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米中貿易摩擦への懸念強まる…2018年10月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 景気の実情はどうだろうか。街中の動向でも推し量ることはできるが(筆者撮影)。

・現状判断DI(※)は前回月比プラス0.9ポイントの49.5。

・先行き判断DIは前回月比でマイナス0.7ポイントの50.6。

・米中貿易摩擦の激化に伴う直接、間接的な影響が生じている。

現状は上昇、先行きは下落

内閣府は2018年11月8日付で2018年10月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で上昇、先行き判断DIは下落した。結果報告書によると基調判断は「緩やかな回復基調が続いている。先行きについては、コストの上昇、通商問題の動向などに対する懸念もある一方、年末商戦などへの期待がみられる」と示された。

2018年10月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比プラス0.9ポイントの49.5。

 →原数値では「ややよくなっている」「やや悪くなっている」が増加、「よくなっている」「変わらない」「悪くなっている」が減少。原数値DIは47.7。

 →詳細項目は「非製造業」「雇用関連」のみが下落。「住宅関連」のプラス5.1ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「住宅関連」「非製造業」「雇用関連」。

・先行き判断DIは前回月比でマイナス0.7ポイントの50.6。

 →原数値では「よくなる」「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「ややよくなる」「変わらない」が減少。原数値DIは49.9。

 →詳細項目では「飲食関連」「サービス関連」が上昇。「飲食関連」のプラス1.7ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている項目は「製造業」「非製造業」以外すべて。

ここ数年の間に起きた大きな変動要因としては、2016年6月に発生した「イギリスショック」(イギリスのEU離脱に関する国民投票の結果を受けて経済マインドが大きく揺れ動いた)が記憶に新しいが、その影響も和らぎ、持ち直しを見せている。とはいえ原油価格動向をはじめとする海外経済動向、金融市場に対する不安定感への懸念はある。特に昨今では米中の貿易摩擦の激化が懸念材料となっている。また消費税率の引き上げに関連する形での消費減速への懸念も、消費動向に影響を与えてきそう。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

推移グラフを見れば分かる通り、直近の大きな下げ要因となったイギリスショックの急落からはおおよそ回復している。昨今では現状判断DIにおいてやや低迷、ぬるま湯的な軟調さと表現できる動きにあるのが気になるところ。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2018年10月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2018年10月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月の現状判断DIは総計で前回月から0.9ポイントのプラス、詳細項目では「非製造業」「雇用関連」のみが下落。もっとも大きな下げ幅は「非製造業」が計上した2.0ポイント、もっとも大きな上げ幅は「住宅関連」による5.1ポイント。「北海道胆振東部地震」「台風21号」によって大きく値を落とした前回月の反動によるところが大きい。

景気の先行き判断DIは詳細項目では「小売関連」「住宅関連」「製造業」「非製造業」「雇用関連」が下げ。下げ幅は「非製造業」の3.7ポイントが最大。

↑ 景気の先行き判断DI(~2018年10月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2018年10月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月で基準値を超えている詳細項目は「製造業」「非製造業」以外すべて。

米中貿易摩擦の懸念が各所で

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして各地域ごとに細分化した上で公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に係わる事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・マラソンなどイベント、行事が多いためか、外食する客が増え、特に県外からの客が多い。忘年会予約などの状況より、冬まではこの傾向が続きそうである(一般レストラン)。

・7-9月は台風や平成30年7月豪雨などの自然災害に加えて、関西国際空港の閉鎖による影響で、来客数が大きく減少したが、10月に入ってようやく元に戻ってきた感がある(観光型ホテル)。

・10月に入り急激に気温が低下し、コートやジャケットなどのアウターの動きが良く、旅行のために婦人用、紳士用、子供用をトータルで購入する客もいる。食品物産展も好調で景気が上向いている(百貨店)。

・消費者はたばこ増税に備えて前月に買いだめをしており、今月の単価が下がっている。また、買いだめをしてなくてもたばこ以外の購入を控えている状況となっている(コンビニ)。

■先行き

・12月から4K、8K放送が開始するため、テレビに期待している。また、エコポイントや地上デジタル放送で買換えた客の、再度買換えの時期が近づいていることに期待したい(家電量販店)。

・例年、11-1月は観光閑散期になるが、1月以降は北海道ふっこう割による需要喚起を足掛かりに、流氷観光や年々参加者が増加している冬季体験型観光における個人需要の取り込みが期待できる(旅行代理店)。

・株価が急落し、貿易戦争の火が消えず情勢が読めなくなっている(通信会社)。

・北国の冬場には必需品であるガソリンや灯油の価格が高騰しており、負担が生活に直結してしまう。また、消費税再増税決定のニュースで、節約傾向が高まると予想する(スーパー)。

