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部数増減に一喜一憂…ビジネス・金融・マネー系雑誌部数動向をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ スピード感の重要性がより高まったビジネス界。その専門誌は…?!(写真:アフロ)

・2018年1月~3月期でビジネス・金融・マネー系雑誌の印刷証明付き部数(※)トップは「PRESIDENT」の32.0万部。

・部数では「週刊ダイヤモンド」が第2位、そして「週刊東洋経済」「THE21」が続く。

・部数の前四半期比では「週刊ダイヤモンド」「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」がプラス。前年同期比では全誌がマイナス。

「プレジデント」一強状態

インターネットやスマートフォンの普及で、時間との戦いが熱いビジネス、金融業界。その分野の専門雑誌の部数動向の実情を、日本雑誌協会が四半期ベースで発表している印刷証明付き部数から確認する。

最初に精査するのは、直近分にあたる2018年の1月~3月期とその前(四半)期に該当する、2017年10月~12月期における部数。

↑ 印刷証明付き部数(ビジネス・金融・マネー誌、万部)(2017年10月~12月期と2018年1月~3月期)
↑ 印刷証明付き部数(ビジネス・金融・マネー誌、万部)(2017年10月~12月期と2018年1月~3月期)

「クーリエ・ジャポン」の休刊後、今カテゴリーの雑誌は定期刊行誌では全部で6誌だったが、3四半期で「BIG tomorrow」が休刊に伴いデータの非公開化が行われ、5誌に減ってしまった。また不定期刊化し、出入りが激しい「¥en SPA!」は今期でも顔を見せていない。

「¥en SPA!」は2017年12月8日付で2018年冬号が発売されたが、現時点ではこの号が最新号となっている。これまでのパターンだと四半期ごとに発売と部数の公開・非公開を繰り返していたが、前期では発売されたにもかかわらず部数は非公開だった。方針を変えて全面非公開に転じたのかもしれない。あるいは発売間隔が伸びた可能性はある。

対象誌の中では「PRESIDENT(プレジデント)」が前期から継続する形でトップの部数。部数上で第2位となる「週刊ダイヤモンド」とは2倍強もの差をつけている。その「PRESIDENT」の部数だが、2013年後半から上昇傾向が始まり、2015年第1四半期をピークとしたあとは少し値を落として踊り場状態となっていた。その後、2016年に入ってから大きく下落し、2013年以降の上昇分をほとんど吐き出す形に。2013年までの沈滞期と比べれば5万分ほどの上乗せをした形で、安定期に突入した雰囲気だった。そして2016年の10~12月期に大きな伸びを見せ、その後はほぼ横ばい。直近でも前期比でいくぶん値を伸ばしている。部数は安定的な状況になりつつある。

↑ 印刷証明付き部数(PRESIDENT、部)
↑ 印刷証明付き部数(PRESIDENT、部)

同誌は昨今の動向を見る限りではヒット企画の号で大きく背伸びをし、その余韻を楽しみながら次のヒットの創生を目指すスタイルのように見える。よいパターンを見つけたのだろう。次のヒット号の登場が楽しみでならない。

2誌がプラス…前四半期比較

次に示すのは各誌における、四半期間の印刷証明部数の変移。前期の値からどれほどの変化をしたかを算出している。季節による需要動向の変化を無視した値のため、各雑誌の実情とのぶれがあるものの、手身近に各雑誌の状態を知るのには適している。

↑ 印刷証明付き部数変化率(ビジネス・金融・マネー誌、前期比)(2018年1月~3月)
↑ 印刷証明付き部数変化率(ビジネス・金融・マネー誌、前期比)(2018年1月~3月)

今期ではプラス領域は2誌、マイナス領域は3誌。誤差領域(5%内の振れ幅)を超えた下げ幅を示した「週刊東洋経済」は、2013年以降は部数がほぼ横ばい、2016年頭にやや下げたが、それ以降も比較的安定した部数動向の中にある。今期ではたまたま前期が多少伸長したことの反動以上のものでは無いと解釈して問題は無い。

