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アメリカ合衆国側では日米安保をどこまで評価しているのだろうか(2018年12月発表版)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 日米安保は米国側からはどのように思われているのか(画像:外務省)

「日米安保を維持すべき」賛成派は有識者で9割近く

アメリカ合衆国の人達は日米安保(日米安全保障条約)についてどのような考えを抱いているのか。その実情を外務省が2018年12月に発表した「米国における対日世論調査」(※)の結果から確認する。

現在において日本の安全(国防、軍事的な国の保安を中心とした「安全」)は、自衛隊、そして日米安保に基づいた安全保障体制の二本柱で守られている。このうち日米安保について、アメリカ合衆国側がこのまま維持すべきか、そうすべきで無いのかを聞いた結果が次のグラフ。2008年度に一般人の意見でややへこみが確認できるが(これは2008年度に行われた大統領選挙において、オバマ前大統領を推す民主党が日本からやや距離を置く政策を取ったのが遠因と考えられる)、一般人はおおよそ漸増、有識者は8割後半から9割の高水準で「維持すべき」と肯定的意見を持っていたのが分かる。

↑ 日米安全保障条約の維持について(「維持すべき」「そうは思わない」「分からない」のうち「維持すべき」の回答者)
↑ 日米安全保障条約の維持について(「維持すべき」「そうは思わない」「分からない」のうち「維持すべき」の回答者)

2013年度分では一般人の「維持すべき」が前年度比で22%ポイント、有識者が前年度比で16%ポイントと大幅な下落を示しており、データが残っている1996年度以降においては一般人・有識者ともに最低の値となってしまった。また、2013年度分のデータを精査すると、その前年2012年度から「維持すべき」で減った分のほとんどが、「分からない」に流れていることが確認できる(グラフ化は略)。

この下落については2008年度の時のような特段の理由も想定できない。イレギュラーがあったと見た方が道理は通る。

2014年度以降は一般人・有識者ともに、株式市場における半戻し的な状況。戻した部分の多くが「分からない」の減少で補われている。同時に「そうは思わない」、つまり日米安保維持に反対する意見は調査開始以来一貫して1ケタ台のままなことに留意しておく必要はあろう。

直近年度の2017年度では有識者は87%と高い値を計上しているが、一般人は68%と前年度比で大幅下落、2013年度に示した67%に次ぐ低い値を示す形となった。データの詳細を見ると(グラフ化は略)「分からない」の回答が大幅な増加を示しているが、一般人の間に日米安保にかかわる不信感や疑念が生じているとの話は聞いたことが無く、不可思議な動きではある。

ただし今設問に限らず2017年度の回答では、複数の設問で一般人の回答率において大きな減少が生じている。対日本だけならばアメリカ合衆国の一般人における日本離れが起きた結果かもしれないが、他の諸外国への認識でも同様の傾向が見られることから、設問の様式に何か変化が生じた可能性の方が高い。有識者では同じようなイレギュラー的な現象が生じていないことも併せ、2017年度の一般人の回答動向に関しては、慎重に判断する必要があろう。

日米安保はアジアやアメリカ合衆国自身に貢献しているか

日米安保は、日本と極東の平和と安定へ寄与貢献しているものなのか否か。軍事的、戦略的、政略的な現実問題の上での判定は別として、「貢献している」と認識・判断をしている人の割合は次の通り。

↑ 日米安全保障条約は日本と極東の平和と安定へ貢献しているか(「非常に貢献している」「ある程度貢献している」「わずかしか貢献していない」「まったく貢献していない」「意見無し」のうち「非常に貢献している」「ある程度貢献している」の回答者合計)
↑ 日米安全保障条約は日本と極東の平和と安定へ貢献しているか(「非常に貢献している」「ある程度貢献している」「わずかしか貢献していない」「まったく貢献していない」「意見無し」のうち「非常に貢献している」「ある程度貢献している」の回答者合計)

有識者は高い値で安定、一般人は2008年度の大統領選時に多少の凹みを見せるも全般的には漸増傾向を示している。ここ10年ぐらいは80%内外でもみ合いの流れというところか。一般人の方が選挙運動で心境を左右されやすいとの点でも注目するべき内容だが、ともあれ直近データでは一般人80%・有識者89%が「日米安保は日本と極東の平和と安定へ貢献している」と評価をしていることが確認できる。一般人の2008年度における急落は、上記の通り大統領選挙に絡んだ動きの可能性が高い。

最後に、日米安保が日本やアジア諸国では無く「アメリカ合衆国自身の」安全保障にとって重要か否かの問題。これは日本サイドでも気になる項目だが、結果としては直近で9割台から「重要視している」との回答が得られた。

↑ 日米安全保障条約はアメリカ合衆国自身の安全保障にとって重要か(「極めて重要」「ある程度重要」「あまり重要で無い」「まったく重要で無い」「分からない」のうち「極めて重要」「ある程度重要」の回答者合計)
↑ 日米安全保障条約はアメリカ合衆国自身の安全保障にとって重要か(「極めて重要」「ある程度重要」「あまり重要で無い」「まったく重要で無い」「分からない」のうち「極めて重要」「ある程度重要」の回答者合計)

興味深いのは、この点、つまり日米安保におけるアメリカ合衆国への直接的な利益との観点では、一般人も有識者もさほど変わりないレベルで高評価を与えている点。これをどのように解釈するかは人それぞれだが、少なくとも日米安保はお互いにとって重要度が高いとの認識が、一般レベルでは浸透していると考えて問題は無さそうだ。

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※米国における対日世論調査

直近分は外務省がニールセン社に委託し、アメリカ合衆国内において電話により2018年3月に実施されたもので、有効回答数は一般人1057人(18歳以上)・有識者200人(政官財、学術、マスコミ、宗教、労働関係などで指導的立場にある人物)。過去の調査もほぼ同条件で実施されている。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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