2018年8月には「平成30年7月豪雨」、そして前回月の9月では「台風21号」「北海道胆振東部地震」と、自然災害が立て続き、景況感を大きく引っ張られる形となった。今回月はそれらの影響の反動も生じており、コメントからもその実情がうかがえる。また10月には主要たばこの価格引き上げがあり、前回月の買いだめ特需の反動も含め、影響がコンビニなどで生じているようだ。

また、直接的にはさほど関係はしていないものの、米中貿易摩擦への懸念を背景に株価が下落し、これが家計動向にも悪い影響を及ぼすのではとの懸念もある。

企業関連の景況感では人材不足への懸念が続く一方で、米中貿易摩擦による悪影響の声が見受けられる。

■現状

・派遣社員の採用に苦労するなど、人手不足の状況が続いている。働き方改革に対応したサービスの問合せが多く、売上も伸びている(電気機械器具製造業)。

・世界経済の先行き不透明感が漂うなか、輸出入貨物の停滞や、原油価格高騰による燃油費の上昇が経営を圧迫している(輸送業)。

■先行き

・原材料価格の値上げとともに、製品価格に転嫁しなければならず、受注出荷が下がると予想している(化学工業)。

・見積案件も少なく、大型物件の受注も難しい。先行きが見えず、景気が良くなる気配がない(建設業)。

「働き方改革に対応するサービス」とはタイムレコーダーのことだろうか。意外なところで需要が生まれているようだ。他方、原材料価格の上昇や人件費の高騰が生じており、その上、米中貿易摩擦による影響の懸念だけでなく直接・間接の実影響が生じているとのコメントも確認できる。全体的なコストアップが企業の思惑に影響しているようである(まさにインフレ化に向けた動きに他ならないのだが)。

雇用関連では人手不足の現状を推し量れる意見が見受けられる。

■現状

・派遣社員への応募者が減少している。高時給の職種のみ好調である(人材派遣会社)。

■先行き

・求人数は年末に向けて増える傾向にあるが、人材不足が続いているため、なかなかマッチングが難しい(民間職業紹介機関)。

派遣社員への応募が減っているのは短時間就業などを求める本人事情の理由で無い限り、「正規社員としての求人が多々ある現状なら、派遣社員の選択をする必要は無い」と考える人が増えている結果によるものだろう。その判断をも覆せるような好条件でないと、応募する人も出てこないものと考えられる。

他方、マッチングの難しさもまた、雇用市場において求職者側が減少していることを意味する。マッチングが上手くいかない当事者は別として、これもまた求職者側にとってはプラスと判断できる材料には違いない。

人手不足はよく聞くところではあるが、この類の話には得てして「現在の雇用市場に合致した対価・条件を提示しているのか」との疑問が付きまとう。今件のコメントでも全国分を確認すると、「人手不足」「人材不足」の文言を多数見受けることができる(現状計48件、先行き計56件、合わせて104件)。ただし全国で景気の先行きに限定して雇用関連の印象を確認すると、良好13件、やや良好31件、不変96件、やや悪い23件 悪い12件となっており、イメージされているほど状況が悪いものでも無いことが統計からはうかがえる。

景気の先行きで「働き方改革」に関してコメントを確認すると、「高騰が続く燃料価格や、働き方改革などの法令順守に伴う人件費増による経費増に対し、年末特需が過去のものとなり、売上増加が見込めないため、状況は厳しくなる」「どの業種も人手不足と、働き方改革の対応に追われている。賃金の上昇は異常である」のように単なるコストアップの要因としか考えていない企業もあれば、「働き方改革などで、待遇の悪い環境で勤務している人の転職希望が増えそうである」のように実情を見据えてチャンスと見る動きもある。状況の改善のために必要不可欠なコストを求められた現状に対し、どのような認識をするかによって、意見が大きく分かれているようだ。

昨今問題視され今調査でも多々意見が見受けられ、そして報道では否定的に取り上げられることが多い人手不足だが、雇用市場の需給バランスの正常化、そして適切な労働対価が労働力とやり取りされる状態となるための移行プロセスに過ぎないと考えれば、むしろ肯定的に見るべき問題。

現在の社会環境がそのコスト水準を求めており、それに応じたコストの算出ができないのであれば、ビジネスモデルそのものが現状に対応しきれていないか、そろばん勘定の上でどこかゆがみが生じているか、判断を間違っていたまでの話。昔と今とでは環境が異なることを認識すべきには違いない。

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※DI

※景気ウォッチャー調査

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロで無いプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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