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日本の報道賛美の姿勢が顕著に…メディアと「報道の自由」への考え方の相違

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 報道の自由は守られるべき。では報道自身はその授権資格を有しているのか。(写真:アフロ)

・2018年では「報道の自由は常に保障されるべき」と考えている人は調査対象国すべてにおいて8割以上。

・現在の報道の姿勢では圧力をかけられても仕方が無いと考えている人は中国では8割強。タイが大よそ8割近く。米仏韓は肯定派がやや多いものの否定派との間にさほど大きな違いは無い。

・報道の自由は常に保障されるべきだが、今の報道は責務を果たしておらず、保障対象には当たらないのでは無いかとする認識が多々見られる。

一般市民がより健全で正しい判断ができる材料を提供するとの観点から、公明正大なスタンスを前提として、報道の自由は民主主義国家において保障されてしかるべきものとの認識がある。他方、報道の質の劣化や偏向化(の露呈)、不特定多数が情報発信・受信を可能とするメディア環境の変化に伴い、「報道の自由」が意味するものの再定義と現状認識への問いかけが世界各国で行われるようになっている。今回は新聞通信調査会が2018年3月に発表した、アメリカ合衆国やイギリス、フランス、中国、韓国、タイへのメディアに関する世論調査「諸外国における対日メディア世論調査(2018年調査)」(※)の内容から、各国の一般市民が考える、報道の自由に関する現状について確認を行う。

次以降の項目は「報道の自由」に関する問いに、同意(強弱)・反意(強弱)の計4択で答えてもらった結果。実際にはグラフの通り「無回答」もあるため、実質的には5択となっている。また「報道の自由」の文言そのものに対する説明は特に無いため、その言い回しから回答者が想像するものに対する思いが回答に反映されている。国によるイメージの違いも多々あるのは認識しておくべきだろう。

また日本の値は今件調査では無く、新聞通信調査会が別途行った「メディアに関する全国世論調査」(※※)(2017年11月実施)の値から抽出したもので、回答条件も異なるため、参考値以上の価値は無い。

まずは「報道の自由は常に保障されるべき」との問いに対する反応。

↑ 報道の自由は常に保障されるべき(2018年)
↑ 報道の自由は常に保障されるべき(2018年)

すべての国で8割以上が肯定意見を有し、アメリカ合衆国と韓国、タイでは9割を超えている。強い肯定意見が高い値を示しているのはアメリカ合衆国、フランス、韓国。他方イギリスでは5.3%、アメリカ合衆国では4.6%が強い否定意見を持っているのが印象的。中国では2割近くが否定意見。

続いて現状の報道に対し、その品質や内容、正当性を鑑み、圧力をかけられても仕方が無いとする意見に対する反応。

↑ 現在の報道を見ていると圧力をかけられても仕方が無い(2018年)
↑ 現在の報道を見ていると圧力をかけられても仕方が無い(2018年)

意外(!?)にも圧力を肯定する意見は中国でもっとも強く、強弱合わせて8割強に達している。強い肯定派だけでも3割強で、これも諸国で一番高い値。その他の国ではタイが大きめで大よそ8割近く。米仏韓は肯定派がやや多いものの否定派との間に大きな差は無い。「報道の自由は常に保障されるべき」の肯定意見が大きい国では、反意の声も大きめとなっている。

他方日本は他国と大きく異なり、肯定派が4割程度。強い肯定意見も唯一1ケタ台%と最少値で、強い否定派こそ韓国やフランスと同程度だが、弱い否定派は34.7%とこれも最大値。年齢階層別の回答値を確認すると(上記の通り日本のみ2017年の別調査によるもの)、10代では肯定派が6割強で20代から50代までが大よそ4割強、60代以降で3割台へと下落しており、年齢階層間の認識の違いも生じている内情であることが分かる。

続いて政府・国益とメディアとの関係。

↑ 政府が国益を損なうとの理由でメディアに圧力をかけるのは当然(2018年)
↑ 政府が国益を損なうとの理由でメディアに圧力をかけるのは当然(2018年)

具体的指標や例が無く、あくまでも一般論での話ではあるが、もっとも肯定的なのはタイ、それから少し下がる形で中国とイギリス。これらの国では7割台から8割台が国益のためならば政府がメディアに圧力をかけることを容認している。アメリカ合衆国は6割強、フランスや韓国は5割前後。

他方日本では参考値ではあるものの、賛意者は3割程度でしか無く、否定派は7割近くにもおよんでいる。

最後はメディアの暴走的行為に関する意見。

↑ メディアは報道の自由を振りかざしている(2018年)
↑ メディアは報道の自由を振りかざしている(2018年)

イギリスでは8割近くが肯定、韓国では7割強、アメリカ合衆国、フランス、中国、韓国、タイでも5割台から7割台が肯定派。

他方日本では諸国とやや様相が異なり、肯定派と否定派がほぼ均衡している。報告書の詳細値を見る限り、10代から50代までは肯定派が優勢で10~20代と40代は差異が大きく開いているが、60代以降は否定派がむしろ大勢を占める形。メディアの挙動への認識に関して、年齢階層間ギャップが生じている内情が見えてくる。

「報道の自由」の文言の定義が無いこと、各国でその言い回しに対する見解や意味するもの、指し示すものが微妙に異なる抽象的概念であることも要因だが、この結果が各国の「報道の自由」に対する姿勢の違いを包括する形で示したとは言い難い。他方、一般論として、それぞれの国における報道(と呼ばれる対象)への心服性を認識する観点では、よい指標となることは間違いあるまい。

あえて大まかにまとめるとすれば、「報道の自由は常に保障されるべきだが、今の報道は責務を果たしておらず、保障対象には当たらないのでは無いかとする認識が多々見られる」「しかし日本では報道の自由は常に保障されるべきで、今の報道はしっかりやっているから問題は無い、今の報道姿勢は許容できるとの認識が多分を占めている」となるのだろうか。

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※諸外国における対日メディア世論調査

直近年分はアメリカ合衆国、イギリス、フランス、中国、韓国、タイに対し、2017年12月から2018年1月に行われたもので、アメリカ合衆国・フランス・韓国は電話調査、イギリス・中国・タイでは面接調査で実施されている。調査地域は中国・タイは都市圏、それ以外は全国。対象年齢は中国以外は18歳以上、中国も同様だが70歳以上の回答者は1名のみのため属性別では除外されている。回収サンプル数は各国約1000件。過去の調査もほぼ同様の調査スタイル。

※※メディアに関する全国世論調査

直近分は日本国内において、2017年11月2日から11月21日にかけて住民基本台帳からの層化二段無作為抽出法によって抽出された18歳以上の男女個人5000人に対して、専門調査員による訪問留置法によって行われたもの。有効回答数は3169人。有効回答者の属性は男性1526人・女性1643人、18~19歳63人・20代274人・30代422人・40代567人・50代504人・60代601人・70代以上738人。過去の調査もほぼ同様の調査スタイル。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更を加えたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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