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暖冬懸念あるも年末年始へのイベント期待高まる…2018年11月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 景気の実情はどうだろうか。街中の動向でも推し量ることはできるが(筆者撮影)。

・現状判断DI(※)は前回月比プラス1.5ポイントの51.0。

・先行き判断DIは前回月比でプラス1.6ポイントの52.2。

・年末年始の各種イベントをひかえ、消費の盛り上がりに期待する声が見受けられる。

現状は上昇、先行きは下落

内閣府は2018年12月10日付で2018年11月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で上昇、先行き判断DIも上昇した。結果報告書によると基調判断は「緩やかに回復している。先行きについては、コストの上昇、通商問題の動向などに対する懸念もある一方、年末年始のイベントなどへの期待がみられる」と示された。

2018年11月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比プラス1.5ポイントの51.0。

 →原数値では「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が増加、「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは49.0。

 →詳細項目は「非製造業」のみが下落。「住宅関連」のプラス3.8ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「小売関連」以外すべて。

・先行き判断DIは前回月比でプラス1.6ポイントの52.2。

 →原数値では「ややよくなる」が増加、「やや悪くなる」が減少、「よくなる」「変わらない」「悪くなる」が同率。原数値DIは50.4。

 →詳細項目では全項目が上昇。「飲食関連」のプラス3.2ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている項目は全項目。

ここ数年の間に起きた大きな変動要因としては、2016年6月に発生した「イギリスショック」(イギリスのEU離脱に関する国民投票の結果を受けて経済マインドが大きく揺れ動いた)が記憶に新しいが、その影響も和らぎ、持ち直しを見せている。とはいえ原油価格動向をはじめとする海外経済動向、金融市場に対する不安定感への懸念はある。特に昨今では米中の貿易摩擦の激化が懸念材料となっている。また消費税率の引き上げに関連する形での消費減速も、消費動向に影響を与えてきそう(直前の駆け込み需要への期待はあるが、その期待と結果が大きいほど、消費税率引き上げ後の減退度合いもまた大きくなる)。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

推移グラフを見れば分かる通り、直近の大きな下げ要因となったイギリスショックの急落からはおおよそ回復している。昨今では現状判断DIにおいてやや低迷、ぬるま湯的な軟調さと表現できる動きにあるのが気になるところ。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2018年11月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2018年11月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月の現状判断DIは合計で前回月から1.5ポイントのプラス、詳細項目では「非製造業」のみが下落。もっとも大きな上げ幅は「住宅関連」による3.8ポイント。「北海道胆振東部地震」「台風21号」によって大きく値を落とした2018年9月の反動がまだ続いていると解釈できる。

景気の先行き判断DIは詳細項目では全項目が上昇。上げ幅は「飲食関連」の3.2ポイントが最大。

↑ 景気の先行き判断DI(~2018年11月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2018年11月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月で基準値を超えている詳細項目はすべての項目。

年末商戦と来年の10連休に向けた視線が熱い

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして各地域ごとに細分化した上で公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に係わる事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・11月は晴天に恵まれ、単価も高く推移している(コンビニ)。

・平成30年7月豪雨災害の影響を受けたが、13府県ふっこう周遊割で、客が動き出した(旅行代理店)。

・観光客が戻ってきており、外国人観光客の姿もみられるようになってきた。11月は3連休があったこともプラスとなり、来客数は前年を27%上回った。また、ランチタイムの回転率を上げるために若いスタッフが取り組んでいる様々な取組の結果も実績として表れてきた(高級レストラン)。

・暖冬のせいなのか、11月は暖房機などの動きが鈍い。販売額も前年を下回った(家電量販店)。

■先行き

・これまで衣料を中心に買い控えが起こっていたこともあり、年末は前年を上回る平均支給額のボーナスが出るということで、多少は購買意欲が出てくると期待している(百貨店)。

・ゴールデンウィークの海外旅行の問合せが増えてきている。長期休暇になるので、ヨーロッパ、アメリカなど単価が高く利益率の高いものが動きそうな気配である(旅行代理店)。

