の購読者の代替的な存在数について、定期的に公知ができるはずであり、それが行われていない現状からは色々と察せざるを得ない(毎日新聞でも紙媒体版を購読するだけで電子媒体版の一部機能を利用できる「宅配購読者 無料プラン」もあるのだが)。

これは毎日新聞に限った話では無く、むしろ日経新聞の堅調さが稀有な例なのだろう。ちなみに日経新聞の有料・無料を問わずの電子版会員数は388万人(2018年1月時点)とのこと。

インターネットの普及、スマートフォンやタブレット型端末の浸透に伴い、情報の取得スタイルは大幅に変化し、メディアの価値観は変動を続けている。その荒波を乗り越え、しかも新聞としての大義を忘れること無く品質を維持し、新時代の担い手として支持を得続けることができるか否か。努力と検証、そして決断が求められている。その選択の正しさは、部数にも反映されるに違いない。

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(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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