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2017年の総広告費は6兆3907億円…電通推定の広告費動向をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 街を彩る数々の広告。その広告費の動向は。(写真:アフロ)

・電通推定による日本の2017年の広告費は6兆3907億円、前年比1.6%増。

・4マスではラジオのみがプラスでプラス0.4%、インターネット広告はプラス15.2%。

・広告費が伸び悩んでいる媒体は大よそ1990年代にピークを迎えた後に成長が止まり、今世紀に入ってから下げている。この時期は携帯電話やインターネットのような新メディアが普及し始めた時期と一致する。

広告費は増加、中身は二極化

電通は2018年2月に日本の広告費に関する調査報告書「2017年 日本の広告費」を発表した。それによれば電通推定による2017年の日本の広告費は総額で前年比1.6%増の6兆3907億円であることが明らかになった。

前年比からの上下動向では「インターネット広告」がトップのプラス1994億円、「ラジオ」のプラス5億円が続く。それ以外はすべてマイナスで、「SP広告/プロモーションメディア広告」のマイナス309億円が一番大きなマイナス幅となる。

↑ 媒体別広告費(2013~2017年)(単位:億円)(電通推定)
↑ 媒体別広告費(2013~2017年)(単位:億円)(電通推定)
↑ 媒体別広告費(2017年、前年比)(電通推定)
↑ 媒体別広告費(2017年、前年比)(電通推定)

2017年は世界経済全体の復調や企業収益の拡大、雇用状況の改善や円安化など景況感の継続的な回復といった背景の中で、広告費へのリソース配分の思惑も高まりを見せ、全体としては前年比でプラスを計上した。他方、広告メディアにおける技術革新、特にデジタル化への影響も大きなものとなり、進化の波に乗るメディアには広告費の投入が積み増しされ、立ち遅れたメディアへの投入が縮小する動きが数字となって表れた。

特に4マス(テレビメディア、ラジオ、新聞、雑誌)の中では唯一プラスを計上して目に留まる「ラジオ」だが、報告書では

・「radiko.jp(ラジコ)」は、認知の向上とともにプレミアム会員数が堅調に増加している。また、2017年にラジコ搭載のスマートスピーカーが発売されたことに伴い、利用者が増加しており、今後も接触者数の増加が期待される。

・全国各地でコミュニティ放送が定着してきており、堅実な広告収入の増加でラジオ広告費全体の押し上げに寄与している。

・オーディオメディアとしての基盤ができつつあり、デバイスを超えた接触機会が増えていることに加え、ラジオはライブイベントとの親和性が高いこともあり、統合的な販促キャンペーンに組み入れられる機会が増加している。

との説明がある。ラジオの特性が新技術との相性の上で優れていたこと、それを活かす施策がようやく芽生えてきたことが数字となって表れているようだ。特にスマートスピーカーとの連動は、スマートスピーカーそのものの市場が大きく拡大する様子を見せていることから、今後も大いに期待ができる。

1985年以降の動向確認

今報告書では1985年以降の主要媒体別の広告費一覧(あくまでも電通の推定によるものだが)も掲載されている。その値をグラフ化したのが次の図。なお2014年分から「地上波テレビ」と「衛星メディア」が統合され「テレビメディア」として扱われることになったため、過去の値も逆算した上で反映させている。

↑ 媒体別広告費とGDPの移り変わり(1985~2017年)(単位:億円)(左軸:各広告費、右軸:名目GDP)(電通推定)
↑ 媒体別広告費とGDPの移り変わり(1985~2017年)(単位:億円)(左軸:各広告費、右軸:名目GDP)(電通推定)

計測基準の変更により、2004年と2005年との間では厳密には連続性は無い(雑誌、インターネット広告、SP広告/プロモーションメディア広告の3項目で差異が生じ得る)。特に「SP広告(Sales Promotion広告。主要4マスと衛星メディア、インターネット広告「以外」の広告。DMや屋外、交通など)/プロモーションメディア広告」では変更年前後に大きな差異が生じている。突然、該当広告部門に大規模な変化が生じたわけでは無いので注意が必要。

長期の動向をグラフ化すると、(連続性を欠いた部分は別にしても)オーソドックスな「SP広告/プロモーションメディア広告」はそれなりに順調な伸びを示していたが、2007年の「金融危機」勃発以降は下降傾向にあった。今世紀に入ってから順調に成長を見せているのは「インターネット広告」のみとなる。「テレビメディア」は横ばいの動きに見えるし、「SP広告/プロモーションメディア広告」は天井感が否めない。

「雑誌」「新聞」「テレビメディア」のような伸び悩んでいる媒体に共通しているのは、1990年代後半(媒体によっては前半)にピークを迎えたあと(広告費の)成長が止まっており、 2002年から2003年あたりから下げ基調を見せていること。この「下げ基調」の時期は携帯電話やインターネットの普及など、新しいメディアが世間一般に浸透し始めた時期と一致する。利用者のメディア移行に伴い、広告出稿側も注力・広告費配分のバランス調整を行い、その結果が出たと見るのが無難ではある。

「広告費全体が削られているから4マスの広告費も減っている」との主張がある。しかしそれはさほど筋が通らない。報告書には総広告費も掲載されており、それによれば総広告費は名目GDPの伸びにほぼ連動する形で上昇。1985年と比べると2017年のそれは8割強の増加を示している。

↑ 総広告費とGDPの移り変わり(1985~2017年)(単位:億円)(左軸:名目GDP、右軸:総広告費)(電通推定)
↑ 総広告費とGDPの移り変わり(1985~2017年)(単位:億円)(左軸:名目GDP、右軸:総広告費)(電通推定)

また、この数年の動きをよく見直すと、新メディアの伸長に伴い、広告を出稿する側の企業による各広告メディアに対するバランス調整が行われているのが確認できる。詳しくは別の機会に譲ることにするが、新メディアとして成長を続けるメディアと、相対的・絶対的広告力が漸減するメディアとの間で、各企業による広告費のウェイトが明らかに変化しつつある(経産省の特定サービス産業動態統計調査からもその動きは確認できる)。昨今の金融危機や震災もまた、それらの動きを加速する一つの出来事に過ぎないと考えれば、この動きも容易に理解できよう。

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(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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