↑ 印刷証明付き部数(週刊東洋経済、部)
↑ 印刷証明付き部数(週刊東洋経済、部)

週刊で畳みかけるように世の中のトレンドを捉えた経済方面の特集が多く、これが部数の安定を支えているのだろう。他方、タブロイド紙的なあおりを思わせる見せ方も少なからずあり、経済誌としての評価は分かれるところ。

今回最大の上げ幅を記録した「DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー」は元々アメリカ合衆国の経営学誌で、日本語版となる同誌では翻訳記事の他に日本独自の記事も展開されている。

↑ 印刷証明付き部数(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー、部)
↑ 印刷証明付き部数(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー、部)

部数動向はほんのわずかずつながら減少の傾向だが、2016年に入ってからは横ばいに転じたようにも読める。ここ数期ほどはやや大きな上下をしており、今期は前期からの反動が大きい。該当期間の発売号の特集を並べると「その戦略は有効か 転換点を見極める」「顧客の習慣のつくり方 なぜ、あの商品は売れ続けるのか」「課題設定の力」となる。恐らくは2018年3月号の「顧客の習慣のつくり方 なぜ、あの商品は売れ続けるのか」が人気を集めたように見受けられる。タイトルだけで見比べると、これが一番訴求力があるように読めるからだ。

前年同期比動向はどうだろうか

続いて前年同期を算出。こちらは前年の同期の値との比較となることから、季節変動の影響は考えなくてよい。年ベースでの動きなためにやや大雑把とはなるものの、より確証度の高い雑誌の勢いを把握できる。

↑ 印刷証明付き部数変化率(ビジネス・金融・マネー誌、前年同期比)(2018年1月~3月)
↑ 印刷証明付き部数変化率(ビジネス・金融・マネー誌、前年同期比)(2018年1月~3月)

全誌がマイナス、誤差領域を超えた下げ幅を示したのは「THE21」。

「週刊ダイヤモンド」は中長期的な動向としては安定期にあるが、今期も併せ最近の動きは気になるところ。

↑ 印刷証明付き部数(週刊ダイヤモンド、部)
↑ 印刷証明付き部数(週刊ダイヤモンド、部)

「週刊ダイヤモンド」のキャッチコピーは「書店で一番売れてるビジネス週刊誌」。今ジャンル内では「PRESIDENT」に続く部数だが、「PRESIDENT」は隔週刊誌であることから、少なくとも印刷証明付き部数が確認できるビジネス週刊誌では「一番売れている」で間違いはない。

同誌では社会生活の身近な、気になる一つのテーマに絞り、それに切り込むスタイルで特集記事を構成している。そして表紙に大きく描かれたそのテーマの見せ方が鋭く、大きな魅力となっている。部数動向は2013年以降では事実上横ばいで推移していたが、2017年に入ってから下落が続いている(今期では前期比でいくぶん持ち直したが)。同誌は電子版も同時展開していることもあり、読者の電子版へのシフトが進んでいるのかもしれない。アマゾンの売れ筋ランキングを見るとKindle本の雑誌、ビジネス・経済カテゴリーでは常に上位陣に顔を見せていることから、多くの人に購読されていることは間違いない。

コミック系雑誌では進んでいる、定期刊行の雑誌の時点における電子雑誌化も、今ジャンルでも少しずつだが確実に歩みを進めている。特にビジネス・金融・マネー誌は電子化との相性がよいので、読者の紙媒体からのシフトは大きな動きとなりうる。それに伴い今件「印刷」証明付き部数の動向が、その雑誌の勢いそのものを反映し難くなるのも仕方がない。上げ底をせずに厳密な電子版の販売数を合算した、総合的な刊行部数の公開が望まれよう。

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※印刷証明付き部数

該当四半期に発刊された雑誌の、1号あたりの平均印刷部数。「この部数だけ確かに刷りました」といった印刷証明付きのものであり、雑誌社側の公称部数や公表販売部数では無い。売れ残り、返本されたものも含む。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロで無いプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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