・予約状況も良く年末に向けて期待がもてる。また、客からも景気低迷の話題はない(一般レストラン)。

・暖冬の予報が出ており、季節商材の動きが悪くなると業績に影響する(スーパー)。

2018年8月には「平成30年7月豪雨」、そして9月では「台風21号」「北海道胆振東部地震」と、自然災害による影響が立て続き、景況感を大きく引っ張られる形となったが、それらの被害を受けた地域の景況感の回復ぶりを感じさせるコメントが確認できる。また、来年のゴールデンウィークは10連休になることから、それに向けた動きが早くも見受けられる。一方でエルニーニョ現象が発生し今冬は暖冬になるとの予報が出ており、実際11月は季節外れの温かい日が続いたこともあり、冬物の動きが鈍いとの話も複数確認できる。

企業関連の景況感では人材不足への懸念が続く一方で、その対応で活況となる業界の話もある。

■現状

・新酒の販売が順調に推移しているのに加え、東南アジア、ヨーロッパへの輸出が、徐々に増加し始めている(食料品製造業)。

・建設資材の価格高騰や不足が続いているほか、職種によっては人手不足も慢性化している(建設業)。

■先行き

・国内の人手不足の対応に対する投資意欲は順調で、当面は今の状況は続くと思われる(電気機械器具製造業)。

・世界情勢不安による燃油価格の高止まりもあるが、既存客を含めた物量が相対的に拡大している(輸送業)。

「人手不足の対応に対する投資意欲(電気機械器具製造業)」で活況なのはタイムレコーダー業界のことだろうか。意外なところで需要が生まれているようだ。他方、原材料価格の上昇や人件費の高騰が生じており、影響が生じているとのコメントも確認できる。全体的なコストアップが企業の思惑に影響しているようである(まさにインフレ化に向けた動きに他ならないのだが)。

雇用関連では人手不足の現状を推し量れる意見が見受けられる。

■現状

・派遣依頼数が堅調に伸びている。さらに、依頼の件数だけではなく、1件あたりの依頼人数も増えている(人材派遣会社)。

■先行き

・正式に大阪万博の開催が決定したことで、現在でもかなり多いインバウンド需要が更に増える見込みとなるため、準備のための採用募集なども増える(新聞社[求人広告])。

企業も可能ならば流動性の高い人材を欲するのは道理であり、不足する人材を派遣に求めるとの考え方は理解できる。もっとも求職する側は「正規社員としての求人が多々ある現状なら、派遣社員の選択をする必要は無い」と考えるのが実情で、人材派遣会社のやりくりも一層大変なものとなるだろう。

他方、大阪万博という大きなイベントで、さらに雇用の増加が期待できるとの言及があるのには注目したいところ。市場へ投入する資金をケチらなければ、雇用市場はさらに活性化するに違いない。

人手不足はよく聞くところではあるが、この類の話には得てして「現在の雇用市場に合致した対価・条件を提示しているのか」との疑問が付きまとう。今件のコメントでも全国分を確認すると、「人手不足」「人材不足」の文言を多数見受けることができる(現状計39件、先行き計59件、合わせて98件)。ただし全国で景気の先行きに限定して雇用関連の印象を確認すると、良好14件、やや良好38件、不変90件、やや悪い19件 悪い12件となっており、イメージされているほど状況が悪いものでも無いことが統計からはうかがえる。

昨今問題視され今調査でも多々意見が見受けられ、そして報道では否定的に取り上げられることが多い人手不足だが、雇用市場の需給バランスの正常化、そして適切な労働対価が労働力とやり取りされる状態となるための移行プロセスに過ぎないと考えれば、むしろ肯定的に見るべき問題。

現在の社会環境がそのコスト水準を求めており、それに応じたコストの算出ができないのであれば、ビジネスモデルそのものが現状に対応しきれていないか、そろばん勘定の上でどこかゆがみが生じているか、判断を間違っていたまでの話。昔と今とでは環境が異なることを認識すべきには違いない。

なお消費税増税に関しては先行きのコメントにおいて「消費税」で検索をすると156件もの言及が確認できる。駆け込み需要への期待の声もあるが、おおよそネガティブな内容であり、景況感の悪化が危惧される。一部で主張されている「消費税の増税で財政再建が進むので社会保障への安心感が強まり、消費が活性化される」などとの意見は皆無であり、これが現状なのだろう。

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※DI

※景気ウォッチャー調査

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロで無いプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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