高齢者の交通事故死者数の実情を詳しくさぐる
・高齢者(65歳以上)の交通事故死者で一番多い事故時の状態は「歩行中」。次いで「自動車乗車中」。
・高齢者の乗車中の死者で多い法令違反は安全不確認。歩行中は横断歩道以外の横断違反。
・各年齢階層の人口10万人あたりの交通事故死者数でも高齢者は若年層と比べて多い。
警察庁は2018年2月に2017年中の交通事故の状況を精査した報告書「平成29年における交通死亡事故の特徴等について」を公開した。これを基に高齢者(65歳以上)の交通事故による死者数の実情を確認する。
次に示すのは高齢者の交通事故死亡状態別人数推移を調べた結果。例えば「自転車乗車中」なら、当事者(高齢者)が自転車に乗車中(=運転中)に事故に遭遇し、亡くなった事例である。
世間一般におけるイメージとしては「死者が発生した交通事故」なら、当事者が自動車、あるいは自転車運転中の状態が最上位のように思える。しかし実際には「歩行中」による事故を起因とするものがもっとも多い。次いで「自動車乗車中」、そして「自転車乗車中」が上位についている。
グラフ作成は略するものの、高齢者に限って死亡事故数が多い、そして全体における交通事故死者数の比率増加の要因と考えられる「歩行中の死亡事故」「自転車乗車中の死亡事故」に関して高齢者(65歳以上)の法令違反別区分(該当年齢階層人口10万人あたり)を「平成29年における交通死亡事故の特徴等について」から見ると、
●自転車乗車中死者
安全不確認…0.16人
ハンドル操作(安全運転義務)…0.14人
信号無視・一時不停止(両区分同数)…0.08人
(他に違反無し…0.14人)
●歩行中死者
横断歩道以外(横断違反)…0.37人
走行車両の直前後(横断違反)…0.36人
信号無視…0.16人
(他に違反無し…1.23人)
が上位3位を占めている。高齢者以外の割合とも傾向は大きく異なり(例えば高齢者以外の歩行中による法令違反別区分の最上位は酩酊(酔っ払い状態)などによるもの)、「自分自身の身体能力への過信、思い違い」が死亡事故の引き金の主要因であることが分かる。
自動車などを運転している人なら、横断歩道が無い場所なのにもかかわらず、堂々と道を横断するお年寄りに遭遇し、冷や汗をかいた経験が、一度や二度ならずあるはず。彼ら・彼女らは、「かつて交通量が少なかった時代と同じように(『渡り切るまで車など来ない』)」「以前の若い頃の自分のように素早く」渡れると判断している、または「自動車が来ても人間が歩いているのだから、止まってくれるに違いない」などと判断を下し、横断している場合が多いと考えざるを得ない。あるいはそこまでの思慮すら無く、単に「面倒だから近道をしてしまえ」との思いだけで突っ切ろうとしている可能性もある。
しかし「飛び出すな 車は急に止まれない」の標語の通り、横断中の人間を視界にとらえたドライバーが瞬時にブレーキを踏み込んでも、自動車はすぐに停止できない。結果として上記グラフに「カウント」されるような事態に陥った場合、本人はもちろん家族も、そして半ば巻き添えとなった自動車運転手にも大きな不幸、負担が襲い掛かることになる。
高齢化により高齢者の人口が増加するにつれ、事故対象者の絶対数、そして全体に占める割合でも高齢者が増えてしまうのは、統計学上仕方が無い(例:同じ1%でも100人ならば1人でしか無いが、1万人の場合は100人となる)。高齢者の死者「数」の減少が緩やかでしか無い、そして一部階層では増加する動きが生じている理由は、高齢者人口の増加と高齢者の交通事故死者率の高さにある。
次に示すのは「それぞれの」年齢階層における交通事故死者率。たとえば80~84歳は8.76と出ているので(全人口では無く)80~84歳以上の人・10万人のうち、2017年では8.76人が交通事故で亡くなったことを意味する。
しかし一方で「絶対数」の増加を「統計学上、仕方無い」で諦めてよいのか、との考え方もある。
高齢者の場合、「カウントされるような事故」の発生起因は上記のようにある程度特定されている。今後はこれらの対策への「これまで以上の」注力も必要となる。まずは徹底した啓蒙活動と、その成果が望める工夫、そして周囲の注意が求められよう。
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