フルタイムの平均所定内賃金は30万4300円…一般労働者の賃金実情をさぐる
・一般労働者の所定内賃金は2017年では30万4300円。前年比プラス300円。
・女性の所定内賃金はおおむね上昇傾向。男性は今世紀初頭をピークとして漸減の動きもあった。非正規社員比率が増加しているのが主要因。
・男女間の所定内賃金は縮小の方向にある。
厚生労働省が2018年2月に発表した賃金構造基本統計調査の結果報告書によれば、2017年の一般労働者(フルタイム労働者。常用労働者のうち短時間労働者で無いもの。正規・非正規を問わず)の所定内賃金(所定内給与額。以後「賃金」と表記)は30万4300円となった。この報告書から一般労働者の賃金の実情を確認していく。
まず言葉の定義を確認しておく。「一般労働者」については次の通り。
・常用労働者…期間の定めの有る無しに関わらず1か月を超えて雇われている労働者か、日々または一か月以内の期間を定めて雇われている労働者のうち4月・5月にそれぞれ18日以上雇用された労働者。
・一般労働者…短時間労働者以外の者。
・短時間労働者…同一事業所の一般の労働者より1日の所定労働時間が短い、または1日の所定労働時間が同じでも1週の所定労働日数が少ない労働者。
「一般労働者」は正規社員以外に、派遣・嘱託・契約社員などの非正規社員も含まれ得ることに注意が必要。
また「賃金」とはあらかじめ定められている支給条件・算定方法によって支給された現金給与額から、超過労働給与額(残業代)やボーナスなどを除き、所得税などを控除する前の額を指す。言い換えれば基本給に家族手当などを足したもの。
報告書から取得可能な1989年以降、直近値となる2017年分に至るまでの賃金額と前年比推移を示したのが次のグラフ。
女性の賃金における堅調な上昇ぶりが目に留まる。2005年と2010年、そして2013年は前年比マイナスを示したが、それ以外はすべてプラス。1980年から1990年代と比べて上昇幅こそ縮小してはいるものの、上昇傾向にあることに違いは無い。
一方で男性は1990年代半ばまでは女性同様に大きな上昇カーブを描いていたが、それ以降は頭打ち。2001年の34万0700円をピークとし、漸減の動きすら見受けられた。
これは女性の社会進出・価値観の変化とともに、正規社員の減少・非正規社員の増加も一因。今件の「賃金」の対象には(短時間労働者は除外されているが)正規社員・非正規社員双方の社員が該当している。たとえ正規社員・非正規社員双方の給与がアップしても、(支払額の大きい)正規社員数の比率が減れば、その分全体の平均値は下がってしまう。女性は元々非正規社員率が高いため、男性同様に非正規社員が増加しても大きな影響は生じない。
このような動きに伴い平均的な一般労働者における男女間の賃金格差は縮小に向かいつつある。
もっとも古いデータとなる1989年時点では女性の平均賃金は男性の約6割。それが直近では7割強にまで上昇している。男性の賃金が横ばい、女性が上昇している以上、その差が縮まるのは当然の話で、全体的な評価は難しいところではあるが、女性の平均賃金が上昇すること自体は喜ばしい話に違い無い。
今回取り上げた「賃金」はボーナスなどと比べ、景気や企業の業績の影響を受けにくい。労働各法の定めにより、基本給を下げる場合には一定の条件を満たした理由付け、手続きが求められるため、経営側では安易に上げるのを躊躇する傾向がある。「ベースアップ」がなかなか行われず、一時金や賞与で調整される場合が多いのも、これが理由。
もちろん「賃金」の動向だけで無く、人員整理・再構築による正規社員・非正規社員の構成比率の変化や、高額賃金の高齢者の退職・再雇用など、労働者自身の周辺環境の変化も、賃金上昇率とともに考慮をしなければ、雇用される側の総合的な生活安定度を推し量ることはできない。また手取りの上では「超過労働給与額」(時間外勤務手当、深夜勤務手当、休日出勤手当、宿日直手当、交替手当)も追加されることを忘れてはならない。
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